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sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
夏から秋へ
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 後期授業が始まった。

 ハルくんと出かけてから後の夏休みを、どんなふうに過ごしたのか、自分でも覚えていない。

 ずっと泣いていたわけじゃないし、アルバイトにもちゃんと行った。残りの課題も何とか仕上げた。

 でも、ただそれだけ。


「……美緒。どうしたの?」

私の顔を見た千裕が、開口一番で言った。

 夏休みが明けて、初めてのゼミの日。今日は、池田ゼミ単独の日なので、ハルくんに会うこともない。

「えーと、ダイエット?」

私が適当に言うと、

「そんなわけないでしょ。この前会ってから、二週間も経ってないのに」

千裕が顔を険しくする。

 そんなにどうしたの、って聞かれるほど、体重が落ちたわけでもないし。千裕が大袈裟なだけで。

 千裕への返事に困っていたら、池田先生が、部屋に入ってきた。

「……ゼミ終わったら、話聞くから」

低くて否やを言わせない調子で千裕は言った。

 

 ゼミが終わると、学内のカフェの隅っこの席を確保した私たち。

 とりあえず、飲み物くらいは頼ませてもらえたけど、千裕はせっかちで。

「ハルと、何かあったの?」

と、ダイレクトに聞いてきた。

「なんで、そんな抜け殻みたいになってんの?」

抜け殻、って。

 心配してくれているのは分かってる。だから、私は、ハルくんと会ったこと、芹さんと会ったこと、そして私とは付き合わないと言われたことを話した。

「なによ、それ!」

わけわかんない。ハルは何考えてんの?! と千裕が怒り出す。

「ハルくんに拒絶されるのも、もう二回目だし。いい加減、やめないと、って思うんだけど……」

「そうだよ、もう、すっぱり思い切って!!」

勢い込んで千裕は言うけど、

「でも……どうしたら、いいのか、わかんなくて」

やめられるくらいなら、こんなに辛くない。仕方なく、私が笑ってみせると、

「……ハル、絶対間違ってるよ。美緒に、こんな顔させるなんて」

千裕は、心底悔しそうに言ってくれたのだった。

 千裕が、代わりに怒ってくれたり、心配してくれたりしたので、少し救われた。

 泣いてるのかなんだかわからない、胸に沈んだ澱がたまるばかりの日々から、一歩だけ外へ出られそうな気がした。

 

 「あきらめて」と言われ、「付き合えない」と言われ。

 それでも、どうにもならない。

 それでも、やっぱり。

 ハルくんが。

 ハルくんだけが……ずっと、好きで。

 少し近づいたかと思うと、また突き放される、その繰り返しで。振り回されてばかり、なのに。

 それでも、好きで、いる。

 それなら。ずっと好きでいるしかない。

 いつか、この気持ちが変わる日が来るのか、それはわからないけど。

 私は、静かに心を決める。

 ハルくん。

 あきらめきれないから。

 ……好きで、いてもいいよね。


 後期二回目のゼミの日。

 終わった後に、宗純に引き留められた。

「急ぎじゃなかったら、少し話せないかな?」

と。あまり気は進まなかったけど、ゼミ生がみんないる中で断りにくく、千裕も引き止めてはくれなかったので、仕方なく宗純と部屋を出た。

 あんまり時間取れないよ、と私は宗純に告げ、大学生協の横のスペースで立ち話。

 四限目の後ということもあり、それほど人の出入りもない。

「美緒ちゃん、休み明けから元気ないね」

「そうかな?」

一時よりは、開き直ってきたので大丈夫なんだけど。

「……オレじゃ、だめ?」

合宿で断ったはずなんだけど。

「このところ見てたら、あんまり辛そうだから。オレだったら、絶対そんな顔させない」

食い下がるのも一つの強さなのかな。

「ごめん、やっぱり、無理」

私の答えは変わらないけど。

「じゃあ、気晴らしに。適当に使ってよ。美緒ちゃん、家遠いんだし、送り迎えとかするよ?」

明るく言う宗純。

「ありがとう。また、機会があったら、ね」

そう言って、私は話を切り上げた。

 まっすぐに好意を向けられても、それでも、やっぱり、ほかのひとじゃダメなんだ。だから、私は宗純には応えられない。


 今日は車で来たので送る、という宗純を断わって、一人で駅に向かう。

 歩きながら、電車に揺られながら、気づいたことは。

 私、まだ、想いを伝えていなかったな、ってこと。

 ハルくんは態度でわかっているはずと、言葉では伝えていなかった。

 ハルくんを、どれだけ好きか。

 玉砕覚悟だし、すぐには無理かもしれないけど。ちゃんと伝えていないから、終われないのかもしれないと思う。

 伝えたい。

 ハルくんに。

 あなたが好きです、と―――。


   

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