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ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
20/52

うちの子

 それはまだ儀礼たちが生まれる前のこと。『黒鬼』と呼ばれる男の話。


 その頃には、礼一はエリを連れシエンに帰り、村に学校を開いていた。生徒数はごくわずかだったが。


 ジュウキは礼一たちより1年ほど後に大勢の仲間(手下たち)を連れ、シエンの村に帰ってきた。

行き場のない若い男逹(元野盗。がらが悪い)、数人。身寄りのない子供たち十数人。

かなえ(奥さん、元野盗)。


 ジュウキは代々続いている獅子倉の道場を継ぎ、若者逹を門下生とした。

ごくたまに『黒鬼』ジュウキに挑戦しにくる無謀な挑戦者がいた。

その全てをジュウキは苦もなくなぎ倒す。


 ジュウキの連れてきた子供たちは学校にも行かせたが、シエンの村の子供たちとは距離を置いていた。

育った環境が違いすぎるために、子供同士でも理解し合うのは難しいことだった。

何か揉め事があっても、ジュウキは「うちの子たちのことは俺が面倒を見る」と言い張り他者の介入を避けていた。


 ある日、ジュウキの所の若者逹が近くの町で争い事を起こした。

元々素行のわるい連中なため、ちょくちょく小さな喧嘩は起こっていたが、今回は事が大きくなった。

町を牛耳っていた大物と事を起こし、相手グループをほぼ壊滅状態に落とし入れた。

ジュウキの名は周囲に知れわたっていたし、十分一人で片をつけることはできる。

今までのその町の陰の支配者がいなくなり、ジュウキにかわるのだ。


 だが、そこにシエンの領主が口を出した。

その町の町長の家へ、ジュウキに来いと呼び出してきたのだ。

「下がっていろ、これはうちの問題だ!」

Sランクと言わしめる世界屈指の武人が、威圧を込めてシエンの領主を怒鳴り付ける。

しかし、領主はひかなかった。表情をまったく変えず、怯みもしない。

もともと領主は感情を表に出すような部類ではなく、むしろ乏しいと言えるような男だった。

体格は標準だが、ジュウキに比べればずっと小さい。

どちらかと言えば文人に見える落ち着きで、そしてジュウキより一回りは年上だった。


「お前が線引きをするな、馬鹿者。お前が連れてきた子どもらなら、それは里の子だ」

領主は威厳ある態度でジュウキに言い放った。

真正面からジュウキを見据える姿は貫禄がある。


 領主は町の長に向き直る。

「うちの(里の)子らが世話になった。迷惑をかけたならシエン領主として謝罪しよう。だが、うちの子らはあのような輩とは違う。これからは迷惑をかけることもないだろう」

そこで領主は一呼吸おき。

「もし、あなた方があの輩からの報復を恐れるなら、正式にギルドに依頼なさるといい。すぐ近くにこの黒鬼とその門下生がおります。シエンの戦士がいつでも力をお貸ししましょう」

そう言って、領主は隣に立つジュウキの腕を叩いて示した。


確かに、ジュウキには戦争を起こすつもりも、こんな小さな町々を支配するつもりもなかった。

ジュウキは領主をちらとだけ見る。

そして、太い腕を組み仁王立ちしているジュウキを、恐る恐るという風に見上げてくる町長に鼻をならした。

「ああ」

ジュウキは短く返事をし町長に頷いてみせた。


 ジュウキは償いのつもりでたくさんの子供逹をシエンの村に連れてきた。

自分の殺した多くの人、自分の起こした争いに巻き込まれて両親を失った子供たち、治安が悪くなって魔物に親を殺された者もいる。

その面倒をジュウキは全て、自分で見るつもりだった。

道場で鍛え上げ、冒険者としてやっていけるように育て、学校へ行かせ最低限の知識を与える。

そのために必要なお金はギルドの依頼を片っ端から受けることで補っていた。

ジュウキの連れてきたのはまだ自力で稼げない者ばかり。

食事などの面倒は妻となったかなえが見ているが。

たくさんの血が混じり、どこの子かもわからない子供たち。シエン人でないことだけは見ればわかるのに。


 領主はかまわずうちの子(里の子)と呼んだ。

しかも自分ジュウキが連れてきたのだから、と。それだけの理由で。

世界最高のSランクを付けられ、強くなった気でいたのだが、自分はまだまだ器が小さいようだ、とジュウキはシエンの空に向かって息を吐いた。


それから数年後、ジュウキの家には男の子、領主の家には女の子が生まれていた。

ジュウキの道場にいる剣を持って喜ぶ男らしい女の子逹とは違う、花を持って微笑むような、愛らしい、可愛らしい女の子。(ジュウキの妻のかなえでさえ、元盗賊。)

ジュウキはそこに、今までの自分の人生になかった平穏と言うものを見た気がした。

自分の、壊した世界に願う平和というもの。


いつしかジュウキの子、了と領主の娘、利香の婚約が決まっていた。

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