第二十四話 帝都散策(偽カインの場合)
<帝都・目抜き通り>
廃都を経由して十数日で帝都についた私たちは――帝都に着いての初日である昨日はマチルダの食道楽に付き合い、今日は剣術大会の申し込みのために朝食を終えてすぐに王城近くにある受付場に向かっていた。
「う、うっぷ。く、くるぢぃ……」とぽっこりしたお腹をさすりながら、レティは私の右隣を歩いている。
「自業自得……昨日マチルダがあんなにお菓子を食べたのに、宿の朝ごはん食べるから――」と今日も不機嫌そうに私の左隣を歩くセリア。
(「ああ、セリアが不機嫌な理由がわかった……そういえば、二人っきりで買い物するとか約束してたっけ」と思い出す――偽カイン姿の私……だが別に期限と場所を指定してないことを思い出し、そのうちでいいかとセリアとの約束を記憶の片隅に追いやる。
「……で、でも〜。ご飯を残すなんてわたしにはできない〜。
それに昨日一日はマチルダがこの身体使ってたからご飯食べたかったんだよー」
「それで、そのお腹か……」と私はレティのお腹に手を伸ばし、さすってみる。
「ひゃあ!?」
ほどよく張っていて弾力があるお腹だ。
「ちょ、ちょっと、カイン〜。セクハラだよー」という割りにはあんまり怒ってないレティ。
それよりも……「太った女の子は好みじゃないかなー?」と上目遣いで聞いてくる。
「そうだな……自己管理が出来てないのはちょっとな」と返す。
まあ、カインの好みはゲーム上明らかではなかったが、男なんて生き物は大体太った女性は嫌だろう。
欧米とか、デブ専とかでない限り……。
「がーん!!」と声に出してショックを受けるレティのアホ毛がぴんと跳ね上がる。
「残すのはもったいないから……前もって宿にご飯減らすように言おう。
あと、マチルダの食事制限しないと……」とぶつぶつ言い出すレティ……一応は女としての自覚はあるようだ。
なんかそういうの気にしないのかと思っていた。
(「恋をすると女は変わると言うしね」
レティはカインに片思いの恋をしている。
当分の間はその好意を受け取るのは私だと思うと、なかなかに貴重な経験をしている。
別に罪悪感などはない……そのうち本家本元(本物のカイン)に送り届ける予定というのもあるだろう。
(「さて、あの勇者さま(カイン)はどのくらいで私の元にたどりつくのかしらね」
カインとの二回目の邂逅が楽しみだなぁと思っていた私の横を腕を組んだカップルが通り過ぎる。
「ほへ〜」と言いながら立ち止まってうらやましそうに見るレティ。
「ちょっと! レティ立ち止まらないでよ!!」とそんなカップルなんか眼中にないセリアは立ち止まったレティを注意する。
レティを心配してというより、レティが立ち止まったから私もその場から動かなくなって、私が迷惑だろうという好意なんだろうな。
「…………えい!!」とレティがいきなり私の右腕を自身の左腕に絡める。
「えへへ……嫌だったら言ってね?」と意識せずにその大きな胸を押し付けながら、ご満悦なレティ……ほむ、世の男たちなら大抵コロリと落ちそうである。
「別に……嫌じゃないぞ?」と昨日に引き続き虚言癖が出たので、状況を続行することになった。
「やたー」と小さな声でレティがつぶやき、空いた手で小さくガッツポーズをする。
(「……別にうらやましくないけど、厚手の服越しなのにしっかりと生温かく柔らかい感触がある」
「むぅー。お、お兄様。し、失礼します」とレティに対抗するようにセリアも自身の右手を私の左手に絡める。
(「こちらは水着のような格好のせいで……あばらがあたる。
でも、何かの花のにおいがするわね……バラかしら?
女子力はレティよりは高そうね……胸は無念ね――」としょうもないことを考えつつ、次第に王城が近づいてくる。
はたから見れば、両手に花だなぁと内心苦笑する。
城は水路に囲まれており、普通の方法では入り口にある大きな跳ね橋を渡らなければ、進入は困難だろう。
城のサイズは四階建てくらいで1000人以上は軽く飲み込めるサイズだ。
城壁の所為で全容はわからない。
王城入り口の近くの特設のテントが立っている剣術大会の受付場は屈強な男たちがまばらにみえる。
第二王女の名前は思い出せないが、彼女の求める男像は覚えている。
『強くなければ、男ではない。わたくしが恋焦がれるのは強き人でしかない』
すごく夢をみているお姫さまだ。
まあ……でも、その気持ちはわからなくもないが、ただ強ければその他の条件が不問とするところにこのお姫様の並々ならぬ何かを感じる。
だとしても、私に利用されるだけなのだけどね。
近衛騎士団長などの敵情視察はせずに、このままいろいろなことにアンテナを張りながら剣術大会の日取りまで待つことにする。
ボスである近衛騎士団長はゲーム上で知っているし。
不確定要素があれば、それはそれで楽しもう。




