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 前期試験も終了し、夏休みがやってきた。

 夏休みと言えばハルくんに会えない長い時間を過ごすものというのが、ここ二年続いたけど。

 でも、今年は七月の末に二泊三日のゼミ合宿がある。

 ハルくんに、会える――。



 集合は、朝八時三十分に大学正門前。

「美緒、おはよー」

「おはよ、千裕」

遠距離通学組の私たちは、互いに朝早くからお疲れと、ねぎらいあって。

 ハルくんは――、ああ、正門の右側でりょーすけと話している。ちゃんと、参加。

 総勢三十二名になる合同ゼミ合宿参加者たち。例によって、ヒデさんが段取りから何からしてくれていたようで、チャーターされたバスがやってきた。

 ヒデさんは、参加メンバーの出席を確認しつつ、何やらカードを配っている。

「10Dって、なにこれ?」

誰かがカードに書かれた文字を読み上げた。

「座席指定。カードの番号の席に座るよーに」

ヒデさんは、にやりと笑って言った。

「行きのバスは、とりあえずゲームしまくるから」

なんだかすごいやる気、ですね。私は千裕と顔を見合わせた。千裕と一緒に座ろうと思っていたけど無理みたいだ。

 鞄をバスのお腹に預けて、私たちは、バスに乗り込んだ。

「えーと、美緒ちゃん、だっけ。よろしく」

隣になったのは、松林ゼミの四回生で浅田優香さん。ゆったりやさしい雰囲気の人だ。

「美緒でいいですよ、優香さん。こちらこそ、よろしく」

お隣が、優香さんで少しほっとした。片道三時間くらいかかると聞いてるから、よく知らない男子とかだと、なんだか困るし。

 そうしてみんながそれぞれの席に着くと、バスは出発した。


 バスの中では、質問ゲーム。座席を指定された人が答えていく。

「一番好きな食べ物はなんですか」

「食べられないものはありますか」

といった、まあ無難な質問から、デートするならどこがいいかとか、宇宙人に会ったらどうしますかとか、初恋はいつとか、絶対に言いたくない秘密はありますかとか、いろんな問いが出された。

「じゃあ、12Aの人に質問。明日地球が終わるとしたら、なにをしますか」

12Aって……私だ。

「えーと。あ、好きな人に会いに行きます」

……真面目に答えてしまった。ひゅーという声が上がる。

「じゃあ、同じ質問。7Cの人」

「……一番大事なものを壊す、かな」

ハルくんの声、だ。

「はあ、なんか哲学的だね。じゃあ……」

ヒデさんは、こなれたDJよろしく、場を転換していく。

 窓側の私の席からは、ハルくんは見えない。

 なんだろう、大事なものを壊す、って。ハルくんは、真剣に答えていたような気がするけど。

 スカウトされてもおかしくないルックスと、人当たりの良さ、よく気がついて優しくて。それがハルくん、なんだけど。それだけじゃないところを、見せることはほとんどないんだけど。

 私がハルくんの言葉で、頭がいっぱいになっていると、

「ハル、って。ほんとのところは、ガードが固いよね」

隣の優香さんが言った。

「よく気がつく、いい人、だけど。見た目がいいのが、彼には逆にしんどいのかな?」

見ている人は見ているんだな、と思う。

「ハルくんは、やさしいから」

私が言うと、

「誰にでもやさしい人って、本当は誰にもやさしくないって思わない?」

なぞかけみたいに返ってきた。

「自分を守ってるっていうのかな。そういう感じ」

優香さんは、特に感慨もなく淡々と言って、

「ハルが、必死になるとことか、見てみたい気がするな」

くくった。

 確かに見てみたい。ハルくんが、あわてたり困ったりするところ。想像つかないけど。


 目的地の大山高原についた。

 宿泊はヒデさんが適当に部屋割りしたロッジ。女子四人で割り当てられた中に千裕の名前があった。泊りは、シャッフルするよりも気心知れてるメンバーの方がと考えてくれたんだろう。

 一旦部屋に荷物を入れてから、ホテルの本館ロビーで集合。そこで渡された合宿行程表を見て驚いた。

「なに、これ? ぜんぶ遊び?」

ゼミ合宿というからには、例えば判例研究とか、模擬裁判とか、多少の学習メニューがあると思っていたんだけど。何もない。

 テニス、バーベキュー、花火。サイクリング、森林オリエンテーション。肝試し。

「びっくりした?」

優香さんが、声をかけてきた。

「去年も、こんなだったんだよ。四回生にとっては、学生最後の夏だから、学生ノリで遊び倒すっていうのが、コンセプトかな? だから、就職決まってる子も、試験控えてる子も、そういうの出さずに参加するの」

そうなんだ。だから、ヒデさんの、あのノリなわけで。

「ヒデも、八月試験なんだけどね」

少し心配そうに言った優香さんの視線は、なんともやさしく包み込むようにヒデさんを見ていて。

 ときどき、ヒデさんも優香さんに笑いかける。

 なんか、いいな。二人の空気感が、すごくいい感じに思えた。


 

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