表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/49

第十五話 勇者との出会い(中)


 凄まじい破裂音と共に放たれた――鎧の化け物の一撃は無数の小石を跳ね飛ばし、大きな池ほどの水場をき、上から流れる滝すらも引き裂いた。


 黒曜石でできたごつごつした鎧の化け物――かぶとには赤いとさかのようなものがついており、両腕も人間サイズとはとてもいえないが人間らしいフォルムである。だが、足はなく一定の距離で地面から浮いてるさまは、鎧騎士の亡霊を彷彿ほうふつさせる。


 決して遅くはなかった鎧の化け物――傲慢ごうまんの召喚獣と合魔化したミレットの一撃はザンガをとらえることはなかった。ザンガは少し身体をずらすことでその大剣をかわしたのだ。


「やれやれ、技も使わずにその剣だけで跳ねた石も剣の衝撃波をもいなされるとは……少々自信を失くしてしまいますわね」と残念そうな口ぶりの割りにはミレットの声色こわいろは少々はずんでいた。


「……若者は派手な技に走る者が多い。長く生きておれば、隙のある技などそうそう使わんじゃろうて」と老練の勇者は世界が与える技はただの手段にすぎず、必要がなければ使わないという。職業につくことによって得られる技の魅力にあらがえるものはこの世界に何人いるだろうか……。


「それにしても……」と老いた勇者はすぐ目の前にいる鎧の化け物を見上げながら、「ミレット嬢……魔に魅入られおったか……」と額のくなったしわはザンガの忸怩じくじたる心境を物語っていた。


「どうされます? 先程まではおそらくは更正させようとお思いだったのでしょうが……わたくしを斬りますか?」と期待を込めてミレットは鎧の中から老勇者に問いかける。


「……応ともさ。せめて原因たるわしの剣にて……手向たむけとさせてもらおう」と言ったザンガの水晶剣が”ぶれた”


 

 合魔化したミレットの鎧の右下にまるで”ガガッっ!”とドリルで削ったような火花が飛び散り、小さな直径数センチほどの穴があいた。


「あはっ! 怖いですわね――」と嬉々としたミレットの声に反し、「かたいな……」とザンガの声は色よくない。無数の剣閃で削るたびに硬さがましていったのを剣を伝わって理解したからだ。


――ザンガは長期戦になることを覚悟した。



(「勇者さまは気合十分のようね。ただ、このままだと単なるサンドバックになってしまう……さて、余裕のある内に残りの手札を全て切ってしまおう」


 合魔ミレットは大剣を構えたままザンガから3メートルほど距離をとる。その際に傲慢の召喚獣の魔力感知によって把握したカインの様子はこの戦いから何かを盗もうとする前向きなものように感じ取れた。ちなみに魔力感知は生物無機物全ての魔力が宿っているものを感知できる。ただ、魔力が全くないものはこの世界に存在しないのでかなり有用なものである。



(「さて、観客が退屈しないように……第三幕と第四幕を合わせていきましょうか」



 ――ミレットは傲慢の召喚獣と合魔化した状態のまま、”重なり合うように残りの二枠の召喚獣を自身に合魔化した”



「ぬっ!?」とザンガは対峙する黒曜石の鎧からあふれ出す紫色の光に手のひらで目を守りながら不穏な気配を察する。


 ザンガは一瞬の逡巡しゅんじゅんの後、様子をみることに決める。何かしているにしてもたやすくあの鎧を破壊することは叶わないからだ。


 黒曜石の鎧の化け物から流れる滝を越えるほどの大きな火柱が立ちのぼる。――次第に沈静化した炎は黒曜石の鎧の化け物の全身を包んでいる。炎は荒々(あらあら)しく――憤怒の召喚獣に相応しい様相だ。


 そして、黒曜石の鎧から金色の光が放たれる!


――その光は周りを浸透するように広がる!!


「これは……」


 ザンガとカイン以外の物が全て”水晶”となってしまった。



 流れる滝も、


 水場の周りの木々も、


 空を飛んでいたであろう鳥すらも”ぼとり”と落ち、


 合魔化したミレットを中心で見える範囲では全てのものが水晶化していた。


 そう、ミレットが傲慢の召喚獣に、憤怒の召喚獣を合わせ、最後に強欲の召喚獣を合わせ、能力を使ったのだ。


 豪炎ごうえんに包まれ、さらにっすらとした淡い金色の光を身にまとった黒曜石の鎧の化け物からは相も変わらずすずやかな少女の声がする「ふふ、わたくしが作り出した水晶とその剣どちらが硬いでしょうかねっ!」と言った瞬間、水晶化した地面が盛り上がり――10本の剣になって浮かび上がる。


「さあ、ミレット・ガーファイナスがお送りする第三幕・第四幕です。荒れ狂う炎と水晶の世界はどうでしょう!!」


 ――その声と共に浮かんでいた10本の水晶の剣がザンガを襲う!!


 5つの剣が10本の水晶の剣をはじく。


 ザンガが一瞬5人に分身したようにみえるが剣を弾いた後は残心ざんしんを残し、剣を再度構えていた。


(「これは……三次職の剣聖の技――『五重奏ごじゅうそう』。上手くさばいたようだけど、次はどうかな。まあ、私の方が次で決めないとまずいけどね」


 ザンガが切っ先が欠けた水晶剣を軽くみて何事なにごとか決心を固める様子がみてとれる。

 

 対して、ミレットは満身創痍まんしんそういだ。



 黒曜石の鎧の中のミレットは内臓がずたぼろで口から血を流しており、全身からも裂けた皮膚から血が流れている。


 無理な合魔化したツケが彼女を襲ったのだ。この指輪を作った者もこのような使われ方は想定の範囲外だっただろう。



 真に深刻なのは――恐ろしいまでの情報の混濁こんだくだ。現在ミレットは三つの脳を直接自身の脳にパイプか何かで無理やり繋ぎ合わせたかのような状態だ。


 思考回路が全く違う召喚獣を繋ぎあわすことは、一体は最適化されるが……合わせればその混濁具合はひどい。頭の中に直接複数の意味のわからない言語が混ざって送られるようなものだ。


 それは情報の暴力――しかし、ミレットはさほど問題とはしていない。常人であれば、一瞬も待たずに廃人化するものを上手く受け流し、利用している。


 さらには、召喚獣三体の肉体のばらばらの固有感覚すらも問題ないときている。自身の腹に口が出来たような感覚、見えない足が生えたような感覚、目に釘が刺さったような感覚。それらはまるで幻痛となっておそってくるレベルである。ミレット――いや、天王寺菫てんのうじ すみれにとってこの程度問題なのだ。ゆえに自身の異常さに彼女は気づけない。



「……ミレット嬢。わしの全身全霊を持ってお相手しよう」


 そう言ったザンガからは透明なものが、全身から湯気ゆげのように立ちのぼっていく。


 

「光栄ですわ……勇者さま」


 炎に身を焦がし黒曜石の大鎧は大剣を上段に構え、周りに10本の水晶剣を従える。



 距離は3メートル……勝敗は一瞬で決まる。



「「っ!!」」



 お互いが死線に一歩足を踏み入れた!!

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ