表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/49

第十話 解体ショー


「さてと……」と私は上半身と下半身が分かれて、呆然としてうつ伏せで転がっている魔王の娘の上半身を合魔化したデススコーピオンの尾で持ち上げて私の眼前に持ってくる。



 魔族は死ににくく上半身と下半身を分かれたり、首だけになっても数分は死にはしない。上半身だけになった魔王の娘のハサミで切られた肉の断面は出血量はしずくが落ちる程度で中身も飛び出したりはしなかった。どういう原理になっているのだろうか?



「ご機嫌麗しゅうございます。エクセリア・ワーレット閣下」と右手を左胸にあて挨拶する。


「え、え、え、あ、足が動かない……」


 魔王の娘――エクセリアはいまだ現実を見ずに足があると夢想しているようだ。



 なので――「閣下の足なら、ほら、後ろにございますわよ」とエクセリアの下半身がある場所を視線で示す。



 エクセリアはサソリの尾で拘束された状態で後ろを振りむき、地面に横たわっている自分の下半身を視認すると――「あ、あああ、あああ、痛い、痛い痛い!? なんで?! た、助けて!!」


 エクセリアは顔を歪ませ泣きじゃくり、彼女の右手が闇に包まれる――魔力を集めなにかを呼び出そうとしてるのだ。



――エクセリアの右手に骸骨の水晶がついた杖が現れる――



「七つの大罪が一つ」――またしても”ぶん”という風鳴り音――「いやぁああぁあああああ!!」何かの詠唱をはじめようとしたエクセリアの声が途中から悲鳴に代わる。


 エクセリアの杖を持った手は”ぼとん”と地面に落ちる。もちろん、私がサソリのはさみで切ったのだ。エクセリア自身は正直とてつもなく弱い。レベル10くらいで余裕で討伐できるレベルだ。彼女が最後まで主人公の前に立ちはだかることができたのは彼女専用装備の杖から”七つの大罪”と呼ばれる召喚獣を呼ぶことができるからだ。よって、杖について警戒をしていた私に死角はなかったわけだ。


「あらあら話し合いをしようというのに物騒なことはおやめなさいま……お遊びはやめるか――レティは今の内に魔力回復促進剤飲んでおきなさいよ」というと今まで地蔵のように硬直していたレティが「ひゃい!」と返事する。


「……いやいや、なんでこんなひどいことするのー?! 同じ魔族でしょ?!」とわめくレティ。


「うるさいわね……魔族に同族意識なんてないわよ」と適当にうそぶいて、ついでにエクセリアの左手もはさみでちょんぎる。


「いたいイタイイタイ!! し、しんじゃうの? あたし……ご、ごめんなさい」と目に焦点があってなくうわ言をつぶやくエクセリア。これ以上は死んでしまうか。


「レティ、まずは上半身と下半身を回復魔法でくっつけなさい」と言いながらエクセリアの下半身が転がっているところに「ごめんなさいごめんなさい」とうわ言をつぶやいているエクセリアの上半身を正常にくっつければ問題ない位置に置く。


「ごくごく……の、飲んだけど、で、できるのかな?」とビンから口を離し緊張気味のレティ。


「はやくやらないと死ぬわよ!!」といらたち気味に私は言う。”イタイ”という言葉が妙に引っかかる。この程度で何を言っているのかという感想が自分の内から出てきて困惑するが――別にいいかとすぐにその考えは霧散した。


「あーもう、ミレィがやったのに……でも、誰も死なせない!!」



『ヒール!!』とレティが唱える。さすがにすぐはくっつかないが徐々に繋がっている様子がみてとれる。


(「この世界のヒールは元通りに治すことに特化している。これから行う予定のイベントには必須項目な実験だし、人型に試せてちょうどよかった」


 魔王の娘は死ねば、魔王復活アイテムの”殺生石せっしょうせき”になる。なのでここで殺しても問題ない。このアイテムを魔王封印の間に持って行けば魔王は復活する。ただし、今から三年後じゃないと魔王は弱体化状態で復活してしまうため、ゲーム上では時を待っていたという話だった。


「も、もう大丈夫だよー」と額に汗を流し疲弊したレティは笑顔で両手を失ったのみとなったエクセリアを安心させるように話しかける。


「あ、あしが動く。て、手がなくなって、い、痛いけど……お、お願い、何もしないから、手を治してください」と仰向けに倒れた状態で主犯であるミレット(わたし)にゆるしをう――エクセリアは現れたときの尊大な態度とは打って変わってふるえる子犬ようである。ちなみに胸はぺったんこである。どうでもいいことだった。


「そうね……私の配下になるなら考えてもいいわよ?」と提案する。彼女の召喚獣は中々に利便性が高いものが多いし、合魔化して私が使用するにも打って付けだ。魔王復活後に彼女は必ずしも使えなくなってしまうわけではない。魔王弱体化の状態で復活するときは別にエクセリアを殺生石にする必要はなく、エクセリア衰弱化のみで復活できるらしい――とゲームの用語辞典で載っていた。ゲームスタッフが複数エンディングにしようとしたが製作期間の関係で頓挫したための設定だと勝手に解釈していたので覚えていた。ファンタジー・レクイエムはエンディング一つのみである。


「で、でも、あたしはお父様を助けないと……」


「あなたが死んでしまうとしても?」


「――え?」


「知らないでしょう。大賢者に封印された魔王が自らの一部を切り離してあなたを作った……でも、あなたは復活の触媒に過ぎない。復活時期をあやまればあなたは死んでしまうのよ? エクセリア」と情に訴えることにした。


「あたしの名前を――た、たとえそうだとしても、あたしはお父さんを裏切れない」と涙を流しながらに拒絶するエクセリア。ふむ、やはりそうきたか。


「そう、残念だわ。あなたが”はい”と頷くまで切ってはくっつけて切ってはくっつけてするわよ」とはさみをちょきちょき鳴らしながら、エクセリアに近づく。


「え? え? え? や、やめ」と怯えるエクセリアに、レティが私の前に立ちはだかる。


「ちょ、ちょっと、そんな非道な」と何を言うかまるわかりなレティの言葉を「黙りなさい」と言って拒み、「レティ。それより、あなたが治せないと彼女死ぬわよ」と脅しをかける。


 レティの治癒魔法の練度上げにもちょうどいい。とても良い子にはお見せできない解体ショーはこうして開幕した。






「あたしはお姉さまのものです。何もしてくれないあんなカス知りません」とうつろな目でそんなことを淡々というエクセリア――今は五体満足だけど逃げようとはしない。まあ、エクセリアの周りの地面は血だらけだけどね。


「はぁはぁ、うっぷ」レティは全身汗だくで厚手の神官服が透けて下着がみえるくらいになり、顔を真っ赤にしている。さらに仰向(あおむ)けになってお腹を苦しそうにして、ぽっこり膨らんだお腹をさすっている。MP回復促進剤の飲みすぎに無茶な魔法の使用での疲弊がすごいみたいだ。ここはゲームとの違いだろう。


 エクセリアが現れたときは夕暮れだったのに朝日が昇り始めてしまった。合魔化を解いた私は「エクセリア……いえ、セリアは変化へんげの魔法で人間に変身しなさい。レティも地面ではなく宿屋のベットで寝なさい。そろそろ帰るわよ」と言って町に向かう。


 よろよろと立ち上がりながらレティは「ひ、ひどい人命救助させられた。で、でもセリアが死ななくてよかったよー。なんかよくわからない感動があるよー」


「はい、お姉さま」と言うとセリアは一瞬闇に包まれたかと思ったら、一般市民の女の子が着るオーソドックスな格好に黒い髪に黒目ということもあって日本人が無理やり西洋っぽい姿をしているようにみえる。こうもりのような羽と角はもちろん見えなくなっている。ゲームでは人間状態で主人公と会うイベントがあったのだが、やはり変化はできるようだ。人間状態といえ、ほぼそのままの彼女に気づけなかった主人公はやはり主人公体質だったのだろう。


「ふぁ」とあくびを手でかみ殺しながら、興奮していたため、なかった眠気が復活し、身体が睡眠を求めている。今日は一日中寝ていることに決めるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ