第3話「第4層・己が罪」
第3層では、魔物に見つからず、無事に4層まで辿りつく。
そこで、魔物以外の気配を感じた。俺と同じ、冒険者達だ。足音や、装備などが放つ音の反響具合から言って、数は4つ。
それは別段珍しい事ではなかった。しかし、俺はその冒険者達の姿を見て強張る。
「ちっ……お前……!」
「よせ。行くぞ」
先頭を歩く男が、俺に向かって何か言いかけたが、別の男が肩を掴んで止めさせる。その後ろを歩く女2人は、俺に声こそかけなかったが、目で訴えるような、侮蔑の混じった視線を投げて来ていた。
俺は、何事もなかったかのようにその横を通りすぎ、角を曲がった所で、背負子をおろして、壁に背を預けた。
「はぁ……くそっ」
知り合いだった。それも、お互いに忘れようもないくらいに。
相手は、俺が以前、魔物の擦り付けを行った相手だった。
初めて潜った迷宮区で、勝手が解らなかった。迂闊だった。
その日、俺は今ほどではないにしろ、予備の武器も持ち込み、万全と思う状態で迷宮に潜っていた。
敵からは、はっきり言って歯ごたえを感じていなかった。調子に乗った俺は、10層まで降り──そこで、「大部屋」と呼ばれる部屋に迷い込んだのだ。
そこから生き延びれたのは奇跡だったと思う。持ち込んだ武器をすべて使い潰して魔物を殺し、人型をした武器を持つ魔物から武器を奪ってそれをまた使いつぶす。
それでも数の減らない「大部屋」からなんとか逃げだし、魔物を引き連れながら上の階層まで逃げ、そこで彼らに遭遇した。
あの時、俺は正常な判断をくだせなかった──そんなものは、言い訳だろうが。俺はあの時、疲労と、恐怖から、目の前にいる集団に、魔物を擦り付け、逃げ出す選択をした。
5人いた冒険者たちが、どうなったのか。俺は地上に出て、数日たった時に知った。全員、生きて地上に戻ったものの、1人が治癒魔法でも完治できない程の怪我を負い、引退。ほかのメンバーも大怪我を負い、治療のために最近まで活動を停止していた。
当然、彼らは怒り、ギルドを通して俺に抗議しようとしたが、ギルドは迷宮区内での一切の問題に責任を負わないとのことで、俺は無罪放免。しかし、その噂が元で、俺は仲間を募る事ができず、1人でこうして毎日潜っている。
「当然だよな……人を犠牲にするような奴に、背中を預けられないよな」
いつの間にか、座り込んでいた俺は、重たく感じる足に力を入れ、立ち上がる。
「……なんにせよ、今日の分を稼がないと、な」
俺は、萎えそうになる気持ちに活を入れ、4層の魔物を探し始めた。