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第四十七話 虚ろなる夢


「お、お言葉ですが――」と薄暗い室内でもわかるくらいに私の考えを察したセリアは震えながら、


「王とは……風格がなければなりません。

魔族では力ですが――人間では高い知性なり、人心を掴むすべが必要だと思います」


と言ったセリアは上目遣いでこちらを――私を見ている。


「ふふふ、そうね。

 もちろん、その通りよ」と私は部屋に備え付けてある照明に近づき、照明伝しょうめいづたえに”白痴の王子”を見やる。


 ――おおよそ、知性などないように口を開け、よだれ垂らしている。

 姿形などは神秘性やらそういう演出をすれば、整えられるだろう……しかし、言葉すら発生られない。

 いや、外界の情勢を判断する知能すらないのなら――それは傀儡かいらいの王でしかない。


「セリアはそこまで考えているかはわからないけど、私は傀儡の王なんてものに興味はないの……」


「……」


 セリアはどう反応をしたらいいか――その定まらない視線で私と”白痴の王子”をいったりきたりしている。


「そうね……わかりやすく、殿下の世界を見てみましょう」



――私の双眸に蒼い光がともらし、私とセリアをカーライヤ王子殿下の世界へといざなう。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・




 そこには何もなかった。



  ――無――


 色もなく、天と地すらない。


 黒もなく、白もない。


 しかしながらそこに波紋があった。


 生きとし生けるものであるなら、外界からの刺激が全くない……なんてことは断じてない。


 常人並みに外界を認識出来ずとも、


 まるで波紋のようにそのまなこで見た景色が……


 耳で聞いた音が……まるで波紋のように広がっている。


 ああ、なにやら”こんな世界”に見覚えがある気がする。




「お、お姉さま!?」


 とそんな一時の私の感傷かんしょうを吹き飛ばすようにセリアは私に抱きついてきた。


 現在のセリアと私はいわゆる《精神体せいしんたい》のようなものとなり、”白痴の王子”のいつもたゆたっている永遠にめぬ世界にお邪魔しているわけだ。

 どうやらセリアはこの無重力空間よりも定かではない世界で、その場でただ立っていることすら出来ずに泳ぐようにして抱きついて来たのだ。


「慣れれば、私のようにただそこにいれるようになるわよ」と私の両腕に引っ付いている指を一本ずつ引きがしていく。


「こ、これ……《精神体》ですよね?! 

 ムリムリですって!!

 このまま流されたら――あたし消滅してしまいます!! 

 ご、後生ごしょうですから……。

 やっ、指をはずしちゃらめぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 とその黒い髪を振り回し、必死な形相で懇願こんがんしてくる。


 こんなの……別に大したことないのに――と思いながらもセリアの指外しが面倒になったのでそのまま捨て置くことにする。


「ひぅ……怖かった――」と私にり寄っているセリアは王宮内では決してしなかった頭から二本のねじれた角にお尻からは尻尾、さらには水着のような格好にマントといった格好だ。


 なるほど――ここでは、いつも自らが認識している姿になるわけね。


「あ、あれ? お姉さまですよね?」と首をかしげるセリア。


「どうかしたの?」


「い、いえ、そのお姉さまの体を上手く認識出来なくて――」とセリアから困惑こんわくの声がれる。


 そういえば――自分の《精神体》なんて以前来たときは興味もなかったから見なかったわね……と思い、魔力眼を解き放ち――全身を見ようとする。



――そこには私に必死にしがみつく魔族姿のセリアに……、


 見えない……いや、認識できない?


 これはおか――”しくないわね”


「別におかしいことではないわ。

 他人の精神世界に入っているのだから。

 何があってもおかしくないわ」と早口でセリアにそうげる。


「は、はい」とどこか納得いかない顔でセリアはうなづく。


「そんなことよりも――殿下? お姿を見せてくださいませ」と波紋広がるうつろなるこの世界に呼びかける。



『―――――っ!』とどこかそよ風を感じさせる波紋が――”この世界の内側”から広がる。


「え?」


「ありがとうございます。殿下」とセリアが引っ付いたままお辞儀じぎをする。


「変わっていないのに――雰囲気が変わった?

 それにこれは――」


「ふふ、殿下の歓迎の意と言ったところかしらね」


「……」


 セリアは不思議そうに今の感覚を思っているようだ。



 私は両手を広げ、虚ろなるこの世界で――カーライヤ殿下に賛辞さんじを送る!!



「王に相応ふさわしいのは力?


 それともたぐいまれなる知性?


 はたまた王としての言葉?


 すべてしかり――されど波紋のように広がる殿下の御心みこころをあなたの臣下に伝えれば……さぞかし、あなたをたたえるでしょう!!


 このような王など存在しない!!


 ああ、唯一無二ゆういつむにの王の誕生です!!


 僭越せんえつながら、あなたのメイドとして指名された私が――殿下の御心を伝えさせて頂きます!!」




 ふふふ、はははは。


 まだ見ぬ物語に私は――『滅びを望む者』は歓喜の感情を隠すことが出来ずにいた。


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