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sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
降り積もる花
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 白い車の軌跡が、静かな音楽を奏でるように住宅街を抜けていく。

 窓の外を流れていく夜の街。個人の家でも時折、樹木や壁にイルミネーションを飾っていたりして、師走の街は、眺めていても飽きない。

「寂しかった?」

「え?」

「じゃあ、俺だけか」

ハルくんは前を向いて運転しながら、少し悔しそうにしている。

「俺は、美緒に会えなくて、寂しかったよ?」

あまりにストレートな言葉に、胸が跳ねる。

 信号で止まると、

「花の香りでむせちゃいそうだから、後ろに置こうか」

ハルくんは手を伸ばして、花束をそっと後部座席に回した。

「ちょっと会わないと、戻るね」

苦笑しつつ、また車を発進させるハルくん。

「美緒、また緊張してるでしょ?」

「そう、かな」

「そうだって」

そう言いながら、ハルくんはシフトバーから解放された左手で、私の右手を握った。

「……ハルくん、花束を後ろに置いたのって、もしかして」

「うん。邪魔だったから」

……あんまり当然のように言われると、何も言い返せない。どきどきしすぎて、それどころじゃないせいもあるけど。

 片手を離してて、車の運転には不都合ないんだろうか。さすがに、信号で止まる時なんかは、操作が必要になって手を離すよね。

「ハルくん」

「ん?」

「今日、バイトは?」

「ああ、りょーすけに生徒のフェイスシート作って頼んできた」

「就活、解禁されたとこなのに……」

「説明会も夜まではやってないよ」

言いたいことは、こういうことじゃなくて。

「なに? 美緒、会いたくなかった?」

そうじゃなくて。

 ただ首を振って表すしかできない。

「ごめん、間を空けすぎたね。不安にさせてた?」

ぎゅっと、絡めた指に力が伝わる。

「ハルくんのせいじゃ……。私が、勝手に……」

「それでも、ごめん」

手の平から伝わる熱に、少しずつ解けていく想い。

「電話とか、出られない時だってあるかもしれないけど、でもできるだけすぐに折り返すから、遠慮しないで」

「でも」

「迷惑なわけないから」

ハルくんは断言する。

「我儘でも、なんでも。言ってくれなきゃわかんない」

「……私ばっかり好きみたいで」

「そういうこと言うと、行き先変えたくなるな」

「行き先?」

そういえば、どこに行くのか聞いていないことに思い当たる。

「とりあえず、ご飯」

ハルくんは、それだけ言って詳しく語らなかった。

 

 高速を降りてしばらく走り、山の手に向かう。

 案内されたのは、高台のこじんまりした洋食屋さんだった。

 こんな風にデートできるなら、もうちょっとちゃんとした服装でくればよかったと、毎度のことながら悔やんでしまう。濃いグレー系のチェックのスカートとオフタートルの白いニット。ベージュのコートにブーツ。カジュアル過ぎるってことはないと思うけど。

 ハルくんは、白いシャツにチャコールのカーディガン、黒のチノ。コートは、車の後部座席に花束と同じく放り込まれたまま、藍とグレーのマフラーだけ巻いて、外に出て。寒そうなのに、一瞬だからと白い息を吐きつつ、助手席まで回り、私をお店までエスコート。

 レストランは、ちゃんと予約してくれていたようで、窓際の席に案内された。

 窓からの夜景は、まるで星空のようで。なんだか別世界。

 コース料理よりは肩の張らないビーフシチューのセットを頼んだ。

「あらためて、お誕生日おめでとう」

ハルくんが言って、今度は素直に、

「ありがとう」

と言えた。

「何か欲しいもの、ある?」

「もう、もらったよ?」

「花は、とりあえず、だから」

「ハルくんが、こうして時間裂いてくれただけで嬉しいから」

「……だから、美緒は。どうしてそういう顔で、そういうこと言うかな」

あれ? ちょっと不機嫌……?

「ほんっとに、行先変えたらどうするの?」

ぼそりとハルくんは言うけど、

「だって、どこに連れてってくれるのかも聞いてないし」

と返すしかなかった。


 食べ終わった後、車に戻って、また少し走った。それから、山上の展望公園で、車を降りた。

 今度は、ハルくんもちゃんとコートを着てる。

 眼下に広がった街は、息をのむ美しさ。冬のきんと張りつめた空気の中で、ちらちらと街灯りが瞬いている。市街地では、祈りの光の回廊がちょうど今日から始まっていて、それを上からも見下ろせた。

「きれい……」

「なら、よかった」

上から、ハルくんの声がして、後ろからすっぽりと抱きしめられた。

「ハル、くん?」

「寒くない?」

「……うん」

感じるのは、寒さよりうるさいくらいの胸の鼓動。

「……好きだから」

「え?」

「美緒が思ってるより、たぶん、ずっと」

ハルくんの吐息のような囁きが、甘く響く。

「証明するから、こっち向いて」

「……や、だ」

少し怖くなって、うつむいた。

「却下」

ハルくんは、強引に私の顎を上げて。

 なんども。キスを繰り返す。ついばむような優しさから、少しづつ、深く、熱く。

 立っていられなくなりそうで、ぎゅっとハルくんにしがみついた。

 星空と、街の灯と。やさしい光に囲まれて、ハルくんに身体を預ける。

「……美緒」

名前を呼ぶハルくんの声が、特別に大切なものになったような気持ちにさせてくれた夜だった。




 





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