第九話 襲来?
<職人街・とある武器屋>
「ねぇねぇ、ミレィ。当てがあるとか言っていたけどー。これからどうするか聞いてないよー?」と数あるメイスが入った大きな壷から一本のメイスを片手に持ち、重さを確かめていたレティはそんなことを聞いてくる。
「……必要なときに言うから気にしないでいいわよ」先程、武器を眺めていた私だが、今あるサーチェスの円月刀を武器屋の主人に鑑定してもらったところこの武器屋にあるどの武器よりも業物らしい。商売下手な主人である。
「そっかー了解ー」と興味を失ったのか。真剣に自分のメイスを吟味するレティ。
(「アホの子は扱いやすくて助かるわ」
毎度よろしく虚言の所為で当てがあるとか言ったけど実はなかったりする。一応、正体がばれないように注意はするがばれたらばれたでイベントとでも思うことにしよう。破滅願望なんてものを持っているとある意味ズボラになるのだ。
(「自分がミレットか……菫かなんていうのも曖昧だしね」
今の自分はもはや別人格だという認識を持っていたのだが、片方の人格が強く出ているときがあるように感じる。まあ、人間なんていくつもペルソナを持つなんて当たり前だ。気にすることではないだろう。
(「防具屋と道具屋で必要なものは買ったし……こんなところか」と店巡りもここが最終ということで、腕試しに行こうと皮算用する。
ちなみに今のレティの格好は神官服である――白を基調とした露出が少ない格好で、十字のマークが入った神官帽を被っている。杖よりもメイスを持たすことで攻撃力アップを狙っている。攻撃魔法は神官だからアンデット向けのしかないので魔力を高める杖である必要はないだろう。
私は頭巾で髪の大部分を隠し、まるで山賊のような毛皮の防具をしている。金属鎧はどうにも重く私には合わなかったので、基本敵の攻撃は避ける感じになるだろう。背中に背負っている円月刀も相まって本当に山賊だ。印象操作にはいいだろう。
「ミレィ、これに決めたよー」と選んだであろうメイスをぶんぶん振ってアピールするレティ。
「はいはい、会計済ますわね」
私は武器屋の主人にお金を払いにいくのだった。
「ああー、わたしの相棒。ちゅっちゅっ」と私が会計を済ましている後ろで、レティが自分のメイスにキスするキモイ声が聞こえた。
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私は目の前にいるブラッドアリクイという赤色をした私の身長より少し低いくらいのアリクイに向かって走っていた!
――アリクイの舌が伸びて私を拘束しようとする――
『スラッシュ』
その言葉と共に私が右手で持つ円月刀の剣閃が鋭くなり、アリクイの舌そして胴体も含めて横に真っ二つにする。
地面に仰向けで倒れたアリクイは手をばたばた動かしていたが、次第に動かなくなり沈黙する。
「ふぅ、今日はこれくらいかしら」と汗を拭うわたし。今は町から少し離れた草原にいる。成果は上々でブラッドアリクイを10匹は単体で撃破している。
「おめでとー。10匹目撃破だねー。あ、切れてるね。『プロテクション』」とレティが唱えると私の右手に金色の十字のマークが浮かび上がる。よくある基礎防御力をあげる呪文だ。『プロテクション』がかかったレティに石を投げたら確かに頑丈になっていて、ぶつかった額は少しはれただけだった。レティはその後”ぎゃあぎゃあ”なにか言ったけど大したことではない。
今の私たちは――私は職業『剣士』で初期技の『スラッシュ』、レティは職業『治癒術士』で回復魔法の『ヒール』・『プロテクション』を覚えている。初日なのでこれ以上は覚えてない。
魔法はいわゆるMPを使用するもので自然回復するか、自然回復を高める魔力回復促進剤で回復力を高めるのが一般的だ。
技はSP――気力といった人間の内に秘めているものを使うのだそうだ。これも自然回復、気力回復促進剤で回復力を高める。
(「つまりは一瞬で回復するものは怪我が一瞬で治るのは回復薬ってところね」
等級が一番高いのを瓶詰めで持っている。レティの回復魔法もあるし、回復にはことかかないだろう。
「そろそろ町に帰らな〜い? そろそろ日が暮れるよ〜」とレティが言うように日が落ちて来ていた。広大な森に落ちようとしている夕暮れは幻想的な情緒をかもし出している。
「? あれは……」
そんな中、夕日をバックに何か黒いものがこちらに近づいてきている。
「あれー? 何か鳥かなー?」とレティも気づいたようで、確かに羽がある。
「いえ、あれは……」
次第に正確に見えるようになっていく。
こうもりのような羽が生えた――魔族だ。
(「しかもあれは……魔王の娘ね」
魔王の娘――ファンタジー・レクイエムのある意味裏のヒロインである。何度か主人公に襲撃を仕掛け倒されてもめげずに襲撃するキャラクター、なんで主人公はトドメを刺さないのか思ったことが何回あっただろうか。彼女は封じられた魔王を蘇らせるための触媒であり、最後は魔王復活のために命を落とす薄幸のヒロインである。
(「魔王復活のタイミングをこちらで制御するには必要な存在ね」
そういう思考をしている間に魔王の娘は私たちの前に降り立つ。
漆黒の髪を腰まで伸びており、頭からは丸まった角が二本伸びている。目は切れ長で身長は私よりも少し低いくらいだ。骸骨の首輪、紫色のビキニのような服、靴は前のほうがそりあがっている。
「はっはっはっ。わらわこそが」――”ぶん”という風鳴り音がする――「え……あれ?」と口上をはじめた魔王の娘が何かに気づくが……もう遅い。
――どさっという音共に魔王の娘の上半身と下半身は物別れてしていた――
もちろん、犯人は私、瞬時に合魔化してハサミでちょんぎったのだ。口上キャラの特性を利用しての攻撃だった。さて、利用させてもらおうか。