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ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
40/52

困りごと

 ただの買い物目的で儀礼は町の中を歩いていた。

その時、一台の黒塗りの馬車とすれ違った。

高級そうな出で立ちの馬車は、遠ざかる目にも貴族の物であるとわかる。

儀礼の手は素早く白衣の懐に滑り込み、銀色の銃を握ると、その馬車の車内へと狙いを定めた。


 その手を、掴んだ者がいた。

「なぜあの男が犯罪者だと?」

動き出した儀礼の手を鋭い眼光と、強い力でアーデスは止めた。

確かに儀礼は、余程の理由がなければ戦闘態勢で銃を抜いたりはしない。

しかし、だからと言って、儀礼の攻撃理由を『犯罪者だから』と一度で言い当てるアーデスの洞察力はやはり普通ではない、と儀礼は感じる。


「人間コレクターはわかるよ。僕のことをコレクションに加えたいなって目で見るから。」

すれ違った馬車に乗っていた男の『儀礼を見た視線』を思い出し、儀礼は胸の内から出る嘲笑の言葉を伝える。

心の中で唱える儀礼の声は、そういう人間を確かに嘲り笑っているのに、ナゼだろう、その口から出る本物の声が、勝手に震えているのは。


 『人間コレクター』。

集める人間コレクションは、生きたままだったり、死体だったり。どちらにしろ、まともな神経ではない。

そして、それをする者はほぼ全て、犯罪者だ。


 笑えているはずの儀礼の顔には、流すつもりのない涙までもが浮いていた。

「これは何でもない。」

笑えなかった自分に不満そうに口元を歪め、儀礼は焦ったように涙を拭う。

情けない自分に嫌気がさす。


 そしてまたすぐに、儀礼は得意の、人を惹き付ける綺麗な笑みを浮かべた。

見えなくなった馬車に、儀礼は元通りに銃をしまった。

隣りに立つ、金髪の冒険者は黙ってその儀礼の動作を見ていた。

同情なんてするような人間ではない。

世界に名の知れたその冒険者は、儀礼よりもひどい境遇の人間を大勢見てきて、おそらくは、本人も辛い幼少時代を過ごしているはずだった。


 しかし、儀礼は知っている。

この男が次に何と言うのかを――。

「切りましょうか?」

すがすがしい、爽やかな笑みを浮かべて男は言う。

まるで伸びてきた枝葉を少し刈ろうかとでも言うように、さらりと。

人の命をかけた言葉を告げた。


 儀礼は、はっきりと嫌だという意思を顔に表して、アーデスを見る。そして――、

「捕まえて。」


先ほど通り過ぎた、すれ違っただけの馬車の行った道を示して、儀礼はにっこりと笑って答えた。


 慰めの言葉を持たない冒険者だからこそ、儀礼は安心する。

心配されたいわけじゃない。

気を引きたいわけでもない。

守って貰いたいと思う年でもない。


 本当なら、自分で闘う力が欲しい。


けれど、現実には一人では足りないから。

その力を貸して欲しいと、儀礼は不器用な冒険者の強い力を頼る。


(借りた分は必ず返す。)

それは儀礼の、いやシエンの流儀に近い。


(※拓の場合は倍返しだ。←違う)


 借りを返せる場と、儀礼は考える。

AAランクのアーデスが困りそうなこと……、そう考えて儀礼は思い浮かばなかった。


欲しがりそうなもの……、法に触れるので儀礼には手が出せない。


好きそうなもの……以前、儀礼が訪ねても気付かないほどにアーデス達は、お酒を飲んで眠っていた。


「……お酒でいいの?」

「何がです?」

儀礼が問えば、さっそく仕事に取り掛かろうとしていた聡明な冒険者は、その問いの意味がわからないと言った様子で、困ったように眉をしかめたのだった。

病院での待ち時間があまりに長かったので、予定外に時間ができ、前に携帯で書いていた下書きを手直ししてみました。

分かりにくい話ですみません。


「人間コレクター」は、儀礼のトラウマの一部です。

そして、困ることが思い浮かばないというアーデスを、即座に困らせたギレイ(笑)

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