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ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
27/52

ギレイくんのお絵かき講座

 『ギレイくんのお絵かき講座』

そう題された儀礼の資料。

数ある重要ファイルの中に並ぶ、異様な存在感を放っているもの。

意外なことに、その資料へのアクセスは少なくない。

他愛のない物に見えて、しっかりと制限がかかっているので、各国・各組織の情報担当者がどこかに解析のヒントが隠されているのではと、日夜研究しているのだという。

儀礼の祖父が書いたという資料の、シエンの文字というものの解読のために。


 中味は子供の落書きだった。

間違えようもなく、幼児の描いたただのお絵かき。

講座でもなんでもない。

たまに絵日記の様に文章がついていることもあるが、それさえも幼児の描いた、たわいもない言葉。


 茶色いクマらしき毛玉のようなものを、黒い大きな雪だるまのような形の物が、腹から四角い棒のような腕をはやして、殴り飛ばしているらしい絵にかかれた言葉。

「くまがでた。 じゅうきさんがたおした」

儀礼に絵の才能はなかった。


「きょうは あめで さむかった」

「かえる つかまえたら おねえさんが みんな にげた」

真っ白い背景に、茶色っぽいカエルと思われる物体と、水色でたくさん振る雨だけが描かれている。


 また別の絵には、鍋を囲む大勢の人。

「くまを もらってたべた」


 少々、気になる言葉もあるが。

どのデータも何の変哲もない、落書きを取り込んだ画像だった。

そんな画像が、とても大量にある。

およそ500枚。


 『アナザー』という怪しい存在に言わせるなら、それらの資料は儀礼自身がデータ化したのではなく、儀礼の父親が、押入れの奥から見つけてきた儀礼の幼い頃の絵を、懐かしいと言う理由でパソコンに取り込んだものらしい。


 儀礼本人は羞恥のあまりに幾度となく消そうとしたが、絵の本体を儀礼が捨ててしまったために、「思い出だから」という親の特権で母親に泣き落とされたらしい。

今でも、儀礼は隙あらば消そうとしていると言う。

子供の描いたくだらない絵。

そして、その中に紛れ込まされた、儀礼の絵よりいくらかましに見えるだけの、情報資料と言う名の絵。


 二人しか通信者の居ない黒い空間に、白い文字が浮き出される。

AA:『お前、画才ないな。』

AN:『俺はギレイを真似ただけだ。』


 今日もその講座を熱心に魅入る 最高クラス(AA)の冒険者であり、研究者である、アーデスの姿が見られたという。


*******************


 幼い子供が、自分だけの文字というものを作ることがある。

たいていは、その文字の意味を二日もすれば本人が忘れてしまうようなどうでもいい遊び。

それを、儀礼は文字の意味を覚え続けて使っていた。

ただ、儀礼が小学校に入学してしばらくすれば、お絵かき遊びもしなくなっていた。


 儀礼の考えた絵で書く文字も、幼い子供の考えたこと。すべて適当な感じで決まっている。

木の実が一つなら「食べ物」。たくさんなら「お腹空いた」。

のどが渇いたときには、川。

カエルを置けば、安全地帯。

悲しいときや寂しいときには雨。


 『儀礼くんのお絵かき講座』

今日も世界中に、儀礼は幼い頃の恥をさらしている。


********************


AN:『ヒエログリフ(聖刻文字)って知ってるよな。』

AA:『まさか……』


AN:『話が早くて助かるね。そういうことだ。照合出来たとしても、ここにあるのは子供の日記だ。』

AA:『これを本当に4、5歳児が?』


AN:『もっと大きくてこの絵だったらどうだよ。』

AA:『……哀れだな。』


**********************


 その日もお絵かき講座を受講する『双璧』の姿が見られたという。

「アーデス、大丈夫か? そんな子供の絵なんて眺めて、まさかっ、父親にでもなるのか?」

パーティ内にアーデス父親説が流れたらしい。


**********************


―― 今日も兎は腹を抱えて笑ってる ――

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