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ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
34/52

礼儀正しくない理由?

 ―― 幼い玉城拓の日常に起きた事 ――


 ある日のこと。



「我が君なるお方のたっときご尊顔そんがん拝謁はいえつたまわり、光栄こうえい至極しごくに存じます。」


高く、耳に通る綺麗な声が、拓の耳に届いた。

その意味は――


『我が主の、貴いお顔を見ることができ、この上なく光栄に思います。』


領主となれば、いずれ拓も王の前に出て使うこともあるだろう言葉。

そして、領主となった拓が、言われることもあろう挨拶の言葉。


 それを唱えたらしい小さな子供は、きょとんとした顔で拓を見ている。

金髪の、天使のような顔をした少年。

いずれ、拓の部下となり、シエン領を治める手伝いをする可能性の高い団居まどい家の長男。


「――って、どういう意味?」

首をかしげて、儀礼は困ったように拓を見上げた。

その手元には、紙もぼろくなった、古ぼけた分厚い本。


 その日、拓の中に今までにない、苛立ちが生まれる。


 ***


また、別のある日。


「その誉れ高き王なる血筋にお仕えできることに、我が身は感激かんげきに震えるほどの喜悦きえつに満ちております。」


高く、透き通るような声が、拓の耳に届けられる。



『誉れ高い王家の血を引く者にお仕えできることに、私の体は震えるほど感激し、大変な喜びに満ちています。』



 そう言った幼い少年はやはり、真っ直ぐに拓の方を見ている。

シエン王家の末裔、玉城拓という人間を。


「――って、どういう意味?」

やはり、首をかしげて儀礼は、澄んだ瞳で拓に問いかけた。

拓なら、答えられると信じて疑っていない様子。

その手にはぼろぼろの紙の束。


「……なんで俺に聞くんだよ。団居先生に聞けばいいだろ。」

苛立ちに、頬を引きつらせて問いかければ、儀礼は涙を浮かべて半歩下がる。

「だって、教えてくれないんだもん。お前にはまだ早いって。」

潤んだ瞳が拓を見つめる。青くも黒くもない瞳。


「なら、他の大人に聞けよっ!」

「……領主様は忙しいし。ちょっと、怖い。」

拓が少し乱暴に返せば、人の父親を怖いなどと言う。


「本当は、ウサギに聞きたいんだけど、意味が分からないから、ウサギの言葉にも直せなくて……。」

うるうるとその瞳から涙が零れ始める。


 なぜ、ウサギと話そうなどと思う子供が、古くて難しい言葉の言い回しを暗唱ソラで言えるのか。

拓には、からかわれているとしか思えなかった。


「他の人じゃ、きっと知らないし。拓ちゃんなら分かるでしょ。」

涙を袖で拭いながら、当然のことの様に儀礼は言う。


 答えられてしまう拓も拓なのだが、そのせいでまた、儀礼は拓を頼りに来る。

同じような質問を抱えて。


 その日から、拓の中で苛立ちは膨れ上がる。



****************


「団居先生! 儀礼の奴全然、礼儀正しくない!」


幼い少年の心は、さらに幼い少年により、歪まされてゆく。

……これではまるで、暴君拓を育てたのが儀礼みたいではないですか。

幼い儀礼は『素直ないい子』だったはずなんですが。

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