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ロビーに行くと、まだみんなそろってなくて。
全員で買い出しに行く必要もないので、集まったうちの何人かでって話になった。
ヒデさんは、残ったメンバーでバーベキューの用意はしておくからと私たちを送り出した。
結局、買い出しメンバーは、千裕に私、優香さん、それから私たちより先に来ていたハルくんとりょーすけだった。
買い出し組はホテルの敷地内を突っ切り、坂道を下っていく。
高原のホテルへと続く道はきれいに舗装され、車道と歩道に整然と分けられていた。ホテルから出てしばらくは、木立に囲まれて緩やかにカーブしていく。
「下りて最初の三叉路を右手だったっけ?」
スーパーへの道順をりょーすけが確認する。
「左だろ」
「そう、それから道なりで右手にあるわ」
ハルくんと優香さんが訂正した。
「優香さんが、一緒に来てくれてよかった!」
「俺は?」
「荷物持ち要員としては、まあ、仕方ないよな。そもそも、ハルがあんなに急がすから、買い出しに当たったんだし」
「……別に、そんな急がしてないだろ」
「まあ、いいじゃない。散歩と思って楽しめば」
前を歩く三人の後を、千裕とついて行く。
ハルくんはストレートのジーンズ、りょーすけは膝下のカーゴパンツに着替えていたし、優香さんはノースリーブのAラインワンピ。
隣の千裕は、ショートパンツで綺麗な足を出していた。
「着替えてきたら良かったって思ってる?」
千裕が小声で言う。
「わかりやすいよねー、美緒は」
だって。
ハルくんと行動するなら、もうちょっとマシな格好でいたかった。みんな着替えてるのに、私だけそのままだし。
「まあ、乙女ゴコロ? あんまり関係ないと思うけどねー」
千裕は笑って、
「りょーすけ、また明日でも、時間あったらリベンジするから」
と前を歩く三人に合流してしまった。
千裕、よくりょーすけと絡んでる。なんか、ちょっと、そーいう感じ? 去年、高校から付き合ってた彼氏とは別れたって言ってたし。
りょーすけは、うん、普通にいいやつ、かな。なんだかんだで、ハルくんのこと教えてくれたりしたこともあったし。
「なに見てんの?」
耳元で声がして。いつのまにか、後ろに回っていたハルくんが、私の肩越しに話しかけて来た。
「なに、って、えーと、りょーすけ?」
ハルくんの近さに、テンパってしまう私。
「なんで?」
「なんで、って。千裕が、そっちに行っちゃったから」
って、ハルくん心なしか不機嫌……?
「ふうん」
ハルくんを見上げた私が足を止めたのに、ハルくんは、すたすたと先に行く。
気がつけば、千裕にりょーすけ、優香さんと、距離が開いてしまってた。木立もまばらになり、このカーブを回り切って、もう少し下れば三叉路が見えてくるはず。
「ハルくん」
小走りで追いついて、
「私、なにかした?」
と尋ねると、
「さっき、大丈夫だった?」
逆に聞き返された。テニスコートから宗純に引っ張って行かれたこと、だよね?
「……むりやりっぽかったから」
気にしてくれるくらいなら、正直言うと宗純を引き留めてほしかったけど。でも、そんなの、ハルくんに期待しちゃダメだし。
「……大丈夫だよ」
ほかに答えようがない。
「そっか」
なぜか突然、ハルくんは歩くスピードを落とした。そして、
「美緒、手、貸して」
「え?」
さっき、宗純に掴まれた左手をとって、
「離されたから。走ろう」
そう言って、駆け出す。
宗純がしたのと、同じように。
だけど……どうして? 同じじゃない。
ハルくんにつかまれた、そこは熱を持って。その熱さが、私の中をぎゅっと縛っていく。
前を行く三人に合流する、少し手前まで。
ほんの少しの間だったけど。
地元のスーパーについて、暗黙の了解的に買い物かごをカートに乗せた。
「で、なに買うんだっけ?」
あ、そーいえば。ヒデさんからは何も聞いていない。
「バーベキュー用の基本セットは、ホテルで用意されてるから。私たちが買っていくのは、セットに入らない類の飲み物とか、デザート、お菓子類かな」
と、優香さん。
そっか。確かに五人で三十名以上の食材を買って帰るなんて無理な話だよね。
「お酒は、先生たちからの差し入れがあるから。ソーダとか、ソフトドリンク系のバリエーションと、それから……」
売り場を回りながら、優香さんが、てきぱきと品物をかごに入れていく。カートを押すのはハルくんとりょーすけ。
「なんか、手慣れてますね」
千裕が感心しつつ言った。同感。
「だって。去年も来てたから。もし、来年もするなら、あなたたちが覚えててね」
と、優香さんは、にっこり笑った。そっか。代々の合同ゼミの伝統、みたいな感じなのかな。
優香さんがヒデさんから預かってきたお金で会計を済ませ、みんなで手分けして袋詰め。これもちゃんと優香さんが持ってきてくれていた三枚の大きなエコバック。それに入りきらないものは、スーパーの袋を使わせてもらった。
「はい」
ハルくんは、さっと飲み物がつまった重いエコバックを持ち上げ、私にはお菓子入りのスーパーの袋を差し出した。
「あ、ありがと」
「なんで?」
「だって、そっち、すごく重いでしょ?」
「ああ。そんなの。そのために来たんだし」
一方で、りょーすけと千裕は、
「え、これ両方オレが持つの?」
「両手でバランスとれていーでしょ? はい、優香さんは、こっちをお願いしまーす」
千裕が仕切っているようで、にぎやかだったりする。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」
そして私たちは、スーパーからホテルまで五人でたわいない話をしながら歩いた。




