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翌週の月曜日。
講義は二限目までだったので、千裕に誘われ、久しぶりに大学近くに下宿している明日菜の部屋に遊びに行った。さっちーも少し後から、やってきた。
明日菜は通信系の会社を狙ってるみたいで、夏場からインターンシップに励んだり、忙しくしていた。さっちーは、進学を考えてるようだ。
三回生、進路によって動き方が変わる時期。
千裕は、地元の地方公務員を目指していて。
地味で堅実な学校色が出てるというか、やっぱり類は友を呼ぶというか。
持ち寄った食べ物を食べながら、おしゃべりする、久しぶりに四人でのゆっくりした時間。
「そろそろ、美緒の話を聞きたいんだけど」
明日菜が言う。最初から、聞きたくて仕方なさそうだったし。
「……金曜の夜に、電話出てくれなかったのって、千裕の指示?」
と聞いてみると、
「え、なんのこと?」
と、とぼけられた。
あの時は、本当にすがる思いでかけてたのに。
「まあ、結果オーライでしょ」
「明日菜が言わない」
さっちーが明日菜のたずなを締めて。
「ハルが、来たんでしょ。それから、どうしたの?」
千裕は、わかってることは飛ばして先を促す。
「飛び込んできて、ぎゅーっとか?」
明日菜が先走る。
「あのね、慌てて来てみたら、扉の前に傘立てが転がってるんだよ? 想像してみて?」
「あー、そりゃあ、萎えるわ」
「……雨もひどかったし、とにかく、送ってくれるって言ってくれて」
「ふんふん」
「でも、ハルくんがずぶ濡れだったから」
「ほぉー」
いちいち合いの手入れて反応してくれなくていいんだけど。
「着替えにお姉さんちに寄って」
「お姉さんって、もしかして、前に……?」
千裕は、私と一緒に志保里さんに会っているので、そうだよと私はうなずいた。
「お姉さんちって、ビミョー。藤崎の部屋とか行ったのかと思ったのに」
「明日菜じゃなくて、美緒だからね。藤崎氏も苦渋の選択だったんじゃない?」
ローテーブルを囲んでのガールズトークは、気ままに言いたい放題。
「それから車で往復したら夜中になっちゃうし、雨で危ないし、環状線運休してるし、で。お姉さんちに泊まることになって」
「お姉さんちかー」
明日菜は、まだ言う。
「で、ハルは?」
「ハルくんも」
なんだか微妙な間が空いた。
「それで、翌朝に車で送ってもらって」
「電車、動いてたよね?」
「確かめてないけど、たぶん」
「ハルが、送るって?」
「……うん」
「それで?」
「途中で、公園に寄って、そのときに……」
ハルくんから告白してくれたことを伝えると、
「よかったね、美緒」
「うん、やっとハルも認めたか」
「いや、長かったよね、ここまで」
皆が喜んでくれた。二年前からずっと、見守ってくれていたから。
「それで?」
と言ったのは、やっぱり明日菜。
「それで、って?」
「これからどうするの?」
これから? そういえば、付き合うとか、そういう話は出なかった。
私がちょっと首をかしげていると、
「次いつ会うの?」
「え、と。次の合同ゼミ、かな?」
そういえば、何の約束もしていない。私以外の三人はお互いに顔を見合わせた。
「電話とか、メールとかは?」
「送ってもらった日に、家に着いたよ、って、電話してくれたけど」
なにか、ダメなんだろうか。
「ふつー、気持ち確認しあったら、次の約束とかしない?」
「メールとか、電話とか頻繁だよね?」
「次の合同ゼミって、まだ二週間近くあるし。それでいいの?」
いいのもなにも、よくわからないっていうのが本当のところで。三人には機関銃のように追及されたけど。
基本、用がないとメールしない性分の私だし。ハルくんの声は聴きたいけど、電話も、私からしていいものかどうか、わからない。そのうえ、次に会う約束って、どうするの?
ぐるぐるしだした私に、
「悩んでるよ、この子」
「初心者以前の問題だよね」
明日菜とさっちーが、あきれたように言う。
「まあ、ハルの出方次第、か」
千裕は、でもハルもねー、どう出るかわかんないんだけどねーと括る。
……。
そうやっていじられつつ、時間が過ぎて。午後三時を回るころ、ケータイの着信音が鳴った。
ハルくん、だ。
「ごめん、出るね?」
と断わって画面に触れると、
『美緒?』
ハルくんの声がやさしく響いた。
「うん」
『今、講義終わったんだけど、もしかしてまだ、近くにいる?』
「うん、明日菜んち」
『そっか。じゃ、無理だったらいいんだけど、これから少しバイトまで時間あるから、会う?』
「うん」
『じゃあ、生協前のオープンテラスで待ってるから』
電話が切れた。
なんか私、「うん」ばっかり言ってたような……。
「ハル?」
「あ、うん」
「お呼び出し、ね」
「え、と。行って、いいかな……?」
「当たり前でしょ、行っといで!」
そうして、千裕たちに笑顔で送り出され、私は再び大学に戻ったのだった。




