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 エレべーターを出て車へと向かう。

 静かな駐車場棟に足音が響く。ハルくんの不機嫌は、いったい何だろう。寝不足を志保里さんに笑われたから? 電車で帰るって言ったら、よけいに不機嫌になってたような。

 エレベーターの中でのつぶやきも、なんだか意味不明だったし。

 ハルくんは、よくわからない。

 遠隔操作で車のロックを外すと、先に助手席のドアを開けて、待っていてくれる。私が乗り込んだのを確認して、ドアを閉めて、運転席に回る。ハルくんには、自然に染みついてるレディーファースト。

 昨日濡れた上着を放り込んだ後部シートは、まだ濡れていて、ハルくんは、

「染みになったら、あとで姉貴に怒られるかな」

と苦笑し、エンジンをかけた。

「私から、謝って、クリーニング代返すから」

「いいよ。あの人、美緒のこと気に入ってたし。俺から巻き上げても、美緒からは取らないって」

確かに性格的に、志保里さんは弁償するって言っても受け取ってくれそうにないけど。しかも、昨日、コンビニからの帰りに「私は美緒ちゃんの味方よ」って、言い切ってくれていたし。

 ハルくんが車を発進させたので、

「ハルくん、ナビは?」

と聞いてみた。

 私の家までの道、わかるんだろうか。二年前に一度、大学で熱を出したときに家まで送ってもらったことがあるけど、それきりなのに。

「ああ。高速降りたら、案内してくれたらいいし」

それなら、私でもできるかな。


 車は駐車場を出て、道路に入り、住宅街を抜けていく。

「今日は、美緒の方が元気そうだし。俺が寝ないように、ちゃんと見張ってて」

前は、熱で朦朧としてて寝てしまっていたから、ハルくんはそう言った。

「あ、れ? そういえば、なんであの人、美緒んちが遠いって知ってたんだ?」

いきなりハルくんが、そんなことに気づく。

 そ、それは……。

「もしかして、美緒、何か知ってる?」

仕方なく、前に家まで送ってもらった後に、志保里さんが大学の前で待ち伏せしていて、一緒にお茶をした話をした。

「二年前、って。……なに考えてんだ。しかも、よく覚えてたよ、あの人も」

肉親ながらあきれる、とハルくんは言い、

「二年前、か、もう」

ともう一度つぶやいた。

 車は軽快に街を抜け、高速に入る。

 ここから、結構走らないといけないんだけど、単調な高速の運転、寝不足気味のハルくんで大丈夫かな……。

 ナビの画面は現在地を示し、街中の高速は高い壁に囲まれていて、その向こうに壁より高いビルが並んでいる。

「何か、かける?」

「あ、うん」

ぼんやり窓の外を見ていた私。

 ハルくんは、ナビの画面を手早く操作した。聞こえてきたのは、軽めでPOPな洋楽チューン。これは、ハルくんの趣味? それとも、車の持ち主の志保里さんの……?

 いつしか、軽く口ずさみながら運転するハルくん。

 よかった、機嫌なおったみたいで。

 高速は幾つかの分岐を経て、海沿いの道に入った。白く輝く大きな橋が目の前に迫る。少しずつ形の違う橋を通って、湾岸線を行く。

「美緒、今日なにか予定ある?」

湾岸線を抜ける頃、ハルくんが、言った。

 今日は土曜日。もちろん講義もないし、特に予定はなかった。

「寄り道しようか」

私が答える前に、ハルくんはハンドルを切った。

「ハルくん、寝不足で疲れてるんじゃ……?」

「それくらい平気」

ハルくんには決定事項だったらしく、しばらく走ってから高速を降りた。

 どこに行くんだろう?

 時刻は九時を少し回ったところ。どこに行くにしても、早いような。


 車は、海沿いを走り、やがてシンボルタワーのある公園にたどり着いた。

 車を公園の駐車場に止めて、ハルくんは、

「降りるよ」

と私を促した。

 公園に用事があるあるわけじゃないよね? 長距離運転の休憩、かな。前回も、高速のパーキングエリアで少しだけ止まってたみたいだし。

 あの時。私は熱を出してたから、車で寝てて。ハルくんもちょっと売店に行ったくらいですぐ帰ってきてくれて、しかもおでこに貼る冷却シート買ってきてくれたんだっけ。

 ハルくんが、助手席のドアを開けて待ってくれてる。

 私が車を降りると、ハルくんはドアを閉め、車をロックした。

「少し、歩こうか」

と、ハルくんが手を差し出す。

 これって、……つないで、いいのかな。

 私がためらっていると、さっとハルくんに手を取られた。

 駐車場から、公園へ。土曜とはいえ、まだ朝ということもあってか、人通りはまばら。近くの海洋博物館で催しでもしていれば、また違うのかもしれないけど。

 夕方からなら、この辺りはデートスポット、になるのかな。

 ハルくんは、黙って海の見える方へと進んでいく。

 さわやかな秋の風が髪をすくって、通り抜けていく。潮の匂いを微かにさせて。

「昨日、急に千裕から連絡があった時」

ハルくんは言う。

「登録もしてない番号だったし、誰こいつ、みたいな感じで、すぐ取らなかったんだ。けど、しつこくて」

千裕は、りょーすけからハルくんのケータイ番号を聞いたんだろうか。

「出てみたら、いきなり俺に、今どこ? って言うんだ。これからバイト先から車で帰るとこだって言ったら、美緒が大変なの! って」

淡々とハルくんは話す。




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