表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
初夏から夏へ
2/35

 四限目のゼミ活動の後は、例によって飲み会に雪崩れ込み。

 四回生のノリがいいのと、池田・松林両先生もよく合流するので、どうしても都合のつかない人以外は強制参加。

 おかげで、お酒にもずいぶん慣れた。酔っぱらいには慣れないところもあるけど、たぶんこのメンバーは、まだお行儀のいい方で、そんなに崩れない。

 それでも、宴が進むと、それなりに出来上がってくる。

「では! これから、合同ゼミのメンバーは、親睦を深めるため、全員ニックネームもしくは名前呼びとする!」

「新田さん、なに言ってんですか?」

「新田さん、ではない。英寿、またはヒデと呼ぶよーに」

新田さん、改め、ヒデさんの突然の思いつきがごり押しされた。

 断言する酔っぱらいには勝てない。プラス、それでもいっかー的なノリで。ニックネームまたは名前呼びというのが一般化されてしまった。

「じゃあ、長谷川さん、じゃなくて。えーと、美緒ちゃん、だっけ」

途中から千裕と入れ替わって隣にいた河田君。

「ちゃん、なしでいいよ? 友達はみんなそうだし」

私が言うと、

「いや、いきなり呼び捨てはさ」

とごにょごにょ。

 別に、いいのに。誰かさんなんて、何の抵抗もなく自然に勝手に呼び捨てなのに。

「河田君は、えーと……」

うわ。ごめん、覚えてないし。

「宗純。宗純だよ、覚えて」

「ごめんね、名前とか覚えるの苦手で」

ファーストネームまで、なかなか。

 テーブルのあちこちで、同じような名前呼びのやり取りが行われていた。だから不思議ではないんだけど、河田君改め宗純が、なんだか、ちょっと近いな……なんて思っていたら。

「美緒」

よく通る、ハルくんの声。

「ラストオーダーだって。何か飲む?」

いつの間にか立ち上がっていて、メニューを渡してくれる。

「あ、ありがと」

メニューを広げた分だけ、宗純との距離が開く。

「じゃあ、ピーチソーダで」

「……おこさま」

「いいでしょ、別に」

「で、宗純は?」

ハルくんは、宗純にも聞いて、それから周りのみんなからオーダーをとっていった。

「……そういえば。ハルは、前から名前で呼んでるね」

宗純がそう言うので、

「一回生の英語クラス一緒だったし。クラスでイベントとかもしてたから」

と、私は答えた。

 ハルくんは、もともとほとんど愛称とか名前で呼んでる人だから。

「美緒ー、りょーすけが、うっとーしいから匿って」

と、千裕が帰ってきた。

 もう一つのテーブルの端の方で、西井君……亮介とずっと話し込んでたようだったけど。

「なんかね、どうしたら彼女ができるかとか、そんなのばっかりで」

千裕が愚痴る。

「藤崎……あ、ハルに……もう面倒くさ……聞いたらって言ったら、次元が違う―とかで」

面倒くさいとか言いつつ、言い直してるあたり、千裕も律儀だよね。

「さー、名前呼びも浸透してきたところで、重大発表! 七月、前期試験の後に合同ゼミで合宿の予定! 心して空けておくように!」

ヒデさんが声を張り上げた。

「夏は高原コテージで、イベント三昧だー!!」

今度は松林ゼミの四回生が声を上げる。

 歓声。

 盛り上がったところで、飲み会は一旦お開きになった。

 私と千裕は、実家からの通いで家が遠いこともあって、一次会のお開きで抜けるのが恒例。

 今日もいつもと同じように、二人で抜けた。

 駅までは一緒に歩く。

「美緒、河田君、押してきてるね」

千裕が言う。

「え? 何を?」

「わかってないなら、いいけど」

なんだか含んだ言い方。

「やっぱり、ずっと、藤崎くん、だね、美緒は」

「うん……」

「りょーすけも、言ってたけど。なんか、腑に落ちないんだよね」

「何が?」

わけわかんない。はっきりしない言い方は千裕らしくない、と思う。

「タイミングよすぎ、っていうか」

「だから、何が?」

「藤崎くんが、美緒をかまうじゃない?」

かまわれてるかな? 私は首をかしげる。

「かまわれてるって、ハルくんは誰にでも、よく気がつくし」

「う……ん、まあ、そうなんだけどね」

千裕も首をかしげる。

「気がつくのはつくにしても、美緒には、何気に的確? っていうか……」

言いたいことがまとまらないみたい。

「ま、おいおい、はっきりしてくるかな?」

と、なんだかよくわからないまま駅について、別の路線に分かれることになった。

「あ、合宿! 千裕、行くよね?」

「うん、心して予定空けておけ、だもんね」

女子が少なめだし、千裕がいてくれれば何かと心強い。

 千裕と別れて、ホームから見上げた夜は、すっかり夏の気配を漂わせていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ