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第三話 キズモノ

 レティを連れて公爵家の屋敷に帰ってきた私だったが……門の前で立ち往生(おうじょう)していた…犯人は先程私の奴隷になった少女だ。


「ひぇぇ、な、何このお屋敷?! ミレィって何者?!」と馬車から降りたレティはこぶしが入りそうなくらいの大口おおぐちを開け、引きつった表情をしている。せっかく着飾ったのに台無しだ。淡い青色のワンピースに、黄色のリボンをワンポイントにしてのショートポニー、黙って花が咲き誇る原っぱなどにいればさぞマッチする少女になったのだが……ほんと黙っていれば。



 まあ、レティが驚くのも無理はない、腐っても公爵の屋敷である。 帝都の城と比べると小さいが一般家屋が30ほど飲み込めるくらいの広さがあるのだ。


「いえ、しがない悪徳公爵令嬢ですので」といい加減しびれを切らした私は「きゃあっ」と言うレティを押し退()け先に進み、そそくさと門番が今しがた開けた植物のつたで飾り付けされた門を抜ける。


「ぜんぜんしがなくないよね!? それに悪徳ってなにさ!!」


 レティは私のあとを屋敷の門を抜けてすぐのバラの庭園(ていえん)、移動して屋敷の中をきょろきょろ見ながらもついてくる。



「なんでしょうね?」と私は誤魔化しつつ、言葉で固定観念を植え付けた後――「一応、私の個人情報は許可がない限り言わないこと、いいわね?」とスカーフで誤魔化している彼女の奴隷の首輪の方をみながら言う。


 奴隷の首輪の主の登録を済ませてあるので彼女は首輪の強制力で私に逆らうことができないし、私の命令にも逆らえず、生殺与奪権を私に握られている。よくあるファンタジー小説のテンプレよろしくそういう魔法がかかった首輪を奴隷はつけることが奴隷には義務付けられている。わが国では奴隷は物であり、生きるも死ぬも主人次第である。


「わーってる。わーってる。うはぁ、わたしより高そうな壷とかばっかね〜」


 わかっているのだろうか……自分の立場を。確かにさほど私には気をつかわなくていいという趣旨のことを言ったが認識を持ってないか別問題である。


「はいはい。屋敷の中はいつでも見れるから私の部屋に向かうわよ」とレティの首根っこを掴んで引きずる。


「うわぁ、ちょっやめ、足が絡まって!!」とおかしなダンスを披露するレティを引き連れて自分の部屋に向かうのだった。






「そういえば、馬車にはミレィと御者しかいなかったけど、護衛はどこにいたの? やっぱり物陰に隠れて護衛してたのかな?」とベットに腰をかけ、足をぶらぶらしながらゲームのヒロイン(レティ)はそんなことを聞いてくる。というか、ベットの上は椅子ではないし、外から戻ったら衣服が汚れるのだから部屋着に着替えない限りベットには……はぁ、細かいことは捨て置きましょう。


 こういうずぼらなところが男受けするのかもしれない。


「……別に護衛なんていないわよ。弟が家督を継ぐし、何よりキズモノの令嬢の扱いなんてこんなものよ」


「キズモノ?」と不思議そうに聞くアホの子にわかるように説明する。


「数年前の街中の視察のときに、身代金目的の人攫ひとさらいにさらわれて暴行されたのよ。まあ、公爵領の私兵団によって救助されて命だけは助かったけどね。どこから漏れたのか……貴族社会で知らない人はいないわ。まあ、両親にとって政略結婚に使えない私は用済みってこと。養子でもとった方が無難ね」


「ご、ごめんなさい」としゅんとして謝るレティ。


「別に気にしていない」 これは本当だ。現代日本の記憶によって、ミレィの悪役令嬢になった根幹であるこの出来事は客観視できるようになった。もうなるようにしかならないし、あれね……本人とっては耐えようにない出来事であっても他人してみれば大したことない――とは違うけど、自分とは切り離して考えることができるようになった。二つの記憶を持って別人にでもなったのかもしれない。


「それにしても……あなたは生娘きむすめね」と私は先程の返答をからかう。レティの隣に――ベットに行儀悪く仰向けになって寝転(ねころ)がる。


「きききき、生娘ちゃう!……くない」とレティも寝転がりながら私の頭を自分の胸に抱え込むように抱きついてくる。


「……なに、この余分な乳袋ちちぶくろをこれみよがしに押し付けて、嫌味? 嫌味なのね?」とレティの大きな胸に顔がサンドイッチされながら不平不満を言う。まあ、胸の大きさなど大して気にしてないけどね……本当よ?


「な、なんだかひどい言われようだな〜。別に好きで大きくなったわけでないし〜」


「……ふん」大方私の暴行うんぬんの話で同情でもしているのだろう――「ありがと」と思ってもない言葉(虚言)が私の口から出る。「どういたしまして」と嬉しそうに微笑むレティ。虚言ならしかたない……この自己満足娘に束の間の余韻に浸らせてあげましょう。


 私は目を閉じるのだった。


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