第二十話 廃都の聖女さま(中)
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聖女は世界に絶望して聖なる力は邪悪なものに反転してしまった。
その所為で一夜にして”たまたま”訪れた都市をまるごと滅ぼしてしまったのだ。
力を使い果たした聖女は命を落とし、無害な亡霊となる。
何年か経ち、現世に彷徨う聖女の元に勇者を志す少年が訪れる。
その少年は聖女の忘れ形見である娘に託したペンダントを持っていた。
聖女はその少年から娘のことを聞き、娘の元気な姿を聞くことで未練を果たす。
そう、聖女の未練は娘の安否だったのだ。
そうして、聖女はあの世へと旅立つのだった。
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――というのがゲーム上でのこのイベントのおおまかな流れだ。
このイベントには大切なことが抜けている。
レティを孤児院に何故預けたのか?
聖女は何に絶望したのか?
仮説などはいくらでも立てられるだろう……私は偽りであろうと生の彼女の言葉で知りたいと思う。よって私の聖女への返しは――
「俺は聖女さまのファンなんですよ。マチルダ・フォートレオさま」と言った瞬間。
ばん!! と聖女がいきなり鍵盤を両手で叩いて今まで悲しみに満ちた音の調べは無様な音を立てて終わる。
「せ、聖女? し、知らない。そんなもの! わたしっ!!」と両手で頭を抱え込んでいやいやと思い出したくない何か押し込めようとする聖女。
「せ、聖女ってどゆこと? というかあの人透けてみえるんですけどー!!」と場の空気を読まないレティの発言通りに聖女は幽霊らしく――よく見れば透けており、聖女の後ろにある教会の古びた壁が見える。
「それは聖女の幽霊だからだろう……馬鹿だなぁ。レティシアは――」と呆れた口調で返す。
「え? え? え? あ、あたしがおかしいの?」と混乱しているレティを放置して、
――嫉妬の召喚獣・怠惰の召喚獣と同時に合魔化する――
老勇者との戦いで無茶な合魔化をした所為か……魔物の身体を外に出さず内に秘めた状態で能力などを使えるようになった。理由はよくわからないが、合魔の指輪の基礎設計を自由に書き換える
ことができるようになった感覚がある。
同時の合魔化も老勇者との戦いほど負担もないようだ。
なので今の私――偽カインの身体は特に身体的変化はない。
うるさくわめく聖女の霊体に怠惰の能力で過去の夢をみるように促す。
聖女は一瞬身体全体に青い光を放ったかとおもうと、目を閉じて鍵盤の上に眠りこけはじめた。
(「幽霊にも眠りの魔法は効くのね……まあ、RPGゲームでは結構幽霊系の魔物は効くものだしね」
眠っている聖女は顔を歪めて過去を追体験しているようだ。
これでは内容がわからない。
ここで”魔力を飛ばしてあらゆる場所を覗くことができる”嫉妬の召喚獣の出番だ。怠惰の召喚獣の夢をみせる能力を合わせることにより、”私達”は映画よりもリアルに聖女の過去をみることができるだろう。
私は嫉妬・怠惰の能力を私とレティに使って聖女の過去を暴く―ー私とレティは緑色の光に包まれた。




