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第三十二話 死都

<帝都・とある宿屋裏手>



「エ、エクセリアお姉ちゃん。一度帝都の外に出ようよ〜。わたしの結界もそんなに持ちそうにないよ〜」と言いながら、涙目のレティシアではなく――瞳に知性を宿したマチルダの周りは魔力回復促進剤のピンが多数散乱しており、お腹を左手でおさえつつ、神々しい光を放つ右手では『セイクリッド・サンクチュアリ』という神聖結界の維持をしている。

 この結界は術者基点の3mほどの結界なので仲間を引き連れて――このもはや死者の空間となった帝都からの脱出も可能なのだ。

 しかし、その身体――レティシアの身体は聖女であったマチルダの身体と違い魔力量が比べるのもおこがましいほど少ないので、上手くコントロールして魔力消費を抑え、結界維持に努めている。


(「いきなりこんな広域邪法なんてー、魔王との戦いでも遠くですら感じたことないなー。

 ミレットお姉ちゃん……あなたは一体何を起こしてしまったのですかー?」と自分たちのリーダーであるミレットに不信感を抱いている。

 マチルダは仲間でもはや家族といえるミレットのことを疑いたくなかったが――ミレットが何かをしたことによって帝都にいる人間のほとんどが邪法を操る何者かによって殺され、魂はその者に開放されるまで永遠に奴隷となっているのであれば――。


(「わたしが止めないと駄目だよねー」


 レティシアと同じく善性を持つマチルダには耐えられない事態だ。


「おね、いや、お兄様が帰ってくるまではなんとしても死守しなさい!!」というエクセリアの表情もかんばしくしくない。マチルダ同様魔力回復促進剤のピンが多数散乱していることも関係している。


「『イビルサンダー』!!」とエクセリアが闇魔法を唱えると、右手に持つ骸骨水晶の杖から黒い稲妻いなずまが走り、神聖結界を通り抜け、亡者と化したガイコツの10体程の群れを吹き飛ばす。


(「さ、さすがにきつい。この狭い結界だと大罪の召喚は出来ないし、大罪自体をアンデットモンスターに変えられた目も当てられない。結界の損耗を防ぐために亡者どもをあたしの魔法で近づけさせないのにも限度がある」


 『セイクリッド・サンクチュアリ』の神聖結界は魔法が通り抜けるため、エクセリアが魔法を駆使して追い払っている。

 闇魔法などを防ぐ神聖結界はまた別にあり、この結界は邪法を防ぐことに特化している。

 この結界が解かれてしまえば、ここにいる”3人”は先程エクセリアが吹き飛ばしたガイコツの魔物の仲間入りを果たすだろう。


「また……復活を果たしている。カインが戻ってこないと俺達は全滅だな」とどう考えても声と口調があっておらず、左手にミスリルソード、右手に小さめのミスリルの盾を持ち、白銀の鎧に身を包まれ、金髪ポニーテールは名馬の尻尾しっぽを思わせ、かろうじて少女と思わせる――スカーレットのその碧眼の瞳は眼前の敵を捉えていた。

 彼女はわきまえており、自分の愛すべき帝都が死者の都と化したことへの忸怩じくじたる思いを表に出さずにいた。

 ”たまたま今日家出をして王族らしからぬ行動をした”おかげで、アンデットモンスター化しなかった幸運に感謝している。



――カタカタと音をたてながら先程蹴散らされたガイコツの群れは、まるで逆戻りのビデオ映像の如く再生していく。


 さらには―ーその後方にスカーレットと同じく白銀の鎧を着て剣を持っているガイコツの群れが三十ほど、

そしてその後方に二十程の魔法使いらしきロープに包まれたガイコツがこちらに向かってくる。


「あわわ、今のレティちゃんの身体で複数の結界を創るのは無理です〜。魔法攻撃をされたら――わたしたちお陀仏だぶつですよー」と数分先に来るであろうと未来に絶望するマチルダ。


「あんたはもう死んでるでしょ」というエクセリアの眼にも絶望の色を濃くしている。

 さすがに気合云々(きあいうんぬん)で乗り越えられる領域ではない。


 魔法攻撃を開始するために杖に魔力を込めるガイコツ魔法使い達、そして聖域を侵そうと大挙するガイコツ兵――そのガイコツたちの動きが急におかしくなる。


 ガイコツの魔法使いはへっぴり腰にまるで杖を剣に見立てたような構えをし始め、逆にガイコツ兵はまるで魔法を使おうかの如く剣を杖のように構える。


「こ、これは一体……」と3人の胸の内を代表するようにスカーレットの困惑する声がもれる。


「一体どうしたんだろうな……」といつの間にか、赤毛の少年――偽カインがスカーレットの隣にいた。



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