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第二十六話 筋肉


 夜が明けて間もない時間。帝都に来てから普段ならいまだ眠りについているのだけど、今日は剣術大会のため、身支度を整えたセリアと偽カイン姿の私は宿屋の一室でレティを待っていた。

 要はレティのみ寝過ごしたのだ。レティは井戸に顔を洗いに行っている。


「お兄様……」とセリアが普段の水着のような格好に黒いマントを羽織った格好で心配そうに私をみている。

 他人がいなくても『お兄様』と言うのは、セリアの私への対応の切り替えが上手いからだと素直に感心する。


「どうか御武運を……」と私の毛皮の防具腰ら辺りを軽く両手で掴みながら言う。



「……」

寝ぼけている私は興が乗って、そのまま両手を伸ばし、セリアを抱きしめる。


「え? え?」と顔を真っ赤にしながら驚くセリア。

 女性らしい丸みが身体全体に足りないが、子供のように高い体温とバラの香水のような匂いが私を包みこむ。

 朝日に照らされる私たちはまるで映画のワンシーンを演出する。


「〜〜っ!! やっ!!」と私から逃れようとじたばたしたセリアの所為せいで私がしたゆるい拘束が破られてしまったの同時に”ばん!!”とドアが開く。


「いま、戻ったよ〜って、どしたの? セリア、顔を赤くして?」と顔を洗ってさっぱりしたレティが小首をかしげてセリアをみている。



「な、なんでもない!!」


「う、うわぁ!?」


 レティを押しのけ、セリアは部屋から出ていってしまう。


「わ、わたし、なんか怒らすことしたかな?」と所在なさげにしているレティ。


 わたしは内心『ちっ』と舌打ちをして、レティとセリアの修羅場が見れなかったことを内心嘆くのだった――うん、寝ぼけているわね。








 剣術大会は朝早くから行われて、夕方近くに優勝者と近衛騎士団長との一騎打ちが行われる。

 そのような強行日程のため、会場がいくつかに分かれており、また試合と試合の間の間隔も極めて短い。

 試合は相手に参ったと言わせるか、死なない程度の戦闘不能にさせればいい勝ち抜け形式だ。


 剣術大会のため、使われるのは主に技のため、ゲーム的にいえばSP――気力が消費される。

 気力回復促進剤を使いつつ、気力の消費を極力抑えて勝利するのがセオリーだ。


(「でも、優勝者は疲れてきった状態で近衛騎士団長とのやりあうのは相当なハンデよね?」


 第二王女と近衛騎士団長の密会を見た限りでは近衛騎士団長の差し金の気がするが……別に糾弾きゅうだんする気もない。

 叶わない恋……されど好きな第二王女を誰にも渡したくないという近衛騎士団長のなんとも奥ゆかしい行為だろうか。

 まあ、私の考えは他者からすれば異論あるだろうが、こういう子供っぽいことをする大人の男はかわいいと思う。変に手に入らないものを諦観ていかんするよりはよっぽど好ましい。



「っと、そろそろ出番か」


 ここ控え室にはむさい男達がまだたくさんいる。

 といっても最初の頃に比べれば、大分ましになったものだ。


(「最初はすし詰め状態だったものね……まあ、今の私も男なんだけどね」


 男臭い部屋から出て、縦横10mほどの四角形の石で出来たリングにあがる。

 ちなみに決勝戦以外は衆目の元にさらされることはない。

 随分、レティとセリアが残念がっていたなぁ。


 この試合で十二試合目。

 正直飽き飽きしてきていた。

 会う相手会う相手が弱いのだ。


 今の私は嫉妬・怠惰・色欲との合魔化を常にしている。

 合魔化を解くのが面倒になったのと、緊急の事態のときにすぐ対応できるようにという面もある。

 まあ、魔物と合魔化しているのばれたら騒ぎなるだろうけど、それはそれで楽しそうだと内心ほくそ笑む。セリアにはこの辺りを朝に心配された気もするが……私が止まることはない。

 ファンタジー小説の剣術大会でその手のイベントをよくあるのだから。



(「合魔化の影響は”多少頭の中にノイズ”が走るくらいだしね。さて今回の対戦相手は……っと」



 私の目の前にいるのは筋肉達磨きんにくだるまだった。

 日の光にその筋肉は光っている――頭はいさぎよい程の丸坊主で年は三十台くらいではなかろうか。目は細め目、背はこの世界の男の身長平均が165cmくらいなので、180cmのこの男は高いといえるだろう。格好は上半身裸に作業服のようなズボンのみ、得物も持っていない。

 いや、得物はそのムキムキな筋肉だろうというくらいに腕は大人の腕四本分くらいあり、どこもひきしまって筋肉が――とにかくすごい。


「へぇ、おじさん。すごい筋肉だな」


「……」


 私の問いかけに男は無言をつらぬいた。

 全ては筋肉で語ると彼の鍛え抜かれた筋肉が言っている。


 リングの外にいる審判から「試合開始!!」と合図が出る。


 私は筋肉男がどう出るか興味があり、右手で持った円月刀を肩に置いた状態で、左手で”こいよ”と言わんばかりに挑発する。


 筋肉男はそんな私の挑発なんて見てなかった。


 ただ愚直にも拳に力を込めて、


 ――走りながら勢いつけ、3m近く離れた私に上段から拳を放つ!


 その拳は左横に素早く避けた私を捉えることなくリングの石を破壊する!!


 石の破片がまるで弾丸のように辺りを襲うが、私は円月刀で器用に素早く粉砕し、避ける。

 筋肉男にも石の破片が襲うが筋肉の鎧の薄皮一枚傷つけるだけで終わっている。


(「ああ、この男惜しいな……」と場違いのことを私は思ってしまう。


 程よく鍛えられた筋肉……きっと瞬発力を失わないように食事なども気をつけているのだろう。

 そして、鍛えられた筋肉から放たれる重量ある一撃は普通の練度なら避けることは叶わないだろう。地球でも重量によって級が分かれる格闘技があるほどだ。

 でも、ここは地球ではない。華奢だろうと生き物の命を奪って力をつけたほうが強くなれる世界だ。故に残念無念……寡黙な彼の方向性は間違っている。

 筋肉を鍛えるのは程々でよく、魔物を狩るべきなのだ。

 でも、そんな狂っているさまは愛おしく思える。

 あとで審判に名前でも聞いておこう。


「礼儀だ……『セイクリッドセイバー』!!」


 騎士の技である光の剣と化した円月刀の推進力を借りて飛び上がりつつ、身体全身をねじるようにしながら、こちらに振り向きつつあった筋肉男のあごに円月刀の丙をあてる!


 筋肉男は一瞬の硬直ののち――ずどんっ!!と音を立てて倒れた。



「そこまで!!」と審判の声が聞こえる。



 私が今日はじめて技を使った相手だった。


 ちなみに、今私が使える技は剣士技の『スラッシュ』・『ダブルスラッシュ』。

 騎士技の『セイクリッドセイバー』のみだ。


 錬度不足で騎士に転職したので剣士の技はもう覚えられないし、騎士技も錬度上げがあまり進んでいない。

 まあ、大罪の力もあるからそれほど悲観してない。

 優勝はほぼ確定だろうし、近衛騎士団長には大罪の力もフルに活用しないと勝てないだろう。



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