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sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
降り積もる花
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 日暮れが早くなるにしたがって、街のイルミネーションが華やかになってきた。

 もうすぐ、クリスマス。

 二年前、一回生のクリスマス前に、勇気を出して会いたいと言ったら、ハルくんに「あきらめて」と言われ……抜け殻みたいになっていたっけ。

「美緒、三日、どうするの?」

千裕に言われて我に返る。私は、すっかり暗くなった窓の外をぼんやり眺めていたみたい。

 今は、四限目の民事訴訟法の講義が終わって、千裕と帰るところ。寒くなってきたので、あったかいものでも飲もうと理由をつけて、駅近くのコーヒーショップに入ったのだった。

「ハルから、なにか言ってきてる?」

 私は、首を振った。

「ハルくん、知らないと思うんだけど」

「え? 誕生日だって言ってないの?」

「うん。三日は平日だし、バイトも入れてると思うし」

「知らないままで過ぎたら、ハルが怒ると思うけど」

「そうかな?」

「そうだよ!」

千裕は、そう言うけど。

 誕生日をわざわざ知らせるのは、なんだかおねだりしてるみたいで、ちょっと気が引ける。それでなくても、就活やバイトなんかで忙しそうにしてるのに。

「まあ、美緒がいいなら、いいけど。その後にクリスマスも控えてるんだから、プレゼントくらい考えた?」

「えーと。クリスマスって一緒に過ごせるのかな?」

「そりゃ、そうでしょ。ハルのことだもん、外さないと思うけど?」

 決まったように言う千裕。

 でも。十一月に入ってから、ハルくんは忙しそうで、あんまり会えてなかったりする。メールは、意外にマメにくれるし、電話もするんだけど。会ったのは、合同ゼミの時くらい、で。

「ハルもさあ、なんで就活入ってきてんのにバイトやめないんだろ?」

「だって、個別指導で担任制だって、言ってたから。途中で放り出せないでしょ?」

「そりゃそうだけど……」

 少し冷めたカフェオレを飲みながら、私って自信がないんだな、って思う。ずっと好きだったハルくんに告白されて。両思い、になったわけだけど。

「美緒も我儘したらいいのに」

千裕は、ふうとため息をついた。

「美緒のことだから。会うのって、ハル次第、なんでしょ?」

……図星。

 ハルくんは、メールも電話も、会いたいって言ってもいいって、言ってくれてるけど。でも、今の時期にそれを言うのは、って、つい我慢してしまう。

 我慢して、不安になる。

 ……馬鹿みたい。

 そうしてずっと、私はハルくんからの連絡を待っている。

 ……臆病な、ままで。


 落ち葉の季節は、人恋しくて。

 寂しくて。

 すこし、不安。

「ねぇ、美緒。ハルは、美緒が思ってるより、ずっと美緒のことを好きだと、思うよ?」

そう言ってくれた、千裕の言葉を信じたい。



 十二月三日。

 取り立てて変わったこともなく、講義を受けて、帰るだけの予定だった。

 三限目の講義の後、帰る支度をしていたら、ケータイが震えて着信を知らせる。

 ……ハルくんだ。

『美緒、今日これから予定ある?』

「あとは、もう帰るだけだけど」

『じゃあ、六時まで待てる?』

「うん」

図書館で、時間はつぶせると思う。

『六時になったら、迎えに行くよ』

 用件だけ伝えて、ハルくんからの電話は切れた。

 バイトがある日じゃなかったんだろうか? どうして、今日? 誕生日だって伝えてないのに?

 図書館に行ってみたけど、勉強は手に着かない。ただ、とにかく、ハルくんに会えると思うと、それだけで、すごく嬉しかった。


 六時を少し過ぎたころ、ハルくんからメールが入った。

" 教務棟の裏のロータリーまで来て " 

指示通り、教務棟まで行って裏側へ出ると、ロータリーに見慣れた白い車が止まっていた。

 ハルくんが車から降りてきて、

「少し、久しぶり、かな」

と、目を細める。

 久しぶりと言っても、一応合同ゼミの時には会っているし、その後の飲み会にも参加した。帰りはJRのハルくんの最寄り駅までは一緒だったし。

「二人で会うのはね」

ハルくんは付け足して、どうぞ、と車の助手席のドアを開ける。

 突然目の前に現れたピンク色のグラデーションに声が出ない。

 助手席には、中心がピンクで、外側に行くにつれ、だんだん薄くなる柔らかなピンク色のバラの花束が鎮座していた。

「誕生日おめでとう」

耳元で、ハルくんが言った。

「え、ど、うして……?」

「友達通してリサーチ済み。美緒、夢持ってそうだし」

ハルくんは言う。

「こういうの、好きでしょ?」

 女の子なら、ロマンチックな花束を嫌いなひとはいないと思うけど。

 ハルくんは、花束を私に持たせ、乗ってと促した。バラの香りに酔いそうになりながら、助手席に座る。私が乗ったのを見届けて扉を閉めると、ハルくんが運転席に回って。

「じゃ、行こうか」

「え?」

今から車でどこかへ行くの? 

「送っていくよ。途中で、また少しだけ寄り道するけどね」

「でもハルくん、帰りが……」

遅くなっちゃう、と言いかけた私の言葉をさえぎって、

「いいから。美緒は、遠慮しすぎ。しかも俺が勝手にやりたいようにしてるだけだから、付き合って」

ハルくんは、そう言って微笑んだのだった。


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