第0話「ようやく、見つけた」
迷宮区、39層。私は、ここにいる。
別名ダンジョン──迷宮という名に相応しいそこは、人を迷わせ行く手を阻む。
時に魔物が、時には罠が。迷宮に巣くうそれらの悪意が、富を得ようと欲にまみれた人間を飲み込み、逆に糧へと変えられてゆく。
私は、それらをただ見ていた。
私の使命も忘れるほどに、長く。長く。
いったい、どれほど待ちこがれていたでしょうか? 幾月、幾年。そんな、短い時間ではない。長い、ほんとうに長い間。私はこの地に繋がれてきた。
でも、それも、今日で終わり。
ようやく、見つけた──いえ、見つけて貰えた。
この瞬間、この時を。私は、ただただ過ぎる時間と共に耐えてきました。
「はは……最後まで、諦めるなって事か……? なぁ、お前……お前は、耐えてくれんのかよ」
繋がれた私の前に現れた青年。ふらふらとした足取りで、冒険者らしい彼は、ぼろぼろの身体を、引きずるようにして、私に近づく。
青年が、私の身体をしっかりと掴む。
「どうか、耐えてくれよ。ニ撃なんて贅沢は言わねぇ。たった一撃、一振りでいいから耐えてくれ」
聞こえる声に伝わる鼓動に、期待に、私の身は震える。流れ込む暖かな力に、満たされていく。
はい、はい。必ず。あなたの求めに答えて見せましょう。
私はそのために存在するもの。
私はあなたを導くもの。
私はあなたの敵を切り裂くもの。
そして、私はあなたに試練を与えるもの。
どうか。どうか──私に使命を果たさせてください。あなたを導かせてください。
そしてどうか、私の与える試練を乗り越え、神の御技を受け継いでください。
「こんな所で、死んでたまるか……! たとえこの剣が折れても、俺は諦めてやるもんか……!」
青年は、魔剣を構え、迫り来る大きな影を迎え討たんと駆けだした。