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第四十五話 メイド


「そう……大変だったわね」と恰幅かっぷくの良いメイド服に包まれた40代後半のおばさんが相槌あいづちを打ちながら、親身になって私の境遇に同情してくれている。


「いえ、私など生きているだけで――っ!」とまるで涙をふき取るような仕草をしながら、なるべく儚げな印象が出るように表情を”作る”


 なんて――ちょろい……いや、人の良いおばさんだろうか。


 私の隣にいるセリアは緊張しているのか……一言もしゃべらずに――表情はカチンコチンに固まっている。

 そして、格好は私と同じ黒を基調にし、ところどころ白い線が走る華美かびではない――メイド服に身を包まれている。

 もちろん、相対しているおばさんも同じ格好である。

 今私とセリアはこの国――バラッド王朝の王宮にあるメイド達の控え室にいる。


 ――私達はメイドとして王宮内で給仕きゅうじをするためにこの場にいるのだ。


 正直……戦いだけに飽きてきたところだった。

 また、王宮に入れば、なんらかの情報も手に入り今後のことで役に立つのでは? という打算ださんもあった。


 まあ、考えの大本は私の盲打ちである。







「お姉さまはよくあんなに……ぽんぽん嘘がつけますね――尊敬します」とセリアがメイド服を悪戦苦闘しながら脱ぎながら――いわゆる半脱ぎの状態で私に話しかけてくる。


 今私達は初日の挨拶あいさつを終え、与えられた自分たちの部屋で着替えをしている。

 窓から夕日が差し込み、私達を赤く染める。

 ここは二階であるから覗きの心配はない――というより、無色の魔力眼まりょくがんを情報収集のため、いくつも放っているので……覗き防止のためではないのだが――万全ではある。


「要は慣れ……ではないわね。

 ただ、そうであると思い込めばいいのよ。

 あなたもなんだかんだで女でしょ?

 化粧と同じ――自然に溶け込むようによそおえばいいのよ」


「……あたしには難しそうです」とようやく脱げたメイド服をたたみながら、セリアは気難きむずかしい顔をしている。

 セリアは白く色気も無い肌着はだぎの状態なのだが――ブラなどはしていない。

 というのはどうでもよく、普通は女なの? といえば大抵の淑女しゅくしょ憤慨ふんがいものなのだが……馬鹿にされるような発言をされたのにまるで気にしたふうではない。


 まあ、私が言えた義理でもないわね――と内心苦笑しつつ、私も自分のメイドを脱ぎながら、部屋着に着替えようとする。


 私達の今の設定は――祖国そこくを追われ、魔族領域を命からがら抜けてきた……ということにしている。


 まあ本当に祖国である国は帝都をノーライフ・クィーンに占拠され、国は機能不全であるのは本当のことだし、魔族領域を――魔王との死闘で――命からがら抜け出してきたのも本当である。

 ついでに架空の親兄弟は適当にお亡くなりになってもらった。


「それにしても……思ったより簡単に入れたわね――」と黒い下着の状態からラフな部屋着を着ようとするが……やたらねばりつくような視線を感じながらも――気にせずのていをよそおう。


「は、はい。

 いえ、そうですね……きっと、お姉さまの美貌びぼうのおかげですよ」と視線の犯人であるセリアは私を持ち上げるような発言をする。


「それはあなたもでしょ」と自分の美貌にはまあ……確かにとは思う。

 でも、それは公爵令嬢としてそれなりにお金を掛けた――いわば養殖のものであり、セリアのような”天然もの”ではない。

 黒髪で色白のセリアは――市井しせいの男達であれば、一目ぼれするレベルあるのだが……、


 今の鼻息の荒いセリアはおよそ『千年の恋』だろうとめてしまうだろう。

 というより、身の危険を感じてしまう。


 まあ、セリアの闇魔法で私の装備や小物関係は全部収納してもらっている――いわば、『倉庫』代わりであるからして……これくらいは使用料金と思って我慢しようとは思っている。


「そ、そんなことないですぅ……」とまんざらでもない顔で腰をくねくねしながら立っているセリアを無視してベットに腰掛ける。


 この部屋は木のタンスに同じく木のベット――それと火の魔石が入った照明があるくらいだ。

 とはいっても王宮内なので部屋の作りなどはしっかりしている。


「うん?」


 こんなもうすぐ夜のとばりが落ちようとしている中――窓から見える花のアーチが幾重いくえにも成されている中庭に人の姿が見えた。


 気になった私は魔力眼をその人物の近くに飛ばし――音と映像を拾うことにする。


 このは――王族?


 白い腰まで伸びた髪には特に髪止かみどめなどはされておらず、その細めた赤い双眸そうぼうは自分が撫でている者に慈愛じあいの視線を向けている――十代後半であろう少女は群青ぐんじょうのドレスに身を包み、中庭のさすが王宮といわんばかりの噴水近くに腰掛け、ひざに乗っている者――まるでぼろぼろの布服を着ている年は八歳くらいだろうか? ……その幼女の足まで届くだろうあかつき想起そうきさせる髪をでている。


 この国の王族のあかしである赤い瞳に真っ白な髪をしているが――市井に流れている情報でこの少女の情報はなかった。


 ということは――この娘も奇形? 

 知的障害とか……でも、その瞳には知性が宿っているようにみえ、一見いっけんには健常者にしかみえない。


 その少女に膝枕ひざまくらをされている者が眼を見開き、”こちらをみている”



 嫌な予感がした私は――瞬時に魔力眼をその場で破壊して魔力糸も寸断する!!



 その切れる刹那――『……お母様?』と白髪はくがの少女だろう声が聞こえた。





「聞き違い?」と思わず声に出してしまう。


 魔力眼に視線をやった――白髪の少女に膝枕されていた幼女はその金色の瞳で”こちらをみていた”


 それから私はなるべくこの幼女の近くまで魔力眼を近づけないことに決めるのだった、

 単なる勘だが……それも重要な判断材料だろう。

 セリアが私にいろいろ話し掛けてきたようだが――魔力眼使用中のため、存在をシャットアウトしていた。

 よって、金目きんめの少女について考え終わった私の目の前にはどんよりしたセリアの姿があった。


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