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第三十三話 死都脱出

「カイン!!」


「カインさん!!」


「お兄様!!」


 私の登場に黄色い声をあげる――宿屋の壁に追いつめられていた3人に苦笑いしながら、偽カイン姿の私は3人に指示をする。


「待たせたな。とりあえずここから脱出するぞ。

 マチルダは結界の維持だな……俺のことは気にしなくていい。

 セリアは俺が露払いしたのが漏れたときは頼む。

 スカーレットはマチルダを背負って移動してくれ」と的確に指示をし、3人が無言で頷いたのを確認したのち――ガイコツたちに包囲されているのをものともせずに移動を開始した。 カタカタと音をたてるガイコツたちは不気味で夜の闇と合わさって、まるで自分たちこそ――この場の主役と主張している。


(「目指すは東門ね……まあ、どこでもいいのだけどね」と私が先頭に立ち、ついでマチルダを背負ったスカーレット、殿しんがりにセリアという構成だ。


 帝都は中心に城があって、帝都自体は大の男が二人が肩車すれば届くくらいの高さの壁で覆われており、東西南北にそれぞれ門がある。

 現地点のことを考えると正直どっちでもいいのだが――気分的に東な感じだった。


 私は縦横無尽(じゅうおうむじん)に円月刀を振るい、道を作っていく。

 鎧を着たガイコツや魔法使い風のガイコツ以外もギャラリーとして周辺に集まってきている。

 そのガイコツたちは時間的なこともあって寝巻きを着ているものがほとんどで老若男女問わず、ただたたずんでいる。


 その眼のない双眸そうぼうからはノーライフ・クィーンへの怨嗟えんさを訴えているように感じる。

 命を奪われ、自由意志を奪われ、魂を掌握された哀れな存在。


(「ああ、大本の元凶がここにいるというのに――それを把握できないのは、いと悲しきかな……ね」


 願わくは私を呪って欲しいし、恨んで欲しい。

 こんな一方通行な惨劇は物語としてはおいしくない。

 私には殺す覚悟も殺される覚悟もある。 一方通行な想いは切なくなってしまう……なんてね。

 


 白銀の鎧を着たガイコツたちは帝都防衛の要の白銀騎士団の面々だろうが――魔法使いが接近されて焦って振るう如き剣など、素人でも対応できるレベルだ。


「おい、カイン。これはどういう手品だ?」と私の後ろにいるスカーレットが聞いてくる。


「なぁに、聖獣の力を拝借しているだけだ」とうそぶく。

 まあ、正確には大罪の召喚獣だ。


「どうやっているのかはわからない……どうみてもあたしより使いこなしている」と地味にショックを受けている大罪の主のセリア。


 ガイコツ兵やガイコツの魔法使いが不自然な動きをしている種は――嫉妬の召喚獣の”魔力眼”だ。

(「王城で使い続けた所為せいか……魔力眼と私との繋がりが見えるようになったのよね」


 無色透明な魔力眼――近衛騎士団長とのときにも活躍した力だが、別にこれは私から完全に独立しているわけではない。

 イメージとしては常に糸のようなもので私と繋がっている。

 よって勝手にそれを”魔力糸”と命名する。

 王城から抜け出すときに、その魔力糸がガイコツたちに繋がっているのに気づいたのだ……ほぼ十中八九繋がっている先はアンナローゼだろう。


(「それで思いついたのが……私の魔力眼の魔力糸を上手く使って、ガイコツに繋がっている糸と糸を混線させたらどうなるかが――今の状況ね」


 さすがは大魔道の知識を継ぐ者――前衛・後衛を上手く使い、兵法書にでも乗ってそうな陣で私の仲間を駆逐しようとしたのだろうが、”逆にされたら”せっかくの陣も形無しだ。

 むしろ独立して襲ってきたほうがまだましだったろう。


(「まあ、あくまで奇策に過ぎないから――次回からは通用しないでしょうね」


 一人で五十人ほどのガイコツ兵を精密に動かしていること自体が脅威なのだ。

 ミレット知識でもアンデットモンスターは生前の力に影響を受けると言ってもそれはあくまで劣化バージョンだ。

 もし動きが逆ならば元の白銀騎士団――もしくはそれを上回るかもしれない。

 私たちは白銀騎士団や宮廷魔術師の一団のガイコツを蹴散らしながら前に進み、そして――。



 その一団を抜け出した。

 後ろでカタカタと再生している音が聞こえるが――私たちの速度には追いつけないだろう。

 そこは生身の人間と人骨の違いだ。


「あ、あの〜。お、お花摘みに行きたいのですがー」と切羽詰まったマチルダの声が聞こえる。


「お、おい。漏らすなよ」とマチルダを背負っているスカーレットとしては死活問題だ。


「魔力回復促進剤を昔みたくこんなに飲むなんて思ってなかったんですよ〜。こんなことになるなら昔みたいにオムツ用意したのに〜」


「……」


 驚きの事実だ……この世界の魔法職にはオムツは必須らしい。

 確かに飲み物を大量に飲めば尿意を感じるだろう。

 ゲームではなく現実となれば――確かにそうだ。

 セリアが”その手があったか”という顔をしているのは――見なかったことにしよう。


(「はぁ、せっかくの死のみやこの脱出劇なのに……雰囲気が台無しね」


 そう感じながら、後ろを振り向くと――ガイコツ兵たちを大分遠くにおきざりにすることに成功しており、門もみえてきた。

 何故か開いている門に疑問を感じないわけではないけど――そのまま渡ることにする。



「門の外は邪法の範囲外ですよー!」と専門家であるマチルダが元気よくほえる。


「ふぅ、やった」と安堵の息を吐くセリア。


「さ、さすがに疲れたな」と額から汗を流しているスカーレット――確かにその鎧だと大変だろう。

 この中で一番の重量ある装備だ。


 門を抜けた辺りで朝日が昇りはじめる。


 門まで追いついたアンデットは日の光を浴び――そして蜃気楼しんきろうのように消えていく。


 夜の住人は朝へ至れない。


 また夜になれば彼らは戻ってくるだろう。


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