夏の雨を避けて
「うわ。これはちょっとヤバそう」
昇降口を出た途端、嫌な予感が頭をよぎり、そんな独り言が口をついて出た。
見上げた空はどんよりなんて可愛いもんじゃない。真っ黒と言ったほうが正しい。幸い、まだ雷鳴は聞こえないけれど、あと少ししたらひどい雷雨になりそうだ。
家まで歩いて十五分。果たして、無事にたどり着けるだろうか。
こんなことなら部室の棚の整理なんて明日にまわせばよかった! 別に急ぎじゃなかったんだし。
なぁんて、今更言っても仕方ない。とにかく早く帰ろう。
私は、じっとりとした熱気の漂う中に一歩を踏み出した。歩いているだけで服まで濡れそうなほど湿気た空気。暑くてたまらないのに、半袖の腕にぞわっと鳥肌が立つ。
不穏な空気に気持ちがざわざわする。
ひとりで帰るのが不安で、誰か知ってる人はいないかな? とあたりを見回してみたけれど、友だちどころか、誰ひとり見当たらない。
こわー!! ますます不安になってきた。
気持ちは焦るし、でも走る気力は湧かないし、間を取って早歩きしてたら、校門にたどり着く頃には、全身から汗がにじみ始めていた。
こんな湿気て気持ち悪い暑さの中、部員さんたちはグランド走ってたわけだよね。すごいなぁ。と、今日の練習風景を思い出して感心した。
中でもハードルを飛ぶ三野先輩はかっこよかったなぁ。いや、先輩は今日だけじゃなくて、いつもかっこいいんだけれど。
真っ直ぐに前を見据える眼差し、グラウンドを一直線に駆ける長い足、シャープなカーブを描く頬を伝う汗。走り終わった後のちょっと照れたような笑顔――思い出せば、思い出すほど、胸がきゅんと痛くなる。
「あれ? マネージャー、今帰り?」
周りには誰もいないと思っていたので、突然の声に飛び上がるくらい驚いた。
聞き覚えのある声だ。
もしかして……? と思いつつ振り向くと、やっぱり!
三野先輩だ。今の今まで頭の中で考えていたその人が現れたせいで、視線があわあわと泳いじゃう。
「三野先輩! もう帰ったんじゃないんですか?」
「ん? ああ。忘れ物取りに戻ってきた」
胸のポケットに入れたスマホを少し引っ張り出しながら、苦笑いをしている。
忘れ物ってスマホかぁ。ないと不便だもんね。それは取りに戻るよね。
「マネージャー、何ぼさっとしてんの。早く行こ」
「え? あ、はい!」
いつの間にか一緒に帰ることになっていてびっくりした。
けど、そんなふうに気構えてるのは私だけで、先輩はこともなげにさっさと歩き出してしまった。
そうだよね、帰る方向が同じなんだもの。こんなふうに顔を合わせたら、普通そのまま一緒に帰るよね。意識しないよね。
勝手に“特別”なことだと浮かれてしまいそうな気持ちを、どうにかこうにか押し込めて。
なんでもないみたいな顔をして、ただの後輩ですって顔をして。そうして三野先輩の背中を追った。
白いシャツから伸びる日焼けした腕が、こんなどんよりした天気でも眩しい。
「先輩、歩くの早いですよー!」
「何言ってんだよ、マネージャーが遅いんだってば。早くしないと降り出すよ?」
「わ、分かってますけど!」
足の長さの差を考えてくださいよ!
小走りで追いついて並んで歩き出したら、今度は置いて行かれたりしなかった。
なんだかんだ言いながら、歩調を私に合わせてくれる優しさに嬉しくなる。
「もうすぐ期末テストだよな。あー憂鬱」
「やだ、先輩。ちゃんと勉強してくださいね。間違っても赤点取っちゃダメですよ! 大会近いんですから追試とか補習とかやめてくださいー!」
「分かってるってば。マネージャーこそ大丈夫なんだろうな?」
「うっ! 物理以外はなんとか……なる、かな? あはは」
と馬鹿正直に打ち明けたら、軽いげんこつが落ちてきた。
「あはは~じゃねーだろ!」
「いたー! ──だってできないものは、できないんだもん!」
他愛もない言い合いをしながら先を急ぐ。ドキドキして胸が苦しいから早くさよならしてしまいたい気持ちと、このままずっと楽しくおしゃべりしていたい気持ちと、相反するふたつの感情が心のなかでせめぎ合っていて、心の中がヒリヒリする。
いっそ「好き」だって言ってしまえれば楽なのかもしれないけれど。
でも、同じ部の部員とマネージャー。先輩と後輩。近くにいられるそんな関係を壊したくない。
三野拓海。同じ中学出身で、ひとつ上の二年生。
私は彼に二年越しの恋をしている。
「ねぇ、マネージャー」
彼は私をマネージャーと呼ぶ。
天谷と苗字を呼ばれることも、ましてや七菜香なんて名前で呼ばれることもない。
私は彼にとって、どこまで行ってもマネージャー。それ以上でも、それ以下でもない平行線。
マネージャーと呼ばれるたび、チクチクと胸が痛む。話しかけてもらえて、視界の中に入れてもらえて、嬉しいはずなのに。
「何ですか、先輩?」
「ダメだ。時間切れ」
「え?」
何のことかと顔を上げたら、頬へ冷たい雨粒が一つ落ちた。
「マネージャー、傘持ってる?」
「ごめんなさい。持ってないです」
昨日も夕立に降られて折り畳み傘を使い、干しっぱなしにしたまま家に忘れて来ちゃった。
「謝らなくていいよ。マネージャーだけでも傘差せれば、濡れなくて済むだろうと思っただけだから」
「そんな」
自分だけ傘を差そうだなんてそんなことできないし。
でも、そしたら相合傘になっちゃう!? ──と妄想の世界に飛んでいきそうになって慌てて現実に戻った。
だいたい、肝心な傘はないんだから想像したって仕方ない。
ぽつぽつと降り出した雨は、あっという間に雨脚を早めている。
私は走るのが苦手だけど、先輩は違う。私に構わずに走って帰ればきっとあまり濡れないうちに家までたどり着くに違いない。
「先輩、私に構わず走って──」
最後まで言えなかった。
突然、稲妻が走ったかと思ったら、間髪入れずにものすごく大きな雷鳴が響いたからだ。
「っ!!」
「うわ……」
びっくりしすぎて声が出ない私の横で、先輩は小さくたじろいだだけだ。
「あー。これは傘があってもさせなかったな。どこか雨宿りできるとこは……っと」
独り言を言いながら、彼は周囲をぐるりと見回した。
何で男の人ってあんまり雷が怖くないんだろう? なんてのんきなことを頭の片隅で考えているけれど、体は雷が怖くて硬直したままだ。
「そうだ。この先に児童公園あったよな。そこの遊具の下なら雨宿りできるんじゃないかな。マネージャー、急ぐよ」
促されても、足がすくんでて動かない。早くしなきゃ濡れちゃうって分かってるし、このまま立ってたら危ないのも分かってるのに。
「どうしたの?」
「怖くて動けない、かも……」
「もしかして、マネージャーは雷が苦手?」
「はい」
高校生にもなって、子どもじみたことを……と思われそうで、答える声は小さくなる。
呆れられたかも、と思うと顔が上げられない。
でも、先輩は呆れたふうでもなく、ふうん、と不思議なニュアンスで頷くと、いきなり私の手を引いて走り出した。
「え、ちょ、先輩っ!?」
「走れないんだろ?」
「でも!」
手、手が、手があああ!!
パニックを起こしてる間に、また空で稲妻が走った。
「光ったああああ! イヤー!!」
叫んだ途端に今度は地響きがするくらい凄い雷鳴が轟いて、私の悲鳴は掻き消された。
「落ち着いて、マネージャー」
「だってえええええ!!」
「怖いならなおさら走らないと。ほら、もうすぐ着くよ」
「は、はいぃ……」
手を引いて走りながら、先輩は半泣きの私を励ましてくれる。
顔に当たる雨粒が痛くて目を細めているから視界は悪いけど、前を走る先輩の広い肩はよく見える。
掴まれた手首が熱い。
彼の走るペースに合わせて走るのはきつくて、すぐに息が上がって全身から汗が噴き出した。けど、触れ合った箇所はそれ以上に熱くて。泣きたいくらい切ない。
そして先輩に引っ張られているうちは、何が起きても、何度雷が鳴っても大丈夫な気がしてくるから不思議だ。雷の怖さを忘れちゃいそうだ。
人もまばらな道を駆け、勢いもそのままに公園に入り、目指す遊具の下に駆け込んだ。
私たちが駆け込んだ遊具には、少しかがめば大人でも入れるくらい大きなトンネルがある。
小さい頃はここを秘密基地にして、日が暮れるまで遊んだっけ。
昔はとても大きなスペースに思えたけれど、今になってみるととても狭い。二人で並んで座り込んだけれど、ちょっと――いや、かなり窮屈だ。だから私たちは寄り添うように並んで座っている。
地面よりちょっと高くなっているからか、雨水も入らず床は乾いている。だから座るのに問題はなかった。むしろ、私たちの衣服から滴り落ちる雫がぼたぼたと床を濡らしていく。
駆け込んですぐは荒い息を吐くだけで、会話らしい会話もできなかった。
先輩も荒い息をついているけど、私に至っては息も絶え絶えだ。
県大会の上位入賞常連な先輩のペースに、一般的な運動能力な私が付き合わされたんだもん、すぐに回復しろってほうが無理だって!
それでも五分ぐらいで何とか喋れるくらいまでには回復した。
「せん、ぱい……走るの、はやっ」
「悪ぃ。早くしなきゃってそればっか考えてた」
「私の方こそ、迷惑かけてばっかでごめんなさい」
雷が怖くて動けなくなったり、走るの遅かったり。
「迷惑だなんて思ってない」
「でも……」
「それより、もうちょっとこっちに寄ったら? せっかく雨宿りしてるのにしぶきで濡れちゃうだろ?」
でもそんなことをしたら、今でも触れそうな肩が完全にくっついちゃう。
「マネージャー?」
どうしたの? と、無邪気な様子で顔をのぞき込んでくる先輩に、自分だけが妙に意識してることを思い知った。
固辞するのも意識してるって宣言してるようなものだし、私は平静を装って、ちょっとだけ先輩に近づいた。
濡れた肩と肩が触れ合って、湿った熱を感じる。先輩の方が少し体温が高いみたいだ。
心臓の音がどきどきうるさくて、こんなに近かったら、先輩にも聞こえてしまいそう。
トンネルの外はますます雨足が激しくなっていて、それと一緒に雷も酷くなっていた。
ドンと雷鳴が轟くたびに、肩がびくっと跳ねて、体が固くなる。肩が触れているきっと先輩には、私の怖がりようはバレバレなんだろうなぁ。
今さらかもしれないけれど、 子どもっぽい自分を少しでも隠したくて、うつむいて唇を噛んだ。そうすれば稲光はあまり目に入らないし、悲鳴もあげにくくなるから。
「大丈夫?」
心配そうに聞いてくる声に顔を上げれば、ものすごく近くに先輩の顔。
「わっ!? え、ええ。だ、だ、だだだ、大丈夫、ですっ」
「全然大丈夫そうに見えないんだけど」
いや、この取り乱しようは、雷じゃなくてあなたのせいですからっ!
と思った矢先、外でものすごい光と音が弾けた。
「いっやーーー!! 今のどっか落ちましたよね!?」
「──かもね」
「何で先輩はそんなに落ち着いてられるんですかっ」
半泣き状態で食ってかかるように聞いたら、先輩は困ったように頬をかいた。
「うーん。そう言われてもなぁ」
先輩は「よくわからない」と締めくくった。
「それよりマネージャー。手、貸して」
「手?」
「うん」
何だろうと訝しみつつ先輩のほうに手を出したら、大きな手が私の手を包み込んだ。
「な!?」
「こうやってたら、少しは雷が怖くなくなるんじゃないかと思ってさ。どう?」
どう? と聞かれましても!
あ、いや、確かにびっくりして雷どころじゃないけど。
「あ、は、はい。そーですね……」
「じゃあ、雷が遠ざかるまでこうやっていようか」
「あ……りがとう、ございます」
しどろもどろになりながら答えると、先輩は嬉しそうに笑った。
それきり話すこともなくて沈黙が落ちた。
外は相変わらずで、まだ止む気配もない。
雨の音、触れ合った肩の温かさと、繋がれた手。息苦しいような、優しいような静かな時間が流れていく。
ずっとずっと聞けなかったことを今なら聞けるかもしれない。いいえ、今を逃したらずっと聞けないかもしれない。でも答えを聞いてしまうのも怖い。
何度も何度も迷って、ようやく私は決めた。
「先輩」
「ん?」
「ひとつ、聞いて良いですか?」
「なに?」
「どうして……どうして先輩は、私のことをマネージャーと呼ぶんですか?」
うちの部にはマネージャーをマネージャーと呼ぶ習慣はなくて、他の部員さん達はみんな「天谷さん」とか「天谷」って呼ぶ。
なのに、三野先輩だけが違う。
中学の時は先輩も苗字で呼んでいてくれたのに、何で変わっちゃったんだろう。
知らないうちに先輩が怒るようなことを言ったか、したか。それで嫌われちゃったのか。そう思ったこともあったけれど、でも毎日話しかけてくれるし、いつも優しく接してくれる。
今日だってこんな風に気を使ってくれて──。
もう、何が何だか分からない。
「あー……それか。参ったなぁ」
先輩は空いた方の手で、濡れて額に落ちた髪をかき上げた。
「理由、話しても引かない?」
困り果てたような顔をしているけど、そんなに言いにくいことなの? 何を言われるかびくびくしつつ、私は無言のまま頷いた。
「あー、その、なんだ。嫌なんだ」
「嫌?」
それって私のことが嫌いってこと?
思ったことが顔にそのまま出たのか、私のほうを見た先輩は慌てたように続けた。
「あ、いや、違うって。ああ、もういいや。はっきり言うよ。みんなと同じ呼び方で君を呼ぶのが嫌だったんだよ! みんな君のこと天谷って呼ぶじゃん。だからそれ以外の呼び方をしたかったんだ。でもさ何とも思ってないヤツから名前呼びされたら君だって気持ち悪いだろ? だから名前を呼ぶわけにもいかなくて、それでマネージャーって呼んでた」
「そ、それって、どういう……」
「どうもこうもないよ。──好きなんだ、君のことが。中学のころからいい子だなと思ってたんだ。高校で再会してから自分の気持ちがはっきり分かった」
「嘘……」
先輩の言うことが信じられなくて、私は俯いて靴のつま先をじっと見つめた。頬が火を噴きそうなほど熱い。きっと耳まで真っ赤になっているんだろう。
「嘘じゃない。ああ、クソ! 君に避けられるのが怖いから、本当はずっと黙ってるつもりだったんだ。まさかこんなところで告白する羽目になるとは思わなかったよ」
先輩が私を好き? そんなことが本当にあるの?
もしかして都合のいい夢を見てるんじゃないかな。
「どさくさ紛れにこんなこと言ってごめんな。驚いたろ? でも、せっかく告白したことだし、君の気持ちを聞いてもいいかな? 迷惑だったらはっきりそう言ってほしい。もうこんなふうに君に近づかないし、学校でも部活でもちゃんと距離を取る。だから……」
「私、ずっと先輩に避けられているんだと思ってました。だから、名前じゃなくてマネージャー呼びだったんだって」
「え?」
「どうしよう。今、すごく嬉しくて、なんて答えたらいいか分からないです」
「それって……」
私は今、決定的な返事をしようとしてる。
心臓が早鐘を打って苦しい。
「三野先輩。私も先輩の事が好きです」
言っちゃった。
ずっと胸に押し込めていた気持ちを。
「よかった……」
先輩は大きなため息を吐きながら、体の力をくたりと抜いた。膝に額を乗せながらもう一度「よかった」とつぶやくのが聞こえた。俯いているから表情は分からないけれど。
「中学の時からずっと好きでした」
そう告げると、先輩は笑い出した。
「マジで!? 俺たちは長い間、お互いに片想いしてたってことか!」
呆れたような口調だけれど、先輩の顔には晴れ晴れとした笑顔が浮かんでいる。
それにつられて私の口元もほころんだ。
「そうなりますよね」
「そっか。そっか……なんだ、そうだったんだ」
先輩は何度も「そうか」を繰り返し、照れ隠しのように、濡れた髪をくしゃくしゃっとかき上げた。
そして唐突に手を止めると、私のほうへ向き直った。
「今まで時間を無駄にしてきたぶん、これからはたくさん一緒にいたいな」
さっきからずっと握ったままだった手に、ぎゅっと力が込められた。
恥ずかしくて、思わず俯いちゃったけど、その代わり私は何度も何度も頷いた。
頭の上から彼のホッとしたような吐息が聞こえた。
そうして、ふっと沈黙が降りた。
でも、その静けさは決して気詰まりなものじゃない。ドキドキする胸と、熱くて仕方ない頬を持て余しているけれど。
そんな沈黙を破ったのは、先輩のほうだった。
「雨、やんだみたいだ。名残惜しい気はするけど、そろそろ出ようか」
先輩に促されて、トンネルの外に出た。
すでに雨は完全に止んでいて、雲の隙間から夕焼けが顔を出していた。
黄金色の光が、公園のあちこちにできた大きな水たまりをキラキラと光らせている。
雨が降り出す前までの不穏な風景とは全く違う、穏やかな眺めだ。
「綺麗ですね」
「だね」
今までと違う距離感に戸惑いながら、先輩と私は微妙な間隔を開けて並んでいる。
でも実は戸惑いより嬉しさが勝ってて、叫び出したくなるのをぐっと我慢している。
ちらりと盗み見た先輩の顔も少し赤いように見えるのは、私と同じ気持ちだからと思っていいのかな。
「家まで送るよ。帰ろう、七菜香」
「え?」
私、いま何て呼ばれた?
差し出された手と先輩の顔を交互に見ながら躊躇っていると、彼は軽く小首を傾げてそれから私の手を取った。
「ねぇ、俺の声、聞こえてる? な、な、か?」
今度は一字一句区切るようにゆっくりと名前を呼ばれた。やっぱり聞き違いじゃない。
「き、聞いてます!」
上ずった声で答えると、先輩は悪戯が成功したような顔で楽しげに笑った。
「じゃあ、帰ろうよ。俺はもうちょっと一緒にいたいけど、最初から飛ばして七菜香に嫌われたら困る」
なんて答えたらいいのか分からなくて、視線を彷徨わせれば、先輩はますます悪戯っぽい笑みを深めて、私の顔をのぞき込んでくる。
「せ、先輩っ!? そんな、か、か、からかわないで……」
それでなくても熱い頬が、もっと熱くなる。
意地悪! と思う一方、そんな先輩もかっこいいと思っちゃう私はきっととても重症だ。
「ごめん。嬉しくて調子に乗った」
そんなふうに言われたら、意地悪なんてどうでもよくなっちゃう。
水たまりを迂回し、ぬかるみを忍び足で渡り、公園の出入り口に戻る間にも、夕焼けはどんどん鮮やかになっていく。
頬の赤さはきっとこの夕陽が隠してくれるから、ずっと昔からこうやって手を繋ぐのが当たり前なんですって顔をして帰ろう。
これからはもう、雷は怖くない。
だって。
雷が鳴るたび、雷雨にあうたび、今日のことを思い出すから。
Twitterで友人からいただいたお題『夏の雨』に沿って書かせていただきました。
プライベッターにUPしたものに加筆修正。