表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/35

22

「ま、いっか。幸い、ずぶ濡れになっただけで済んだんだし」

ハルくんが黙っているので、お姉さんは突然追求をやめてしまった。

 ハルくんは、そのまま黙って食事を済ませてしまった。

 私も口を挟みにくく、あとは黙々と食べた。それから、後片付けを少し手伝って。

「洗い物終わったら、下のコンビニ行こうか」

と、お姉さんが誘ってくれた。

「うちにあるものは適当に使ってもらっていいけど、泊りだとちょっと欲しいものとかもあるんじゃない?」

このマンションの一階、駐車場棟とは反対側にコンビニが入っていて、濡れずに行けるらしい。正直、確かに助かるかも。

 そして後片付けを終えて、

「じゃ、ハル。ちょっと下行ってくるから。先にシャワー使ってていいよ」

まだなんとなく憮然としているハルくんにお姉さんが言葉をかけ、私たちは部屋を出たのだった。


「ほんと、ごめんね。あの子、ヘンに頑固だから」

廊下を歩きながら、お姉さんは言う。

「でも、ずっと思っててくれたんだ」

「あ、や、ただしつこいだけで。あきらめが悪いだけです」

ハルくんに突き放されても往生際が悪いだけ。そのお姉さんを前に、すごく恥ずかしくなる。

「それが、すごくありがたいことだって、あの子わかってるのかしらね?」

「……お姉さん?」

「志保里でいいわよ。お姉さんって、まだ早いし」

「まだ、って。そんなつもりは全然……。しかも、私、ハルくんに対象外宣言されてますから」

「え? そう、なの?」

お姉さん、ううん、志保里さんは心底びっくりした顔で聞き返してきた。

「……はい」

 エレベーターホールについて、下行きのボタンを押し、一階に降りていた箱を呼ぶ。

「ね、さっき言ってた悪ふざけしたお友達って、もしかして、前に一緒だった……?」

「はい。あの時、一緒にいた千裕です」

前に志保里さんと会った時、千裕は私をかばうように、ずっとついててくれた。

「そっか。うん。すごく美緒ちゃんのこと大事にしてたもんね。わかる気がする」

志保里さんは、うんうんと頷きつつ、上がってきたエレベーターに乗り込んだ。私が続いて入ると、二つある一階のボタンのうちの一つを押す。

「こっち、駐車場とは逆に出るようになってるの」

なるほど。駐車場棟から上がってきた私は、一階のどこにコンビニが、って思ってたんだけど。

 エレベーターを降りて廊下を少し歩き、オートロックの扉を抜け、さらに少し行くと右手にコンビニがあった。

「朝ごはん、どうする? パンとかでいい?」

と私に聞いてくれて、志保里さんも足りないものを買っていた。

 私も、志保里さんが使っていいと言ってくれても基礎化粧品とかは多少不安なので、前に使ったことのある旅行用セットなどを買った。

 買い物を済ませて、二人で、またもと来た道を戻る。

 オートロックの扉に鍵をかざし、さらに進んでエレベーターホールへ。

「ハルも、いい加減、往生際が悪いわよね」

志保里さんが呟いた。

「ここまでされなくちゃならないって。逆に美緒ちゃんやそのお友達に、申し訳なくなってきちゃった」

「え、あの……今日のことは、千裕が私のために行き過ぎただけで。ハルくんは、悪くなくて、ただ、放っておくわけにいかなくって巻き込まれて、いい迷惑というか……」

私が言い訳をすると、志保里さんは、すごく優しい顔で、

「ありがと、美緒ちゃん」

と笑ってくれた。

「こちらこそ、突然お邪魔して、泊めていただくなんて……」

「それは、いいの。私が勧めたんだから、ね?」

志保里さんの笑顔とともに、私たちは部屋に戻ったのだった。


 部屋に着くと、ちょうどハルくんはシャワーを済ませたところだったようで、濡れた髪のままバスルームから顔を出した。

「ああ、由貴のパジャマ用のスエット出したげるから、待ってて」

志保里さんがパタパタと動く。

「はい、ハル。それと、こっちは美緒ちゃん。私ので悪いけど、サイズは平気だと思うから。準備して、お風呂使って」

私にまでパジャマを貸してくれて。

 ……今日は、ハルくんの濡れ髪を見てばっかり。

 ハルくんがリビングに戻ってくると、志保里さんは、素早くバスルームを片付けに行ってくれて、どうぞ、と私にお風呂を進めた。

 入らないわけには、行かない、よね。

 ……ほとんど面識のなかった他人様の部屋で、お風呂。しかも、ハルくんが使った直後、って。けっこうハードル高いんですけど。

「入ってて。その間に、ハルに手伝わせて、和室にお布団敷いておくから」

志保里さんが、てきぱきと進めていくので、もう仕方なくお風呂をいただくことにした。

 髪まで洗わなくても、いいよ、ね。



  





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ