第1話「迷宮区・入り口」
迷宮都市・マルク。
大通り、と呼ばれる迷宮区へと通じる通りで、俺は無数の好機の視線に晒されていた。
俺の名はアドルフ。中肉中背、特筆すべき凡庸な顔立ちで、モテたりしたことはない。現に、視線の中には、刺すような殺気と、侮蔑が混ざったモノがいくつかある。
好機の視線も俺の方を向いてはいるが、俺を見てはいない。正確には、俺の背中に集まっていた。
背には、剣を背負っていた。しかし、それは、一本二本なんて数ではない。
矢束のように、一本いくら、というような形で剣が背負子の中にぎゅうぎゅうに詰められている。迷宮帰還後の、獲得物──そんな風に勘違いするのは、なんの事情も知らない一般人か、観察力の無い馬鹿だけだろう。
俺は、迷宮に向かっており、刺さっている剣は、見ただけで安物と解るようなものばかり。酷いものに至っては、錆すら浮いているものもある。俺は、それらの剣を特に整備したりせず背負子に突っ込んでいる。
どうせ、整備した所で、変わらないからだ。
「通るぞ」
「……あんたか。ま、気を付けてな」
迷宮入り口に辿りつき、俺は、見張り小屋の兵に声をかける。
普通、見張りと言えば、入り口に不法侵入者がいないか見張っているものだが、迷宮の見張り兵、というのは違う。迷宮の入り口の方を見張っているのが、その仕事だ。現に、見張りの兵は、俺に返答しながらも、迷宮から長く視線を逸らそうとしない。
毎日迷宮に出入りする俺たち探索者にとっては、そこまで気にするもんでもない、と言える事だが、一般人にとってはそうではないらしい。迷宮は、その豊富な物資から、都市などで重宝されている。迷宮が作り出す、無限に思える物資によって、迷宮都市は支えられていると言っても過言ではない程だ。
しかし、迷宮は人間にとって良い事ばかりではない。迷宮内には魔物が多数存在しており、それらが探索者を襲う。怪我で済めば儲けもの。そして、迷宮内だけでなく、時にはその迷宮周囲に牙をむく事もある。
迷宮内で魔物が増え、それが溢れると、≪暴走≫と呼ばれる現象が起こる。多すぎる魔物が、餌を求めて外にでるのだ。そうなると、当然、真っ先に都市に被害が及ぶ。
兵士たちは、数年前にそれを経験したそうで、今だに警戒しているらしい。割と新参者な俺には、理解できないようなものがあるようだ。
短い挨拶も済ませ、俺は迷宮に足を踏み入れる。薄ぼんやりと明るいそこは、地下に潜ったというのに、明かりもなしに見渡す事ができる。迷宮自体が明かりを放っているためだ。
僅かに明滅するように光量を変えるそれが、何かの鼓動を思わせ、俺は不快感を無視しながら進む。
一層には用がなかった。ここでは倒しても一銭にもならない。俺は魔物に見つからないように、気配を殺しながら、足早に地下への階段を目指した。
ちょっと短いですが、試験的な作品であるので、細かく投稿していこうかと思います。