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第十七話 新しい形


 私は水晶の森の中の大木に寄りかかりながら、レティシアがカインの手当てをする様子を眺めていた。かたわらにはセリアがおり、はらはらした様子で満身創痍まんしんそういの私をみている。


「お姉さま……やはり、レティを待たずに傷の手当てをした方が、なんでしたら……大罪の召喚獣で誤魔化してしまえば――」


「くどいわよ……ある程度は現実感というものが必要なのよ。それにしても悪かったわね」


「えええ?! ど、どうしたのですか!?」とびっくりした顔でセリアは私の顔を覗く、頭でも打ちましたかみたいなリアクションはやめてほしい。


「……七つの大罪の内三体を消失してしまったことよ」


「ああ」と手を叩いてセリアが納得する。



 老勇者の一撃は三体の七つの大罪の命を正確に打ち抜いていた――意識を共有していたわたしにはわかったのだけど、コアみたいなものね。

 さすが勇者さまだ。魔の命脈を正確に三つ同時に絶ったのだ。そのおかげで私は暴走した召喚獣と融合することなく、さらには私の命は討たれなかったのだから。こんな邪悪な存在でも魂までは魔のそれとは違ったのだろう。


 

 さすがに三つの大罪も失ったのはバツが悪かったのでセリアに謝罪をした。いくら下僕とはいえ、人の物を壊したら謝罪するのは当たり前である。


「いえ、私はお姉さまさえ無事でしたら構いません。魔王についてはもうなんとも思ってませんが……魔族にとっての悲願である勇者を討伐してくださったのです。感謝こそすれ非難などありません――ただ」


「ただ?」


 セリアは言いにくそうにその黒い髪を右手でもてあそびながら若干顔を赤くし――意を決して、「一緒に人間の町で買い物をしてほしいのです!……二人っき……り……で」と最初は勢いがあったけど次第に言葉の勢いがなくなっていく。


「……別に構わないわ」と瞬時にメリットを考え、OKする。たまには”自分自身”に戻らないといけないだろうとの判断だった。


「あ、ありがとうございますー!!」とセリアは頭を思いっきり下げる。


(「いつこんなに好かれる事をしたのだろうか?」と私の疑問は尽きない。まるで何の脈絡もなく主人公が好かれるハーレムものの小説を読んだ時の違和感と同じようなものを感じつつ、そういう例外もあるかと気にしないことにした。


「じゃあ、残り四つの大罪の内三つをまた借り受けるわね」と私はセリアに満面の笑みを浮かべる。


「わ、わかりました」と言ったセリアの背中はどこかすすけてみえた。







 


 レティのカインの手当ては終わったようだ。


 五体満足になったカインは血だらけ海となった地面で気を失って倒れている……顔色は悪いが命に別状はなさそうだ。今はレティがなんとかカインを運べないかと「ふおおー!!」とか言いながら努力しているが無理そうだ。



 私はさっそく借り受けた七つの大罪が一つ――色欲の召喚獣と合魔化する。特に実体のある魔物というわけではないので、私の姿形には特に変化はなかった。


 私はレティに能力を使いながら近づく。


 たぶん、こんな感じかな。


「レティシア、どうしたんだ?」


「どうしたもこうしたもないよー! 幼馴染のカインがダルマさんになってたしー!! ってあれ?」と聞き覚えのある声と思ったのかレティが私の方を振り向く。


「なんで? カインがそこに……あれ?」と本物のカインから手を離し、小首をかしげるレティ。



 今、私は色欲の召喚獣に能力を使ってレティの理想の異性に姿形を変えているのだ。

 つまりは多少美化されたレティからみたカインになっている。予想通りになり、すこしほっとする。



 さらに私は色欲の能力を使う。


――私の瞳が桃色の淫靡いんびな光がともる――


「『そんな人形より本物の俺の手当てをしてくれよ』」と言うとレティは一瞬焦点のあってない目をしたかと思うと「あれ? わたしなんで人形にって、ていへんだー。今治すね」と慌てて私に近づき、治癒魔法のヒールをする。


(「痛みはないけど、だんだん身体が動かなくなってきていたから助かるわね」


 レティは幼馴染のカインそしてエクセリアと旅をしているという設定の長い長い夢を七つの大罪が一つ怠惰の召喚獣によってみせたことにより、ミレットである私とここにくる直前までの記憶は夢のようなものになっている。多少記憶の齟齬そごがあるだろうが、その辺りは無理やりフォローなどをして乗り切るつもりだ。最後には本当のことに気づいてもらう予定なのだ。レティにとっての伏線として違和感を覚えるのは良いことのように思える。



 これからの旅路はレティと共に”カイン”として悪に正義の鉄槌を下し、ミレットとして悪の限りを尽くすことになるだろう。


(「さて、本物の勇者候補は偽勇者候補に何を思うだろうか――これからが楽しくて仕方がない」



 血まみれに転がる本物のカインを放置して、私の治療が終わったレティの右手を掴み、「ありがとう」と言って街道を目指す。レティは少し頬染めて「どういたしまして」と言う。


 セリアがちょこんと毛皮の防具の左側を右手で掴みながら「お兄様……いいですよね?」上目遣いに言う。


 お兄様? と一瞬、面食らってしまったのだが――こっそりセリアが私の耳元で小さな声で「レティにはあたしとお姉さまが本物の兄妹きょうだいという夢をみせました」とのたまう。



 まあ、仕方ないのでそういう趣向に合わせよう――「ああ、構わないさ」と返すので今は精一杯だった。


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