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第四十二話 鬱憤


 その廃墟――以前にあった人間と魔族の死力を尽くした戦争の結果、壁や天井などがところどころ穴が開いている魔王城跡地は……魔族そして魔物の死体が死屍累々(ししるいるい)とさらされており、傷口や血の乾き具合からいってまだ命を奪われたばかりというのがわかる。


 その死体たちはよくみるとある広間――魔王の間に侵入者を行かせないようにしていたのがわかる。

 何故なら、魔王城入り口から魔王の間に最短距離で一直線に死屍累々と魔族・魔物たちが死体をさらしているのだから。





 数百人以上はまるごと収納できるであろう……魔王の間では――炎・氷雪・雷などなどあらゆる高位魔法があるものに向かって放たれていた。


 左手を腰にあて右手のみで放っている人物は――頭には黒いバイザーをしており、バイザーの中央の十字の隙間からは八つの赤い眼がみえる。

 そのことから、人間ではなく魔性ましょうのものということがわかる。

 されど姿形は人間であり、全体的にまるで甲殻類を思わせる黒い鎧を着ており、背のほどは5mほどの巨体。

 身に付けている赤いマントそしてその者の後ろにある黄金の玉座はかの者に王者の風格をかもし出させている。



 ――その者はこの大陸に災厄を巻き起こし、人間・獣人の国をいくつも崩壊させた元凶。


 勇者ザンガ、聖女マチルダ、かの大賢者によって封じられていた魔王――ベルゲル・ワーレット。


 対して、致死の魔法にさらされながら、全てぎりぎりに避けて優雅さなどない山賊のような格好の貴族令嬢――ミレット・ガーファイナスはその銀色の髪を躍らせながら無様に転がり、なんとか避けつつ、魔王に近づく。


『…………』


 魔王はその複眼で自分に近づく、さながらコバエの動向を見ているように身じろぎ一つせず――ミレットの円月刀が眼前に迫っても……それは変わらなかった。


「……やぁああっ!!」とミレットから振るわれる円月刀は魔王の首に向かうと思われたが、


 ”がきんっ!!”と当たり前のように弾かれる。


――円月刀がはじかれる一瞬間、透明の邪悪な悪魔の意匠のされた三枚の盾が垣間かいまみれる。


「ふっ!!」とミレットはその一撃が済むと当たり前のように全速力で離れる。


 まるで先読みしたようなミレットの動きは正しく、ミレットが先程剣を振るった場所は次元が裂けたような切れ目が出来――またすぐに元に戻っていく。



 魔王はくぐもった威厳のある声で、

『いつまでこんな大道芸をするつもりだ』



 しかし、ミレットは「はぁはぁはぁ……」とその言葉に返せるだけの余力などなかった。

 一瞬の判断ミスが死の直行便であり、なのに――ミレットは楽しくて仕方ないように笑みを浮かべていた。


『道理に合わん。何が目的でわれを復活させたのか。まあいいか……』


 ミレットが魔王の猛威を避け、魔王の不可視の盾に円月刀を打ち込むのはこれで都合10回目なのだ。

 もし、魔王が本気を出していたのなら、広域魔法によってミレットは彼女自身が作ったここに至るまでの魔族や魔物と同じようにしかばねさらしていただろう。

 復活した魔王が自身の力を確かめるように、戦っているためにこのような状況が出来ているに過ぎない。

 しかし、魔王がたわむれに放っている様々な属性魔法はどれも致死に至るもので、勇者ザンガとて聖女マチルダの神聖魔法の加護がなければ、例え避けれるとしても安心マージンのなさに戦法せんぽうを狭めざらるえないだろう。


(「ゲーム上はレティの支援によってカインは魔法など気にせずに戦えた。

 よって難易度はある意味高いのかもしれない。

 回復魔法などの支援などもないしね」


 そもそもミレットは剣士であり、回復魔法の使い手が必要だということでレティシアを手駒に加えたはずなのに必要な場面で連れてこようとしない。


 それは――


(「そんなイージーゲームつまらない。


 安心マージン?


 なにそれおいしいの?


 この程度で破滅するなら――所詮しょせんその程度に過ぎない」


 ――だって、”この程度で死ぬ”なんてとても思えない。



 狂ったミレットの思考は大多数のものから死にたがりにしかみえないだろう。


 よって――魔王復活の触媒にされた少女は冷たい石の床に横たわりながら、破滅を望む少女の身をうれいていた。



「ぉ、お姉さま――」


 魔王の娘そして魔王復活の触媒――生贄にされた少女エクセリアは衰弱しており、かすれた声を出すのがやっとで、自らをこの状況に追いやった元凶の無事をただただ祈るようにみていた。

 それはさながら幼い子供が母親をみるようなものだった。

 エクセリア自身は気づいていないが、彼女はミレットを母のようにみており、天王寺菫てんのうじすみれの世界風に表現するのなら”虐待されている幼子がそれでも母親を守ろう・したおう”とする。

 そういう精神状態といえた。


 エクセリアは魔王とミレットが自分など気にせずに戦っていることをわかっており、魔王の魔法に巻き込まれなかったのはたまたまであると理解している。

 現に至近距離での魔王の魔法に晒され、吹っ飛ばされること数度、生きていること自体奇跡に等しい。 魔王が完全復活されていたのなら必ず自分が死ぬということを理解していたため、この状況をエクセリアは俯瞰ふかんして見れている。



『力も完全に戻っておらんが――勇者が死んでいるのは僥倖ぎょうこう』と全ての赤い複眼を細め、魔王は自らの天敵がいなくなった事実に歓喜しつつ、ミレットに向け狙いすまして――魔法の連続攻撃をはじめる。


 またしても、ミレットは魔王の致死の高位魔法を避けつつ、円月刀を魔王に打ち込もうと向かってくる。


(『そろそろ仕舞しまいにするか……まるで”我の癖を知っている”が如き動きにいささかムキになってしまった』


 魔王は単発魔法をあてるのにこだわり過ぎた自分を恥じ、これであたらなければこの大道芸を見納めると決めた。



 そして、さきほどの光景の焼きまわしのごとく、ミレットの円月刀が魔王に打ち込まれ、透明の邪悪な悪魔の意匠のされた三枚の盾が出現して防がれるが――



『むっ』


 魔王は気づく、三枚の盾の内一つが出現したまま――消えないのだ。


 数秒後――ぱりんっ!!と音を立てて、出現したままだった盾は消滅した。



『やってくれたな。小娘』



 ヒットアンドウェイよろしく十二分な距離――10mほど離れたミレットは円月刀を上段に構えて魔王の動向をみている。



(「いわゆる蓄積ダメージ……魔王の盾は一定ダメージを受けたら消滅するのはゲーム上とやはり同じだったわね」


 まるで勝ちを確信したような笑みをミレットは魔王に向ける。


『……ふん、くだらん』


 魔王は残り2つの盾に加えて、自身が身に付けている鎧にも自信を持っていた。

 そもそも本気になれば、数秒で潰せる相手……ゆえに――


『死ね』


 魔王は今までの高密度の高位魔法ではなく、密度は減らし、闇の球体を右手の手のひらの上に構築する。



『ダーク・インパルス』


 魔王はその言葉と共に闇の球体を右手で握り潰す!



 ――魔王を中心に闇の波動が外に向かって魔王の間全体をおおい尽くさんとする!!


 その猛威は魔王のそばにあった黄金の玉座を闇の奔流ほんりゅうで消滅させ、あらゆるもの――塵芥ちりあくたすら逃さず消滅させながらミレットの元に向かう。


 ちょうどミレットの後ろにエクセリアがおり、言葉には出していないがここで「お姉さまと共に果てるのもいいかもしれない」という具合の穏やかな顔で自分の死期を悟った様子である。


 ――だが、ミレットは諦めてなどなく、剣を上段に構えたまま、闇の波動に向かって走り出す。



 ミレットが構えた円月刀が――透明な光を放っていた。



 闇の波動がミレットの身体を襲う前にミレットは剣を振るう。



「やぁああああああ! 奥義『永遠なる透明世界エターナルクリアワールド』!!」


 

 かつて勇者ザンガが放った透明な斬撃ざんげきがミレットから放たれる!!



 透明な斬撃はいとも簡単に闇の波動を切り裂き――魔王に向かって伸びていった。



『なんだと?』


 魔王はミレットと対峙たいじしてはじめて驚きの声をあげる。


 魔王を守る残された二枚の盾が出現して透明な斬撃とぶつかり合う!!



 ――魔王の盾一枚のみを消滅させると共に透明な斬撃は消えてしまう。


『貴様如きが勇者の奥義を――だが、情報不足だったようだな』



 魔王の不可視の盾は一度の攻撃の総ダメージ量が一枚分の許容ダメージを超えたとしても、一枚の盾を消費するだけで防ぐ概念で出来ている。

 よって――魔王の身体に届くことはない。

 勇者ザンガとてこの三枚の盾は”永遠なる透明世界”使わずに攻略したのだから。


『うん? 待て』


 魔王はおかしいことに気づく、魔王は盾三枚を破壊されその身に勇者の奥義を受け、封印された。

 そのときの勇者は全ての活力を失ったような状況だった。



(『なのに――この小娘は何をしている』



 ――ミレットの剣は”いまだ透明な光を宿していた”


 あまつさえ、まるで奥義によって生命力を全く枯渇したようにみえず、


 さらに――二撃目の『永遠なる透明世界』を放ってきたのだ!!



『馬鹿な!?』



 魔王を守る鉄壁の最後の盾に――透明な斬撃が届き、相殺する。


 魔王を守るものはなくなった。


『なんだ――これは』


 ミレットは当たり前のように三撃目の『永遠なる透明世界』を放つ!!


 魔王はそのありさまに呆然とするが――瞬時に頭を切り替え、今ある全魔力を練って3mほどの闇の力で出来た大剣を作り出す。


『ぬおおおおおおおっ!!!!!』


 魔王の大剣と透明な斬撃がぶつかり合う。


『ぐぬぬぬっ』


 魔王とてただ封印されていたわけではない。


 自分を破り、封印するきっかけの技を抑えるすべを編み出していた。


 ただ、魔力量が全盛期に程遠いため全ての魔力を搾り出さなければならなかったが――。


(『これで三撃目……さすがにもう撃てんだ……ろう」


 魔王は見誤った。受けるのではなく、回避すべきだったのだ。

 長らく自分の天敵など存在しなかったために回避という方法をとるなど埒外らちがいだったのだ。

 矜持きょうじもあっただろう。 しかし、あの勇者を数段超える人間の登場など彼にとって想像もつかなく――故に敗れる。



 ミレットから四撃目の『永遠なる透明世界』が放たれる!!



 三撃目を抑えている魔王に防ぐすべはなく、魔王の全魔力を持って生み出された大剣ごと消し去り、三撃目と合わさって十字の斬撃に昇華する――そして魔王の身体は四等分される。



 そして――魔力を失った魔王は何が起こったか理解する暇もなく……鎧を残し、消滅した。



「ま、魔王を滅した?」と徐々に自然回復してきたエクセリアは信じられない光景につぶや)く。


 たった一人で魔王を倒すという規格外の出来事――さらに封印という手段ではなくだ。


「ま……あ、だいたいは……たいざいの……おかげ……よ」と言ってミレットは意識を手放し――床に倒れる。


 それと同時に円月刀は床にぶつかり砕け散った。



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