表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
29/52

砂遊び

砂地で話し込む儀礼、クガイ、ヒガ。


「ええーっ、魔法で、そんなことができるんですか? それだけで?」

儀礼が驚いたように聞く。

「ああ。そんなに驚くことか? 誰でも知ってるだろう。なぁ。」

クガイがヒガに聞けば、ヒガも頷く。

「まぁ、その程度なら。常識、じゃないのか?」

かえって、不思議そうに首を傾げるヒガ。

ヒガも、儀礼と同じ、ドルエドの生まれである。魔法に関しての規制が厳しいのは同じ環境だ。


「でも、僕ドルエドのシエン育ちなんで、本当に田舎者なんですよ。魔法使える人、周りにいませんでした。」

不満げに口を尖らせて儀礼は言う。

「じゃぁさ、やっぱり掃除の呪文とか、料理の魔法とかもあるんですか?」

「……それ、絵本の中の話だろう。常識を考えろ。お前は風炎地水ふうえんちすいで掃除ができるのか?」

馬鹿にしたような目で、クガイが儀礼を見た。

「待って、なんでそこまで言うんだよ。知らないんだから仕方ないだろ。」

目に涙を浮かべ、儀礼は言う。

ザッ、ザッと、拗ねたように儀礼は落ちていた木の棒で、砂に落書きを始めた。


「知ってるからって偉ぶって、年上だからって威張って、背が高いからって見下ろして、ずるいっ!」

ぶつぶつと小さな声でぼやきつつ、人の顔を書き上げ、儀礼はそこに、「たく」と書き添えた。

「なんだ、これは?」

絵心のない、幼児の描いたような丸と点と線だけの簡易な絵に、ヒガは首を捻る。

「世に言う、いじめっこの顔です。」

両手を腰に当て、満足そうに儀礼は笑う。


ていやぁー、と儀礼はそこに大きく×印を描く。

「ふっ、僕の勝ちだ。」

にやりと笑った儀礼の側で、ボンッいう音とともに小さな煙が上がった。

儀礼が顔を上げれば、その方向では、錫杖で何かを描いたらしいクガイが、儀礼の方を見ていた。

その周囲に、細かい砂煙が立ち上っている。

「……何したの?」

ちょこちょこと、儀礼は砂の上を足音もなくクガイに近付く。


「陣を描くだけの子供のまじないの様な遊びだ。大した魔力も使わないから、大抵の子供ができる。」

そう言って、クガイは砂の上に、繊細な模様を書き記した。

「それ、覚えるの難しいと思うよ。子供。」

クガイたちの育った環境を思い出し、儀礼は複雑な笑みを浮かべる。

出来上がった紋様、魔法陣の上に、クガイは錫杖を持ち上げる。

「これで、魔力を送り込めば簡単な魔法が発動する。少しずつ模様を変えると発動する魔法の効果も違ったりしてな、ちょっとした好奇心の試し場だったな。」

口の端を大きく上げて、クガイが笑う。

それはもしかしたら、楽しかった時代の話なのかもしれない、と儀礼は思った。


 静かに、クガイが魔力を溜めるのが分かる。子供の遊びと言ったわりに、真剣な表情だ。

そして、意を決したようにその陣の中に錫杖の先を突きつける。

「来たれ風神っ、龍神招来りゅうじんしょうらい!」

クガイの言葉と共に、直径50cm程の円の中に、小さな竜巻が沸き起こる。

そして、それはまるで本物の龍の様に細長い体をうねらせて、竜巻の中を砂の龍が飛んでいる。

その高さは、1mを超え、儀礼の背を超え、そして地面を離れると、あっという間に、空の彼方へと飛んでいった。


 呆然とその飛んでいく空を眺めていた儀礼。

薄暗い雲に覆われたその端にも砂の龍が見えなくなってから、ようやく儀礼は振り返った。

「っ……すっごい、かっこいい!!」

瞳を輝かせて、クガイの偉業を褒めたてた。

1話前の「仕掛け」どころか、これはもう、ただの砂遊びと化しました。


凄そうなクガイの呪文ですが、実は、唱えるのは他の言葉でも大丈夫。

今回のは魔法陣と魔力があれば発動する魔法です。

ようは、クガイの気分です。

そして、すっかりその気分に乗せられている儀礼でした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ