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第三十八話 ぶれ


「ねぇ、カイン。スカーレットちゃんは元気だった?」


「ああ、元気だったぜ」と返しながら、馬車の御者台には偽カイン姿の私とエミリアがいる。

 一緒でなければ嫌だとダダこねたためだ。

 自分でもなんだか甘い気がするが――それを許すことにした。


 今はレティたちがいる町を目指し、馬車を走らせている。


 木枯らしが私たちをおそうため、厚手のマントに私たちは守られている


 そろそろこの世界も冬だ。

 帝国では滅多に雪が降らないけど、北のほうの国では降るようなことを聞いたことがある。

 いっそのこと混乱する帝国が抜け出し、ゲーム上では存在することしかわからなかった場所にいくのもいいのかもしれない。

 盤面を壊しただけでエミリアとスカーレットの死の運命から救えたわけではないだろう。

 もっと確かなものを得たいものだ。


(「正直、アンナローゼがこちらに興味を持っているのは目に見えているというのも帝国を抜け出したい理由の一つね」


 ノーライフ・クィーンが持つ大魔道の知識には興味はあるが――出来れば、本物カインに討伐してもらいたい。

 なので邪魔者はいなくなったほうがいいと思うのだ。



『それは本当につれないな……同士”破滅を望む者”よ』


「なっ!?」と急に二重のアンナローゼの声が頭に響いてきて驚いてしまい、エミリアが「どうしたの?」と聞いてくるが「なんでもない」と返し、平然とした態度をとる。


『これは驚かせてしまったかね。人と混ざり合うことがなく、よく機微がわからないのだ。ちなみに頭で思い浮かべるだけで話しができる』


(「いえ、急なことで驚いてしまっただけよ」と本当に平然と返す。


『やはり、適応能力が高いね。実にいい』


(「お褒めいただき恐悦至極きょうえつしごくね。それでノーライフ・クィーン……なんのようかしら?」


『ああ、これから僕は休眠期間に入るのでね。同盟者の君に断りを入れておこうと思ったのだよ』


(「へぇ、実に人間くさい言動ね」と皮肉まじりにいうと――


『いやいや勘違いしないでおくれ。今城に来られても、意図せずに殺してしまうかもしれないんだ。そのためだよ』


(「それは……なんとも立派な理由ね」


『わかってもらえてよかったよ。先代の教訓をかして少し休むことにした。これで僕の未知もまた少し晴れるよ』と言った後、通信は来たときと同様一方的に切れてしまった。


(「それにしても――こんな遠くまでに言葉を飛ばすなんてね。先代? ワーカホリックだったのかしら」


 私とて魔力眼をアンナローゼのところに飛ばすことは可能だろうが――双方向に意思疎通できるのはそれと一線を画する。

 追加でノーライフ・クィーンの尖兵せんぺいとなった者は多いのだろう。


「ちょっとー、弟くんはお姉ちゃんの話聞かないと駄目だよ!」とエミリアに揺らされる。


「危ないだろう……あと、その弟くんはなんとかならないのか?」と聞くと、


「ならないよ。それよりもお姉ちゃんと呼んでって何度も言ってるのに――」


 エミリアは口をとがらして抗議する。


 私は曖昧にそれを誤魔化し、(「それは永久欠番だから無理ね」と思うのだった。


 そして――ミレットとしての心残りが一つ出来てしまった。


 エミリアの弟に触発されたのだろうか――ガーファイナス領に残した弟についてだ。

 かつてのミレット同様に部屋に閉じこもっていることを気まぐれで飛ばした魔力眼で確認済みだ。

 どうやら、お父様とお母様がアンナローゼに殺されてしまったことが使用人たちの話から把握している。帝都の剣術大会を夫婦揃って見に行っていたらしい。

 帝都はこの有様だし、当主としての責務が一気にいったようだ。

 まだよわい13の少年には重責だろう。


(「はぁ……なんで、元凶たる私が弟の心配をしているのだろう」


 私はぶれているのではないかと思うと同時に、これがあらゆる物語を愛する弊害とも認識する。


 そんな気持ちを抱えたまま、一路――仲間たちと合流しに馬を急がせるのだった。



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