第三十一話 狂気の源泉
私は円月刀を円を描くように振るい、ノーライフクィーンの戒めを解いた後――一目散に階段に向かい、そのまま地上を目指す。
「〜〜っ!」
階段を駆け足で昇っている私の背中に寒気を覚えさせるようなプレッシャーを感じ、私の身体を覆う魔法抵抗が何かにあがなったことを教えてくれる。
(「大罪さまさまね……ふふふ、生きて王城から出られるかしらね」
大罪と合魔化していないければ、今のプレッシャーに耐えられなかったことを苦笑いしつつ――
私は階段を急いで昇っているために、乱れた銀髪が口に入り、ぺっと吐き出しながら、自分の打った奇手を頭の中で再確認する。
(「運命の打破そして私の破滅願望を満たすため――アンナローゼの復活という劇薬を使ったことでどうなるかは実際不透明よね」
スカーレットとエミリアの死の運命回避にはいろいろの方法がある。
帝国や周辺状況をチェスのような盤面遊戯に置き換えると――よく言われるのが盤面ひっくり返す思考や終わった手を逆算して解決法探るなどというやり方もあるだろう。
私がとったのはいわゆる悪手で”盤面をぶっ壊す”だ。
どのように事象が動くなんて皆目検討がつかない……大切な親友の命がかかっているというのに私が導き出した方法は盲打ちの本懐となる方法だった。
(「まあ、歩く災害ノーライフクィーンは意図せずに死を振りまくでしょう。それでどうなるか――」
なんとも鬼畜な所業だ。
私が奪った命は魔物に人攫いのサーチェス、それに勇者ザンガくらいなものだ。
魔物を討伐するなんて当たり前だし、人攫いは人によるが殺したとしても喝采を浴びること請け合いだろう。
勇者は死の運命が近づいていたのを把握していた。
ゆえにこの”帝都にいる人間たちをまるごと殺す”ことになるノーライフ・クィーンの復活のきっかけを作ったこの出来事は、私が真に鬼畜外道に落ちたと言って過言ではない。
私の中のミレットはこの事実に心から悲鳴をあげ、自分を下等だと信じている天王寺菫すら顔をしかめる。
――私の破滅願望という狂気が引き起こした悲劇といえよう。
”どくん”と心臓の大きな鼓動が聞こえた気がした。
(「私の破滅願望……その狂気の源泉は――」
ふとそんなことを気になったが――”どうでもよくなった”
階段を昇り終え、宝物庫から出た私がみたものは――急速にミイラ化していく倒れている番兵の二人だった。
肉は急速にしぼんでいき、まるでミイラ化現象を早送りの映像でみているかのようだ。
しかし、これは現実だ。
(「まあ、ノーライフクィーンの魔法に抵抗できる人間なんて限られているしね」
今目撃した番兵たちはノーライフクィーンの帝都全域を覆う広域魔法『死者への誘い』にやられたのだ。
彼らがガイコツを残すのみなったときこそ、彼らはノーライフ・クィーンの尖兵に生まれ変わる。
そして、もしこの魔法に抵抗できたとしてもこの魔法の範囲内で死んでしまえば、結局は魂を含めノーライフクィーンの傀儡となってしまう。
(「ゲーム内ではアンナローゼがこの魔法を使う理由はガイコツの魔物に社会性はあるかの実験だったかしら」
簡単に予想できることにもまずは実験をしている。
彼の偉人を彷彿させるがやっていることはまさしく鬼畜外道である。
ゲームではアンナローゼが復活した時点でゲームオーバーとなる。
よってこの結果は――予測がついていることだった。
『ふふふ、すまないね。まだ準備が終わってないんだ』
まるですぐ近くにいるように……そして反響するようなアンナローゼの声が城内を走る私に聞こえる。
「おあいにくさまね。パーティのお誘いは遠慮させてもらうわ」
アンナローゼは私を実験のモルモットとして欲しているのだろう……そうは問屋が卸さないわ。
今の私はアンナローゼに勝てないだろうし、それは本物のカインに任せたい。
ノーライフクィーンを打倒し得る勇者こそ私の終わりを彩るに相応しい。
(「私もそれ相応の存在にならないといけないわね」と暗い決意が私の胸にともる
『つれないな……すまないが、僕自身はまだ本調子ではないんだ――これでは君に逃げられてしまう。実に残念だ』とこれから起こる事実をアンナローゼは淡々と述べる。
「次に期待ということにしましょうか」
『ああ、そうだね』
「でも……私に会う前に勇者様に討たれるかもしれないわよ?」とアンナローゼの思考に楔を打っておく。
『勇者か……そちらも興味深いな』という声を最後に声が聞こえなくなる。
城門を抜け――どうやらアンナローゼのテレパシー? らしきもの効果範囲を超えたようだ。
(「セリアたちと合流したときにはガイコツたちとの戦闘は避けられそうにないわね」と思いつつ、合流を急ぐのだった。




