第十八話 廃都そして帝都へ
「カイン、今日も天気がいいね〜」と私が座る馬車の御者台に隣にいる神官服のレティは、夏らしい日差しを浴び、ひまわりの如く人を元気にさせるような笑顔でこちらに微笑む。
「……ああ」と一瞬反応が遅れて返事をする私。男扱いされるのは慣れなく、カインの言葉遣いを真似るもずっととなると結構骨だ。
それとは別に実は寝不足である。夜は交代で寝ずの番をし、当番でない者はテントで寝ているのだがそのときに……まあ、男体の神秘をいろいろ調べていたのだ。隣で寝ているレティの隣でそれをするのはどきどきしてしまった。私の生きている中でどきどき具合はそれなりに上位に入るだろう。
(「このまま無口キャラになってもいいかもしれない」と代わり映えのしない街道に馬車を走らせながら、そんなことを思うのだった。
レティの提案で二人一組のローテーションで馬車の御者をすることになった。セリアとレティに任せようと思ったのだけど、レティの中にはミレィという奴隷主人の存在はいないため……仕方なく受け入れることにした。
「それにしても大目玉ちゃんが盗賊とかの監視してくれるから楽チンだよねー」
レティには召喚獣については聖獣のようなものという説明をしている。アホの子は穴だらけの説明も飲み込んでくれるから助かる。
現在私たちの戦力は……道中での多少のレベルアップもあり。
七つの大罪が残り四体。
勇者を倒しレベル50台くらいになった剣士の私。
レベル20台くらいの治癒術士のレティ。
同じくレベル20台くらいの闇魔法が使える魔族のセリアである。
(「勇者を倒してレベルが上がったけど、上位の大罪三体を失ったのは痛いかな。勇者の最後の技をみる条件を私も満たしたわけだし……かろうじてメリットの方が上かな?」
剣士職で一定レベルに達し、なおかつ技をみれば、勇者が放った奥義『永遠なる透明世界』は使えるはずなので、いつかは私も使えるようになるはずだ。
(「カインの偽者としてカインを喧伝するにはちょうどいい技ね」と内心ほくそ笑む。
現在の旅路は帝都に向かっている。
思えば、帝都の北にあるガーファイナス領から南下していた。時期的にはちょうどよく帝都で行われる剣術大会に参加しようと考えていた。エミリアには悪いが後回しさせてもらおう。
(「”殺意の天使”攻略はまだはやいし、上手くやってスカーレットの悪役令嬢となる問題点を解決しましょう」
ヴィルヘルム帝国第三王女スカーレット・フィオン・ヴィルヘルム――彼女が討伐されてしまうのは、帝都にある王城地下に幽閉されている第四王女であるアンナローゼ・フィオン・ヴィルヘルム通称――
(「帝国王室の暗部……『死霊の女王』のせいね」
まあ、剣術大会で優勝すれば、王城に入れるのでそのときにアンナローゼとコンタクトをとることにしよう。
「ねぇねぇ、そういえば、わたしたちってどこに向かっているの?」
「廃都フェレシアによってから、帝都の剣術大会に俺が参加する予定だな」
「廃都ってなんでそんなところにって……えええ!? 剣術大会ってちょっとどういうこと?!」と興奮したレティが私の肩を両手でがくんがくん揺らす。
馬車はゲームと同じくどんな人間でも基本的に操れるように魔法で扱いやすくされているが、ちょっと危険だ。というより私が馬車酔いする!
「ちょっと落ち着けよ! あぶねーだろ」と注意すると、「あ……ごめん」とさすがに危険だったと理解してしゅんとおとなしくなるレティ。
「で、でも……剣術大会と言ったら難攻不落の第二王女の結婚相手を決めるものでしょう?」
「別にレティシアは俺の恋人ってわけではないだろう?」
私はレティの気持ちを知りつつ意地悪をする。まあ、人の気持ちに鈍感な主人公のいいそうなことである。
「うぅーそうだけどー! もう知らない!!」とそっぽを向くレティ。
そんな青春をしている少女を見ながら第二王女のことそして剣術大会のことを考えていた。
ゲーム上ではカインがその大会に優勝するが第二王女との結婚は辞退する。
その途中でレティとの仲を深めるという展開があり、第二王女は体のいい当て馬のような存在だった。
私自身も彼女の名前すら覚えていない。ゲームの五年前より結婚相手は毎年行われる剣術大会の優勝者にするといいつつ、剣術大会で最後まで勝ち残った最後の一人は帝国の近衛騎士団の団長に勝たなければ優勝できない。
つまりは、ゲームでは五年間、現在では二年間近衛騎士団の団長を倒せたものはいないのだ。
(「まあ、失敗しても次があるだろうし、他の方法を考えてもいい」
まずは廃都――レティの母親である聖女の亡霊が彷徨う地に向かうのだった。
さて、ゲーム上では邂逅を果たさなかった二人はどういう物語になるのか楽しみでしかたなかった。




