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第二十二話 ヒヤシンス

「はぁ、それでお兄様……レティが聖女の幽霊に取り憑かれたと……レティは馬鹿ですね。

 さっくり聖女ごとレティも成仏させてしまいましょうか?」と右手に闇を集め――闇からガイコツ水晶の杖を取り出したセリアは黒いいかずちを先端に宿した杖をレティの方に向ける。


「ちょ、ちょっとやめてよー。マチルダは悪い子じゃないしー、わたしも違うよー!」


 レティはセリアの杖からのがれようとするが、逃げた先に杖を向けられ、また別方向に逃げ、さらに逃げた先に杖を向けられるということをエンドレスに繰り返していた。



 私とレティは聖女イベントを終え、セリアが待つ廃都の外に待機させた馬車に戻り、聖女が仲間に加わった? ことを私自らセリアに事情説明をした。

 レティにさせると脱線するのが目にみえているからだ。

 セリアにとっては聖女は勇者に並ぶ嫌悪の対象だということもあって、レティに向ける視線がいろいろと危うい――レティが聖女の娘ということもそれに拍車をかけているのだろう。


 セリアは飽きたのか。

 杖に宿した黒い雷を消し、レティの方をアンニュイな表情で、

「はぁ……レティ感謝して。

 あたし自身はいろいろと納得できない。

 でも、お兄様の決定には従うから……保留にしてあげる」



「ぜはぁーぜはぁー。

 よ、よくわからないけど助かったー」


 レティは地べたに女の子座りのまま荒い息を吐きながら、命の危機を脱したことに安堵あんどしていた。



「それでマチルダとはいつでも代われるのか?」とカイン口調で私が聞くと――


「……大丈夫みたいだよー。セリアに自己紹介したいみたいだから今代わるねー」とレティは一瞬身体全体を痙攣けいれんさせたかと思うと、レティの目に”知性”が宿る。


「今代わりましたよー。エクセリアさんですよね?

 はじめましてマチルダと言います。よろしくお願いしますねー」と礼儀作法の訓練の成果か……折り目正しく礼をしてからセリアに微笑むマチルダ。


「よろしく。マチルダ……あんたはあたしの”妹”だということを自覚するように!」と最初は肝心と腕を組んでセリアはマチルダにそう言い放つ。


「わあー、お姉ちゃんですかー。よろしくお願いしますね。エクセリアお姉ちゃんっ!」とマチルダはセリアの手をとって喜びをあらわにする。


「よ、よきにはからえ」とセリアは若干表情が引きずっていた。

 素直な好意にセリアは弱いようだ。


「カインさん? もよろしくお願いしますねー。」と若干首をかしげながらも私に挨拶するマチルダ。


「ああ、よろしく」と言いながら私はある種の予感を感じていた。


「ところで……マチルダとした会話はレティには聞こえるのか?」


 マチルダは唇にひとさし指をあてながら、「わたしが憑依ひょういしているときは、レティは眠ってるような状態ですよー。

 レティが表に出ている時はレティの見たものはわたしに伝わりますー。

 理由はわからないですー」と答えてくれた。


「なるほど、マチルダ……俺――いや私たちの正体に気づいているわね?」と私は核心に触れる。


「……黙っているつもりだったのですが――はい、気づいてました」


 どこか落ち込んでしまったマチルダ――アホ毛もしおしおとしおれてしまった。

 どうやらこれからの自分の末路を想像してしまったようだ。


「……さすがは聖女といったところか……お姉さま、どうされますか?」と聞いてくるセリアに、男の声で女口調はきもかったので……色欲の召喚獣との合魔化を解き、元に戻った私は「捨ておくわ」と二人に告げる。



「「え?」」と二人とも違う意味で驚く。


「お、お姉さまの最終的な目的はわかりませんが、レティに今の段階でばれたらまずいのでは?」と戸惑い気味にセリアが聞いてくる。


「困るでしょうね……まあ、それを楽しむのもまた一興よ」とセリアに返すと

「お姉さまがそうおっしゃるなら」と無理矢理納得しようとセリアは苦虫をかみしめるような顔をする。


「マチルダ……」


「はい」とマチルダは真剣な眼差まなざしを私に向ける。


「出来れば、今のところはレティに事情を話さないでほしいけど、強制はしないわ」


「あの子……レティには何か特殊な魔法がかかっているようですけどー。

 その……危害を加える気はあるのですかー?」


「今のところはないわね。でも、将来的にはわからないわ」と私は確定的に訪れる未来を誤魔化す。

 さすがにこれくらいしないとマチルダも納得しないだろう。

 これで駄目なら――。


「……わかりました。

 あの子に危害を及びそうならわたしは全力で守ります。

 それが友達として――そして母親として……いつも流されてしまうわたしがしたいことです」


「そう」と私は頷く。



「でも――」とマチルダは目を細めて私とセリアを見ながら淡く繊細な笑みを浮かべる。



 レティをひまわりというなら、マチルダはヒヤシンス――気品のよい香りをにおわせながらもさまざまな経験などから濃淡がある花びらの如くそのときどきに顔を変える。



「お二人とも許す限り仲良くしたいですー」とのたまった。



 きっとマチルダは今までこういう面を出す余裕はなかったのだろう。

 物語を()でる私としてはなんだか得をした気分だ。



 私の中で方針は決定した。

 現状維持――爆弾を抱えながらの旅路を楽しもうじゃない。


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