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sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
降り積もる花
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 少しぼんやりしていたのか、戻ってきたハルくんに、こつんと頭を小突かれた。

「告白タイム、終わった?」

どすんと音を立ててハルくんが隣に腰を下ろす。

「え、ハルくん、知って……?」

「わかるよ、それくらい。最後だから、先輩に花持たせただけ」

ハルくんは、不機嫌そうに手酌でビールを飲み始めた。

「記憶になんか、残させないけど」

つぶやくハルくんが、不穏……。

「何それ? ヤキモチ?」

言いながら千裕が私の正面に座った。そして、千裕には、もれなくりょーすけがついてくる。

「捕まっちゃうと、溺愛タイプだったんだな」

りょーすけが感慨深そうにうなずく。

「言ってろ」

いじられてもハルくんは動じない。動じないどころか、

「……美緒」

とハルくんは私の名前を呼んで。

 返事をしようとしたら、いきなり引き寄せられて、こめかみに、キス。

「!」

「……」

正面の千裕とりょーすけはもちろんのこと、他にもこっちに目を向けていた何人かが、押し黙った。

 沸騰して爆発しそうな私に、ハルくんは悪びれもせず、

「記憶の上書き」

と小さく笑う。

「お前ね……」

呆れるりょーすけの隣で、千裕は、ニヤニヤしていて。

「なんかウケる……」

とまで言われているのに、ハルくんは、素知らぬ顔。

「は、ハルくん!」

「ん?」

「基本的に嫌がることはしないって……」

恥ずかしさを我慢して、抗議した。

「あれ? 美緒、嫌だった?」

「や、じゃないけど、でも……」

こんなところで、そういうのは困る。

「困ってる?」

ハルくんが、うつむいた私をのぞきこむので、小さく頷いた。

「告白なんかされてるから、困らせたんだよ」

「そんなの私のせいじゃ……」

そもそもハルくんが席を外すから。

「はい、そこ。二人の世界は終了ー」

割り込んだのは意外なことに優香さんだった。

「ハルさあ、いくら美緒ちゃんがかわいいからって、そういうことばっかりしてたら逃げられるよ?」

優香さんは優香さんで、やっぱりゆっくり話せるのも最後だからって釘を刺しに来てくれた。

「逃げられたら困るのはハルでしょうに」

「……逃がすつもりないし」

逆にハルくんは開き直ったかのように不敵に応えた。

「ああ、もう。あれだけ往生際が悪かったのに、認識したらこれって、なに? 頼むから、大事にしすぎて壊さないようにね」

「善処します」

胡散臭い政治家のようにハルくんは片手を上げた。

「美緒ちゃんも、無理してハルに合わせなくていいから。ハルなんか美緒ちゃんのペースで、待たせておいていいし」

ほんとに心配していってくれているんだろうなってわかるから、はいと返事した私。

「ハル、残念~。お預け確定だね」

りょーすけが嬉しそうに言ったので、隣の千裕から、余計なこと言わないのと肘鉄を食らっていた。


 そうして、いろいろあった合同ゼミも今期の幕を閉じた。

 このゼミがあったおかげで、ハルくんとの接点もできて、今がある。辛いことがなかったわけじゃないけど、巡りあわせに感謝しなくちゃ。


 店を出て、駅に向かう帰り道。

 私のペースで歩いてくれるハルくん。

「二十四日、どうしようか」

あと数日後に迫ったクリスマス。お互いに予定は空けて、会う約束はしてるけど、具体的には何も決めていなかった。

「美緒、どこか行きたいところとかあったら、言って」

憧れのクリスマスデート、なんだけど。どこ、って言われても、あんまりぴんと来ない。私が黙っていると、

「午後から、とかでもいい?」

とハルくん。あ、れ? 一日一緒にいられると思ってたのに。

「なにか、用事?」

私は足を止めて、ハルくんを見上げた。

「そういうわけじゃないんだけど、ね」

なんだか、はっきりしないハルくん。

「だったら……」

少し沈みそうな私に、

「じゃあ、そうだ、WSJにでも行こうか。混んでるかもしれないけど」

ハルくんは、突然思いついたかのように明るく提案してくれた。

「……うん」

私が笑うと、ハルくんも笑ってくれる。

 WSJ。高校の時に友達と行ったきりだった。テーマパークなら、クリスマスイベント満載だし、パレード見るだけでも楽しそうだし。なにより、ハルくんと行けるなんて夢みたいだ。

「あ、でも、できれば観覧車はパスしたいんだけど……」

高いところと足元の揺れが苦手なのは、ハルくんも知ってるはず。

「ま、状況によってはね」

前に乗った時のことを思い出したのか、ふっと笑うハルくん。

「スピード系は大丈夫だから」

「はいはい、わかったから」

 手をつないで、駅まで。それから、JRに乗って、ハルくんの最寄り駅まで。

 次に会う約束を、確かなものにしつつ。初めてのクリスマスに、私は浮かれていた。




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