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sweet edge ~ この胸の永遠  作者: 真織
夏から秋へ
13/35

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 ハルくんと、約束をした日。

 待ち合わせ場所に向かう途中も、気持ちは落ち着かない。

 ハルくんに会える。ただ純粋に嬉しくて、それだけで一杯になる私と。欲張りになる私と、怖くてたまらない私。

 千裕は、たぶん、チャンスだよと言いたかったのかな。それで、ハルくんが彼女と別れたことを教えてくれたんだろう。

 でも。

 もう、二年近く前になる。初めてハルくんと出かけた日、あの時も、ハルくんは彼女と別れたばかりだった。それは、芹さんと、つきあう前のこと。

 私の気持ちを知ってたはずのハルくんなのに、私とは、つきあうっていう選択肢はなかった。

 ゼミ合宿の二日目の夜、優香さんは、私のことを別格だと言ってくれたけど。ハルくんにとって、対象外ってことかもしれない。


 だけど、会いたい。

 ただ、会いたいのに、怖い。



 それでも、身なりにはすごく気を遣った。

 合宿中は、行き帰りを除いて、ほぼTシャツにトレパン状態だったし。少しでも良く見せたいって気持ちが、約束をした日からずっと着ていくものを迷わせた。

 迷ったあげくに、無難な格好になってしまった気がするけど。

 ミルクティー色のシフォンのワンピースに、白のUVカーディガン、白のサンダル。絡みやすいから、大抵はまとめていることの多い長い髪も、今日は頑張ってブローして下ろしてきた。

 待ち合わせは、海岸線の湊駅改札を出てすぐの地下広場。広場の真ん中では光と音のなるパネルの床が色を変え、不思議なホログラムを作っている。

 約束した時間の少し前について、あたりを見渡すと。

 JRから広場に降りてくるエスカレーターの横に、ハルくんは立っていた。

 遠くても、やっぱりわかる。

 定番の白いシャツとジーンズ。あっさりした普通の格好が、帰って目を引く抜群のスタイル。ほら、道行く人も、ちらりと目を奪われている。

 近づきかけて、私は立ち止まってしまった。

 ……なんて、声をかけたらいいんだろう?

 気配を察したのか、ハルくんがこっちを向く。

「美緒、おはよう」

少し目を細めて言うハルくん。ああ、そっか。

「おはよう」

それでよかったんだ。

 どきどきしながら、ハルくんのそばに行く。初めての、待ち合わせ。

 約束して、二人で会う。それがこんなに、嬉しい。

「美緒、髪おろしてるの、珍しいね」

そう言って、ハルくんが、髪の先を指でとかす。

「なんか、いいにおい」

びっくりして固まってしまった。

 ……あの、しょっぱなから、ナニ? えーと、会ったばっかりで、なんでこんな近くで髪触られてるの!?

「美緒?」

「……ハイ」

「なに、その反応」

今にも吹き出しそうなハルくん。

「なに、って、ハルくんがいきなり……」

きっと私、真っ赤になってる。

「ああ。免疫ないんだったよね、ごめんごめん」

からかってる! 絶対面白がってる!

 私の憤りを無視して、ハルくんは自然に私の手を取る。

「行こうか」

手をつないだまま、歩き出す。

 胸の奥が、きゅうっと鳴って。心だけ、走り出しそう。

「は、ハルくん、手……」

私の、いっぱいいっぱいの抗議も、

「今日は、お世話したお礼のはずだけど?」

しれっとハルくんに却下される。

「だから、今日は。できるだけセーブはするけど、遠慮しない」

はああ? なに? なんなの、その宣言。

 ハルくんは、よくわからない……。

 そしてそのまま、映画館へ連れて行かれた。

 ハルくんが見たいと言っていたサイバーサスペンス。お礼だからと強行してチケットは買わせてもらったけど、並んでいる間にハルくんは飲み物を買っておいてくれて。

「美緒、カフェオレでよかった?」

「あ、うん。ありがと。座席指定、ちょっと端になっちゃったけど……」

「いいよ、じゅーぶん」

 ハルくんと並んで座る。合宿帰りのバスの中、みたい。

「美緒、また緊張してる?」

「そうでも、ない、かな」

答えると、ハルくんが、すごくやさしい目で笑う。

 隣にハルくんがいて、物語に入っていけるかと心配だった。映画はテンポよく展開して、はらはらしながらも楽しめた。クレジットが終わるまで、隣を意識しないってことはなかったけど。

 映画の後は、海の見えるショッピングモールでお昼を食べた。

 食べながら、さっきの映画の話で会話はスムーズに進んだ。

 それから、海に張り出した板張りのプロムナードを歩いて。

「あれ、乗ろうか」

と、突然ハルくんが指差した。 

 その先には、大きな観覧車。

「え、あの、ほんとに?」

「うん、行こう」

手を引かれて、来てしまった、観覧車の乗り場。

「はい、二人ね」

そのまま、ゴンドラの中へ。

「あ、れ? 美緒?」

……ごめんなさい、やっぱり無理! 

 でも、動き出したゴンドラは止まらないし。

「もしかして、観覧車、苦手?」

「……高いとこも、下が揺れるのも、ダメ!!」

怖くて。

 怖くて、座席の上で体を縮めていると、

「そっか、ごめん」

正面にいたハルくんが立ち上がって隣へ移ってきた。

 う、動いたら、もっと、揺れるじゃないの馬鹿――――。涙目でハルくんを睨み付けてやると、ふっと笑ったハルくんが、座ったまま私をふわりと抱きしめて。

 それから、おでこに羽のように軽くキスをした。

「ほら、怖くない」

! ……! …………! 





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