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第十九話 廃都の聖女さま(上)


〜・〜・〜・〜・〜・〜・


 廃都フェレシアは十年前……一夜にして滅びた。


 どうして滅びたかは定かではないし、何故か帝国軍すらも現地調査をおこたっている。


 廃墟漁はいきょあさりが幾人か向かったが帰って来た者はいない。


 よって、誰もりつかない地となってひさしい。


 だが、勘が良いものや、貴族に連なるものは知っている。


 廃都フェレシアが滅びて以降……姿をみせない聖女との関係を――

 


〜・〜・〜・〜・〜・〜・



 というのが、ゲーム上でここに訪れるまでに得られる情報であり、ミレットも知っていた情報だった。

 私とレティは朝と昼の中間くらいの時間、廃都の中に足を踏み入れていた。

 ちなみにセリアは廃都の外の馬車で留守番である。万が一にでも馬車が野盗のたぐいに襲われては目も当てられない。

 移動手段を失えば、帝都の剣術大会にも間に合わなくなるし、なにより足が痛くなる……。

 

「お、お兄様がそうおっしゃるのなら」と残念そうであったが……セリアは納得した。帝都の剣術大会の開催日は向こうに到着してもあいだがあるので、そのときに買い物に付き合うと言ったら喜んでいた。


(「私としても帝都ではカインとしてでなく、ミレットとして多少は過ごしたいわね」


 女の精神で男性の身体というのは思ったよりも精神的にくるものがあるのかもしれない。

 何が……と言われても困るのだが、女性ホルモンや男性ホルモンのバランスの問題とかだろうか――。


「うひゃー。なんだがすごいところだねー」と物見遊山ものみゆざんの怖いものみたさにきょろきょろと周りを見渡すレティ。


「ああ、そうだな」と返しながら、私はレティとは違って注意深く周りを観察する。



 建物はあちこち倒壊しており、残された食べ物が腐ったせいかなんともいえない匂いがする。

 ところどころある木々は葉をつけずに枯れており、点在するところを見る限りはここがメインストリートのようである。

 廃墟による死角が多く、ここで襲われたらひとたまりもないだろう。


 それに、人が大勢死んだにしては”ガイコツなどの人の遺体”がないのは不自然である。

 まあ、理由は知っているのだけどね……夜ここを訪れるとガイコツなどのアンデット系の魔物が大量に徘徊している。

 昼はどうやら土の中にいるらしく、アンデット祭りは休業中のようだ。


(「私達の目的は聖女さまイベントだから……アンデット祭りはパスということで、崩れた教会はどこだったかしら?」とゲーム内知識を頭の中で思い返していると――


「カインーーっ! あっちに教会があるよーー!!」とレティが手を振って屋根がなくなっている古ぼけた教会の前にいる。


(「まるで野生児のようね……」と思いながら、教会の中へレティを促すのだった。





 教会の中はぼろぼろで祭壇の後ろにあるセーリアの女神像は顔がなくなっていた。

 椅子や机などもその辺りに散乱しているのにも関わらず――



 祭壇近くのピアノだけはまるで”つい最近使われたように綺麗だった”



 ふらふらとピアノに近づくレティの手を握って阻止しながら、レティの神官服の胸元むなもとに手を突っ込む。


「にゃーーーー!!」という奇声をあげるレティを気にせずに、私はレティの首に掛けらているペンダントを抜き取り……手に取る。

 ちょうどペンダントの表面おもてめんが私の視界に入る。


 銅で出来たペンダントには各町にあるセーリアの女神像よりも鮮明に描かれた女神の顔――年は五、六歳ほどで幼女といっても差し支えないのに表情は聖人じみた……なんの感情をあらわさない感じであり、顔は全体的にふっくらした丸顔で髪は耳もとくらいで、何本か髪を編んでたらしている。

 これで笑顔の一つでもあれば――



――ああ、”どこかで”見た顔になる――


 私の中で生まれる感情は不快感……くだらないことは考えるのはよそう。


「ちょっとカインっ!! 乙女の胸にって……どうしたの? 怖い顔をして?」と心配そうにレティが私をみている。


「……いや、ちょっと嫌なことを思い出しただけだ」


 そんなやりとりをしていると、ピアノがひとりでに動き出す。


 曲目はファンタジー・レクイエムのオリジナルで『鎮魂歌レクイエム』という曲だ。





 その調しらべは現世での未練を呪っており、


 もうかなわない自身の終わりの救済を願っている。


 幸せな終わりでなくては認められるはずがない。




 ――つまりはこの鎮魂歌は幽霊自身が自分のためにかなでている。


 

 いつの間にかピアノの前には誰かが座っており、それは誰かに似ている。


 ひまわりのような笑顔で楽しそうにピアノに指を走らせている。


 レティを後四年ほど成長させて、知性を宿せばこんな感じか……という感じだ。

 髪は床につきそうなほどの髪を三つ編みにして二本たらしており、格好はけがれのない無垢むくをあらわすような白いワンピース。


 ピアノを弾きながら少女はこちらを見ずに、私に問いかける「ねぇ、どうしてわたしのペンダントを持っているの?」


 さて、どう返そうか……私はゲーム上で明らかにならなかった聖女さまの過去が知りたい。



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