第十三話 観賞会
<とある街道・馬車内>
「おおー、カイン。そこだー!」と”がたんごとん”と大きな石に馬車の車輪がぶつかれば、大きく揺れる車内でもお構いなしにレティは顔を真っ赤にし、興奮気味に身振り手振りをしながら、目の前にある――七つが大罪が一つ『嫉妬』の大目玉に映し出された――将来の勇者の卵であるカインの練習風景をみている。
「……あーあ、残念!!」と大きく空振りしたカインの様をみて、まるで自分自身の失敗のように思えるレティの様子は私にとってとても面白く思えた。もちろん、コメディとして――
「……まるでテレビを見ているようね」ふと日本のことを思い出してしまった。
「テレビって?」
「今、レティが見ているみたいなものよ」
「そっかー」とあまり興味がないようで、またカインの様子に釘付けになるレティ。
私とレティはこの十数日の間で将来勇者になるカインのちょっとした専門家になったのかもしれない。
彼がご飯を食べるときは必ず肘をついて食べるとか。
彼が木のベットで寝て2、3時間後には必ず布団が床に落ちて腹を出して寝ているとか。
彼が泉で身体を洗う時は頭から洗うとか。
彼が……などなど。
馬車を購入して、御者をセリアに任せて暇を持て余した私たちは嫉妬の大目玉を使って無修正のカインの日常楽しんでいた。年の近い男の子の一部始終はなかなか面白いものがあった。
レティは身体を洗うシーンなど恥ずかしがって顔を手で覆っていたが……指の隙間からちらちらと興奮しながら見ていた様はちょっとドン引きしてしまった。あなた……孤児院で男の子の裸なんて見慣れたとか言ってなかったかしら? と思ったのものだ。
(「まあ、確かにカインはイケメンかもしれない」
年はレティと同じ12歳くらいで顔に幼さを残しながらも、どこかひたむきな性格が出たような感じだ。鍛錬のおかげか……身体も引き締まっている。髪は赤色のつんつん髪で、稽古のときは皮の装備一式をしている。
また奇声をあげているレティに少し呆れながらも”計画通り”と思う私がいた。
(「レティはカインに惹かれるの必定だったのだろう。これで条件の一つは満たした」
まあ、この先にいけるかは私次第……カインの師匠である現勇者ザンガ・ゼッターに今の私で上手く立ち回れるのか――まあ、ここで私が滅びを迎えるのなら私はその程度だったのだろうと納得できる。それにこれ以上ない勇者とのファーストコンタクトを逃す手は私的になかった。
(「そういえば、私が人攫いに襲われた理由の一つに現勇者が少し関わっていたわね。物語を演出するためにそこをつくことにしよう」
魔よけの石碑のおかげで魔物に襲われることもなく、たまに現れるならず者はセリアの大罪の力でなんなく解決して優雅な旅路は続く。
カインの映像から目をそらし、外に目を向ける。
馬車の外に広がる雄大な草原はさんさんと輝く太陽のようなものに照らされ、少し景色が歪んで見える。ああ、こんな暑い日は日のあたらない場所にいれてよかったと思うのだった。
「お、お姉さま。あ、あの、少し休憩頂けませんか……あ、暑くて――」という魔王の娘の小さな声が聞こえた気がしたが、現勇者の命日が近づいて急いでいるため、無視した。
言葉には出さないけど、少しは罪悪感を感じているわよ?




