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sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
降り積もる花
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 待ち合わせは、都香駅のホーム。そのまま環状線に乗って行けるからってことで。

 行き先がテーマパークなので、今日はツイードのショートパンツでカジュアルめな格好をしてきた。かなり冷え込んできているので、マフラーも必須。

 私が乗った電車が都香駅ホームに着くと、すでにハルくんは待ってくれていた。ホームの柱にもたれて立っているハルくんは、黒のコートに黒のパンツ姿、マフラーの藍とグレーが色味を差すだけのなんでもない格好なんだけど、やっぱり容姿が目を引く。

 ハルくんは、私を見つけると、

「おはよ、美緒」

と少し目を細めて笑った。

「おはよう」

「行こうか」

「うん」

何気なく差し出された手を取って、ホームを移動する。

 この駅で、ハルくんと一緒にいるのは三回目。これまでの記憶は、あんまりいいものじゃなかったけど、今日これからは上書きしていけるといいなと思う。

「美緒、嬉しそうだね」

「うん」

「WSJ楽しみ?」

「それもあるけど、ここでハルくんとこんなふうにいられるなんて思ってもみなかったから」

一回生の時は、告白してもないのにごめんと振られ、少し前には、告白して、返事も聞かずに別れたホーム。

「それを言われると、辛いんだけど……」

ハルくんは、ぎゅっと私の手を強く握った。

「これからは、ちゃんと向き合っていくから」

「……うん」

 環状線に乗り換え、さらにモノレールに乗った。しばらく列車に揺られて、目指すテーマパークが見えてきた。海を埋め立てて造られた巨大な人工島。カラフルなコースターや観覧車が海に乗り出すように見える。

 それから、私たちは夢の国へのゲートをくぐった。


 クリスマス仕様のパークの中は、きらきらした飾りで一杯。真ん中の海に突き出したシンボルパークには、見上げるほどに大きなクリスマスツリーが出現していた。

「美緒」

ハルくんに呼ばれて振り向くと、カシャって音がして。

「あ、もう。撮ったでしょ?」

突然だったので非難すると、ハルくんはスマホをポケットにしまう。

「うん、かわいかったから」

「!」

「ツリー見上げてる美緒の横顔の方が、きれいだった」

そういうの、さらっと言うんだから……。そうしてハルくんは、宥めるように私の頭を撫でる。

「ハルくんも、撮っていい?」

聞いてみたら、

「いいよ。一緒に撮る?」

と返され、海とツリーをバックにぎゅうっと引き寄せられ、自撮りする羽目になった。

「美緒、手が震えてる」

ハルくんの手が上から、私の手を包んで。

 カシャ。

 基本的にハルくんは人目を憚らない。別に帰国子女とかじゃないのに、と思ってしまう。それって、目立つ容姿に生まれたせいなんだろうか。気にしていたらやっていけない? ……でも、私は、恥ずかしいんだけど。

「美緒。行くよ?」

私のグルグルした思考は、すぐに断ち切られた。

 ハルくんは私の手を引いて、有名な映画をモチーフにした3Dアクションムービーライドへ向かった。

「これって、怖くない?」

看板とかがおどろおどろしいんだけど。

「平気へいき」

ハルくんは笑って、

「ほら、あんな小さい子も並んでるし」

と列の中を示す。

 確かに小さい子供のいる家族連れとかも多いけど。でも、単にゆったりした動きの乗り物だから、年齢とか身長制限がないってだけじゃ……。一抹の不安をよそに、列は進み。

 私たちの順番が来て、隣に座って乗り込む。

 暑かったり寒かったり、悪役が目の前に登場したり。私には刺激が強くて。知らない間にハルくんにしがみついていた。

 乗り終えた後、

「下手なお化け屋敷よりも、よかったかもね」

とハルくんは言った。

「美緒にしか通用しないかもしれないけど」

くすりと笑う。

 ……どうせ、怖がりですよ、だ。

「でも、スピードだけのだったら大丈夫なんだから」

「じゃあ、ジェットコースター乗ろうか」

「うん」

向かったドリームライドはパークの目玉の一つでもあるので、長時間並ぶことになったけど、ハルくんと一緒なら全然苦にならなかった。

 なかなかゆっくり話せなかった進路のこととか、お互いに伝えあったり。

 ハルくんは、教育系の出版社に絞って動いているらしく、一方で、今のバイト先の大手塾からも本社採用でどうかという話もあるらしい。

 就職活動もせず、裁判所事務菅を考えていた私は、とりあえず試験勉強するしかないんだけど。ロースクールから受験生が流れてくるせいで、大卒じゃ狭き門だといわれている事務官試験。最近は、千裕みたいに地方に絞った方がいいかなと迷いだしている。

 四回生の春には、もうそれぞれの道が見えていないといけないのに。

「美緒なら、だいじょうぶだよ」

ハルくんは、まだ目標を決められない私を救い上げてくれる。

「意外に、芯はしっかりしてるし。どんな仕事になっても、目の前のことをちゃんとできる」

だから、ゆっくり考えていいんだと言ってくれた。

 少し気持ちが軽くなったところに、順番が回ってきて、並んでコースターに乗り込む。

 スピードだけなら、ちゃんと楽しめる私は、ハルくんと手をつないで、風を切る爽快感を満喫したのだった。



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