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第三十話 ノーライフ・クィーン


 私はスカーレットの部屋に向かったときと同じく、嫉妬の魔力眼を駆使し、巡回中の兵をあざむき、第四王女アンナローゼ・フィオン・ヴィルヘルムの封印の間にゲーム知識を頼りに向かっていた。


 今は一階の宝物庫の辺りだ。

 そして、さすがに宝物庫には番兵が二人ほど槍を持って、宝の死守をしている。


(「宝物庫が地下の封印の間につながる唯一の道なのよね」


 まあ、近衛騎士でもなければ、


「ぐがー、ぐがー」


「すぴーすぴー」


 と言った具合に怠惰の能力で簡単に寝かせることができる。

 せめてもと酒池肉林の夢をみせてあげることにした。

 二人の兵のだらしない顔を尻目に宝物庫の扉の錠前を――円月刀で力任せに破壊し、宝物庫の中にはいる。



 そこは――整然と並べられた名のある名匠たちの作品であふれていた。

 陶器や金銀財宝もさることながら、武具防具の類も多い。


(「せっかくだからいくつか拝借しようかな」と思ったが――


 どうやら儀礼的な武具防具ばかりで、純粋な攻撃力や防御力アップするものは見当たらなかった。

 それに財宝の類は荷物になるので諦めることにする。

 別にお金で困っていないことが大きい。


(「それに一応貴族につらなるものだった所為せいか……王家のものに手を出す気概を持ち得ないのよね」


 ということで、さっくりとある宝箱を動かして隠し階段を降りることにした。






 階段を降り始めた際にいた魔晶石の光を頼りにいつ終わるとも知れない階段を降りる。

 階段となっている石はコケが生えたり、ヒビが入っている具合から相当古いものだと判断できる。


(「ゲームではわからなかったけど、アンナローゼが幽閉される前からここは存在したのでしょうね。どういった意図で作られたかはわからないけど」



 ――第四王女アンナローゼ・フィオン・ヴィルヘルム


 ゲームにおける人物図鑑には魔王に匹敵もしくは凌駕りょうがする存在と書かれていた。

 そんな存在がゲーム上中盤で敗退したのは、明確な弱点があったためである。


 それはとりあえずおいておいて、彼女は言ってみれば狂人ね。


(「まあ、私も人のことは言えないけどね」と内心苦笑する。


 アンナローゼは私より二歳年下でまるで当時は西洋人形のようであり、ゴシックロリータの黒色の服を好んで着ていた。

 ちなみに僕っ子である。

 彼女の狂気性が分かる話がある。


 まあ、ミレットが目の前で目撃してしまったのだけど――



 アンナローゼがとある実験をしているところに8歳の私とスカーレットは出くわしてしまった。


 メイドの少女二人がいかような方法をとったかは知らないが、頭だけをだして地面埋まっていたのだ。

 状況を飲み込めなかった私とスカーレットは何か知らない遊びをしているのかなと思ったけど、メイドの少女二人が大声で「助けてー!!」と叫んでいて、そのメイド見下ろすように無表情のアンナローゼがいた。


 そして――アンナローゼは右手を挙げ、『ストーンヘッジ』という岩を召喚する魔法をメイドの一人に放ち……そのメイドの頭はトマトが潰れたような血の華が咲いた。


 隣で埋まっていたメイドは失神して気を失っており、私の口からは「どうしてこんなことを……」という言葉が漏れた。


 彼女の口からはまるで独り言のように「頭を潰して生きている人間と頭を潰さないで生きている人間の比較――」とぽつりとそんなことをのたまった。


 当時の私は意味がわからなく、第四王女がおぞましい何かにしか見えなかった。

 今の天王寺菫にはなんとなくわかる。

 要は知的好奇心ではないかと……未知なものを知りたい。

 でも、知識としてではなく、本当に正しいのかを実証したい。

 つまりは第四王女はマッドサイエンティストというわけだ。

 未知をきらい、全てを既知にしたいとかではないかしら?

 

 考察は保留にするとして、まあ、その先の出来事はよく覚えていない。

 さらに何かの実験をしようとしたアンナローゼの牙がスカーレットに向かい、無我夢中で私はかばったらしい。

 というのは、私はそのことで死のふちをさまよったからだ。

 まあ、だからスカーレットは私に恩義感じて親しくしてくれているとミレットは思ったわけだけど――実際はその前の出来事だったわけだ。

 まあ、スカーレットの告白もどきよりアンナローゼの方がインパクトあるものね。


(「私は目撃していないけど、アンナローゼはスカーレットに牙を向いたことで討伐対象となり、近衛によって”殺された”」


 そう、アンナローゼは死んでいる。

 なのに、王城地下に封印されているのは訳がある。



 ようやく、数十分は歩いたであろう階段の終わりが見え、直径10mほどの円状ホールにたどり着く。


 そのホールの地面にはホール一面全部を使った六芒星の魔法陣があり、その線と思われるものはただの線ではなく魔術文字で構成されている。

 つまりはそれほど複雑なものということだ。

 

 ――そして、六芒星の中心にはぼろきれとなったロープが被せられたアンナローゼと思わしきガイコツが椅子に座っており、さらにチェーンでがんじがらめに縛られている。



 私が一歩魔法陣の中に足を進めると、ガイコツの何も双眸そうぼうに暗く蒼い炎がともり、


『客人とは珍しい』と昔聞いたアンナローゼの声がどういう原理か二重に聞こえる。

 どことなく、冥府の底から響き渡るような印象を持たされる。

 そういう声に声のみでない何かを感じる。


「ご機嫌はいかかかしら? 第四王女アンナローゼ・フィオン・ヴィルヘルムさま」と少し皮肉交じりに私は言う。

 ちょっとミレットとして殺されかけたことが影響しているかも……しれない。


『まあ、机上の空論をいくつも打ち立てられるくらいには有意義に過ごしているが……飽き飽きしてきたというのは否定できないね』と普通ならこんなところに何年も閉じ込められて怨嗟えんさの声を出してもおかしくないのだが――ガイコツは実験が出来なくて残念程度にしか思ってないようだ。

 それもこれも――


「……なるほど、何代も大魔道の知識と記憶を継いでいる方は違うわね」とゲーム知識を披露して反応をうかがうことにした。


『ほう……先代までの記憶には、ばれた記憶はないのだがね』と私に興味の色を持ったようだ。

 

 まあ、ゲームでも物語の中では語られず、人物辞典に載っていたのだけどね。


 第四王女アンナローゼ・フィオン・ヴィルヘルムの真実は――とある大魔道の知識と記憶を引き継いだものである。

 これはとくにトリガーとなる条件はなく、引き継がれる側はランダムらしい。

 ただし、知的生命体には宿る術式なんだそうだ。

 ゲーム上でアンナローゼは滅ぼされてしまったので、大魔道の知識と記憶は誰かにまた引き継がれたと考えられる。

 みそとなるのは人格の引継ぎはないということだろう。

 そして、私はこれはファンタジー・レクイエム2の布石で、おそらく2のラスボスは大魔道が関係するとにらんでいたので詳しく覚えていた。


「まあ……なんで知っているかは企業秘密させてもらうわ」


『それは残念だ……しかし、君は何か僕にとって未知のことを教えてくれる気がする』


『どれ……僕の知識で知りたいことがあるなら、答えあげてもいいよ。どうせ、今まで来た連中と目的は一緒なんだろ?』と今までここにお忍びで来ていた者は死霊の女王ノーライフ・クィーンの知識が目的だったようだ。

 そして、その知識を今までは授けなかったような気がする。

 私に恩を売って未知を知りたいのだろう。


「知識は今はいいわ。それより、同盟を結びましょう。その如何いかんによっては『構わないよ』……って」


 私が言い終わる前にアンナローゼは承諾してしまった。


『別に利用されて構わないさ。君のような……”歪んだ人間”は今までの記憶でも初めてなんだ。是非お近づきになりたいね』


「そう。これで脅す必要もなさそうね」と私は自分の首に掛けていた翡翠の宝石がついた首飾りをアンナローゼのガイコツの首に掛ける。


『……いいのかい?」と不思議がるアンナローゼ。


「お近づきという印と思ってもらって構わないわ」とのたまう。

 あの首飾りがアンナローゼの不死性の核である。

 あれを破壊すれば、簡単にノーライフ・クィーンは滅んでしまうのだ。

 それ関連でスカーレットは死んでしまうことになり……まあ、ありていにいえば、巻き込まれたというのが正しいわね。


「ここまでするのだから条件を言うわよ。

 1.アンナローゼが滅んだ場合の次の大魔道の知識の継承を私に指定すること。

 ただし、私が既に死亡しているときはこの限りではないわ。

 2.同盟を結んでいるからといって邪魔ならもちろん、殺しあっても構わないわ。

 以上二点だけど、いいかしら?」と自分の銀髪をかき上げながら、私は問う。


『構わないが……君はそれでいいのかい?』とこの同盟の不自然にさらに疑問感じたようにアンナローゼは問う。


「ええ、もちろん構わないわ。死霊の女王ノーライフ・クィーン……あなたの疑問に端的に応えるなら私はミレット・ガーファイナス――『滅びを望む者』よ」


 私の円月刀が円を描きつつ、アンナローゼを拘束している鎖を破壊し、そして地面の魔法陣を傷をつけた。



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