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ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
46/52

狼と白 4分の1の……

「ギレイの旅」8章「エリと同じ」と「白の瞳」の没案を編集してまとめて見ました。カット集みたいなものでしょうか? それとなく話っぽくつなげては見ましたがストーリーとしては、いびつかもしれません。

 儀礼の白衣は、体型を隠す形にはなっているが、女性の様に胸があるようには見えない。

体を守るための鎧でも、やはり女性用の物は形が違うので大抵見れば分かる。


「あいつらの目は節穴だ。」


不満そうに儀礼が言う。

美しいエリに似た儀礼の容姿は、普通に考えれば女だと思うだろう。

しゃべらなければ確実に女性に見える。

男だという選択肢がまず、浮かばないだろうと、拓は外で寝転んでいる連中をあざ笑う。

今、拓と儀礼で、拓を黒獅子と、儀礼を女性だと勘違いして襲ってきた男6人を倒してきたところだ。


 シエンに住む団居の者はその歴史の中で、ただの文官ではなくやはり、戦士であった。

それなのに、小さい頃から、戦うのを嫌う儀礼。

無理やり戦いに参加させようものなら、涙を流して嫌がる。

そして、女共が飛んでくるのだ。

それも、一人や二人ではない、集団で。

「かわいそうだからやめなさいよ」と、ほぼ村中の人間に甘やかされて儀礼は育った。

この少年は、世の中の全てが自分の思い通りに進むと思っているようだった。


「ただいまー。獅子、僕、この『蒼刃剣』、ヒガさんに届けてくるよ。」

部屋に入ると、持っていた剣を示して儀礼は言う。

「明日には戻るけど、その間、拓ちゃん置いてくから使って。」

にっこりと微笑む儀礼は、獅子に向かって、拓が物ででもあるかのように言った。


「待て、何で俺がお前に『置いてかれる』んだっ!」

その表現がおかしいと拓が、儀礼をシメようとすれば、振り返り、にやりと儀礼は笑う。

「あれ? 置いてかれたくない、と。一緒に行きたい?」

勝ち誇ったような、儀礼の笑み。


 闇という暗い世界にありそうで、光の様に人を誘う、底の知れない魅力を放つ妖しい笑み。

(本当に、やつらの目は節穴だ。)

苦い思いで拓は、奥歯を噛む。

なぜ、コレ相手に、ああいう連中は勝負を挑もうと思えるのか。


「冗談、拓ちゃんいらないし。」

ころりと声音まで変えて、儀礼は普段の儀礼ちびに戻る。


 一言、文句を言ってやろうかと拓が口を開けば、その前に、儀礼は次の言葉を紡ぎだす。

「拓ちゃんがいないなら、この部屋には僕と、利香ちゃんと、白と獅子になるけど、いい?」

指を四本出し、四人部屋であることを示して、儀礼は首を傾げる。


 利香を儀礼と同じ部屋に泊めるのは、保護者あにとして大いに問題がある。

護衛とはつまり、保護者としてここにいろ、と言うことらしい。

拓の表情を見て、了承と受け取ったのか、儀礼は拓の元へと戻ってくる。

その途中で、儀礼は未だに出て来ない布団の塊に気付いた。


「あれ? 白まだ布団の中? 暑くない?」

儀礼は、布団の塊に近付き、中をのぞくようにして首を傾げる。

「白~、出ておいでよ。今なら、珍しいシエン人がいっぱい見れてお得だよー。」

儀礼は、尋ねてきたのがユートラスという敵ではないことを白に伝える。


「おい、儀礼。シエン人がいっぱいって、3人だけだろ。」

呆れたように拓は言う。

儀礼が、驚いたように目を開いた。

そして一瞬だけ、美しい笑みを浮かべた。氷の様に冷たい笑みを。


「忘れてるよ、拓ちゃん。僕もシエンだ。」

にっこりと、それはいつも通りの儀礼の明るい笑みに変わる。

「ギレイクンはハーフ?」

白が布団の中から顔を出し、儀礼を見上げて問いかける。

金の髪、群青色の瞳、美しい天使のような顔立ちの、可愛らしい――少年らしい。


「僕の母さんがアルバドリスクの人なんだ。父さんがシエンとドルエドのハーフ。」

半分、白と一緒だね、と儀礼は嬉しそうに笑う。

「これでも、生まれも育ちもシエンだよ。」

その笑顔が少し翳った気がした。


 4分の1。

儀礼が犬とこだわる、混血の狼『シロ』。4分の1でも『犬』。

それは、儀礼の自分に対する言葉なのか、と白は思う。

4分の1のシエン。

見た目のどこにもシエンらしさがない。

でも、生まれたのも育ったのも、その心はシエンなのだと、儀礼は言う。


「どうしたの? 白。」

キョトンと儀礼が、黙り込んだ白を見る。

シロ』。

その名がとても大切なものなのだと、白は感じた。

白と、呼ぶたびに、儀礼は嬉しそうに笑う。

「ううん。なんでもないよ。」

大切な名を貸し与えてくれた儀礼に、白は同じ様に微笑みを返す。

精霊によく似た、優しいシエン人に。

4分の1。

「シロは犬。」

儀礼の言い張る理由です。

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