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第四十四話 馬鹿剣

「お姉さま……実は魔王の鎧を回収しているんですよ」


「……そう」とワンテンポ遅れて私は反応する。


 現在、私とセリアは魔族の支配地域を抜け、北にある――とある国の都市にある市場を歩いていた。


「……」


 セリアはどこかそわそわしており、私の様子をうかがっている。

 まるで愛玩犬あいがんけんの瞳のようになってしまったつぶらな黒い瞳が”ご主人様! ほめてほめて!!”と訴えているが――放置プレイをすることにする。


(「昨今さっこんの若者はどうも、自ら考えていることを何も言わずにさっしてほしいと思っている人間が多すぎる――って私も若者だったわね」としょうもないことを思いつつ、かつ不安そうになりつつあるセリアの表情を内心ででつつ――失った自分の武器の代わりを求めて武具店を探す。


 この都市とも呼べる場所に来た理由は武具の調達+ゲーム上にない情報の収集だ。

 今いる現在地は帝国を北上し、魔族領域を超えた辺りだ。

 そのためにはこの国の関所を越えなくてはならなかったのだが……まあ、私のスペックだと夜に壁越えなんて朝飯前――セリアをお嬢様抱っこしたら、セリアはまるで王子さまに抱っこされている乙女の目をしていたような……百合属性でもついたのかしら?――だった。


「あった」


 私の目の前には、いかにも金持ちがご用達ようたつしていそうな立派な店構みせがまえの武具店があった。

 ガラス張りのディスプレイの中には私が以前持っていた円月刀よりも立派な――帝国の近衛騎士団長の装備していたオリハルコンの大剣が飾られていた。


(「お金があれば、市井しせいの者でもオリハルコン装備を買えるなんて――さすが武具・防具のメッカと呼ばれる国だけあるわね」


 ミレット知識では、オリハルコンなどの製法又は精錬方法はこの国――バラッド王朝おうちょうで門外不出になっている。

 ……王朝ってその時代って意味だったような、まあ、現代日本のにわか知識しかないエセ文学少女では疑問に思っても正解は導き出せないか。

 ちょっと小遣いを渡して貧民街スラムの子供に聞いたところによると、代々血筋によって王家は存続しているらしい――さらに貧民街の大人(子供にお金を渡しところ見られてよってきた輩)にもお金を渡して聞いたところによると、王家の血を何よりもとうとぶらしく……”いわゆる近親婚かつ三親等以内での婚姻”がなされているらしい。

 また表舞台に出てくるのは序列関係なく、一部の王族なのだそうだ。


(「まあ、現代日本の知識がある私の推測では、奇形児が生まれているのでしょうね」


 血が濃くなれば、その危険が高まるのはにわか知識で十分わかることだ。

 まあ、それは今は関係ないので捨て置くとして――


「うーん、お金が足りないわね……」


 武具はいいものを使いたい――が、オリハルコン装備は高かった。

 具体的に言えば、かつてあった祖国である帝国の下級貴族の領地が傾く位の値段だった。


「稼ぐ……いや、作るというのも――」


 セリアがそういえば、魔王の鎧があるといっていた――それを剣に出来ないだろうか?


「セリア……鍛冶屋に行くわよ。店前までいったら周りにばれないように、鎧を出しておいて――セリア?」と闇魔法の亜空間に仕舞っている鎧を出す段取りの指示をセリアにしたのだが……応答がない。


「……はっ!! は、はい。喜んで!!」と遅れて私の声を認識したセリアの死んだ魚のような眼が次第に生気を宿していった。






 結論から言って、三日ほどで魔王の鎧を剣――いわゆる魔剣にすることが出来た。


 そういえば、レティたち3人を放置しているわね……”何故かスカーレットとエミリアを大事に思っていたような気がする”けど――私にとっての最優先はこの膨れ上がった破滅願望を満たすこと……そのついでに彼女らの死の運命を回避できたら、それはそれで物語としては面白い程度に過ぎない。

(「ああ、そうね……私が放置している所為でどう動くかも見ものかもね。


 ――動かなければ、私が向かいに行けばいいし、


 ”もし本物のカインと遭遇してしまった場合”の仕込みはしておいたから……今まで通り魔力眼で定期的に確認すればいいわね」


「お、お姉さま……」と現実逃避していた私にセリアが話し掛けて来る。


 現在はこの都市の宿屋の私たちがとまっている一室であり――


『ミレット、無視はせんといてーな』と馬鹿剣が私にノーライフ・クィーンがしていた念話のようなもので話しかけてくる。

 ご丁寧にセリアにも聞こえるようにしているらしい。


『もう一度言うで――わいを使う条件は


 1.毎日、ミレットが全裸でわいを洗うこと。


 2.毎日おやすみのちゅーをわいにすること――「もういいわ」……へ?』


 私の双眸に蒼い光がともる。

 毎度同じ――怠惰の力を行使する。


『魔眼かい?! ちょ……ま、ち――』と不埒な発言をしたものは――ただのしかばねのごとく物言わなくなった。


「ふぅ、静かになったわね」と安堵の溜息をつきながら、私は先程からセクハラ発言を繰り返していた剣をみる。


 ベットに立てかけられている黒い剣――まるでクワガタを想起するような一本の私の足先から腰ほどの長さの剣に、横から二本の角のようなものが生えている。 実は剣を鍛冶師からもらったときは普通の剣だったのだけど――なぜか宿屋についたあと、二本の角のようなものが生えてしまって、さやを破壊してしまった。


 そして、セクハラまがいの発言をする剣になってしまったのだ。


「お姉さま、言いにくいのですがきっとこの剣は魔剣です。

 剣本人より効果などを聞いたほうがいいと思いますが――」と進言してくるセリア。


「別に必要なときでいいわよ」と私が言えば、セリアは「……そうですね」と言って沈黙した。


(「オリハルコンに近い方法で魔王の鎧を精錬したと聞いたし、硬いはず――魔剣というものに心躍る部分はあるのだけど――」


 口から生まれたようなおしゃべり加減かつセクハラ発言に――いくら私でも辟易へきえきしてしまった。


 私の中で馬鹿剣というのが頭に定着してしまった。

 剣の素人である私にとって剣は硬ければそれでいいのだが――この剣を握るのはやだなぁと思うのだった。

 


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