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ギレイの旅 番外編  作者: 千夜
いち
15/52

水時計をめぐる見えない攻防

 それは、恐ろしい衝撃。

ネット上に『蜃気楼』の『水時計』という物をまとめた資料を落とすと言う『アーデス』からの予告。

「2秒で拾え」と警告されている。


 青年は顔を青くする。

「おいおい、まじかよ、いかれ護衛!」

叫びながら、青年、穴兎はパソコンのキーを叩く。

その指先は速すぎてどのキーを押しているのか、捉えることもできない。

その明らかにやばそうなものを拾得した後、全データをその場から消し、ネット上に残った、または拾ったと思われる者のデータと回線を全て焼く。


 その間に、アーデスなる者の手が穴兎へと伸びてくる。

「やばい、追いつかれる! こういう時はギレイ頼みだ。自分で何とかしやがれ」


 この世界のネットと言う環境には、精霊の力が大きく関係すると言われている。

その説を穴兎は信じていた。

穴兎は、いつも儀礼と会話する、専用の回線を開く。そこは儀礼に直通。何故か、いつも直通。

そして、その回線だけは他者に妨害されたことがない。


“ギレイ! お前のやばい護衛どうにかしろ!”


それだけ送って、穴兎はまた危険な作業に戻る。

世界中から一気に追跡が伸びる。根を張っていたとしか思えない。

回避しながら別ものを追わせ、アーデスらしき追跡が切れたことも確認すると、穴兎はやっと一息つく。


 ふ~、と息を吐けば、自分がかなり長い間息をしていなかったような錯覚に襲われる。

「生きた気がしなかったぞ、おい」

青年は額に浮いた冷や汗を拭う。黒い髪が張り付いていた。

暗く消えた画面に、自分の緑の瞳が映る。


「バレた。絶対ばれた。これで『双璧』に『アナザー』と『蜃気楼』に関係ありだと知られた。くそっ、何てことしやがる」

穴兎は悪態をつくが、一つ、安堵できる要素がある。

それだけで『アナザー』の正体がバレることはない。

アーデスはきっと、『蜃気楼』になった儀礼に、『アナザー』が接触したと思っているだろう。

しかし実際には、儀礼が『蜃気楼』になる前はもちろん、穴兎が『アナザー』になるより前に、知り合っていたのだ。


 そう、知り合ったのは偶然だ。

当時は、儀礼がSランクを取る様な人物になるなど想像もしていなかった。

儀礼と知り合ったことが、穴兎が『アナザー』になるきっかけになったとは言えるかもしれないが。

「最初の一歩は儀礼だったからな」

青年はモニターから目を離し、体の力を抜くように椅子にもたれ天井を見る。

「本当に次々とんでもないことしてくれるからな」


 今頃になって、儀礼からの返信が届いた。右端の常時つけっぱなしの端末に。


“やばい護衛ってアーデスさんだよね? 連絡つかないんだけど、何かした?”


 張本人の、のんきなメッセージに穴兎は脱力する。

その連絡がつかない原因は、おそらく、儀礼の精霊がアーデスの回線を焼いたからだ。

文字通り、本当に物理的に焼いたのだろう。

儀礼よりも頼りになる奴、昔、小さかった儀礼のピンチに穴兎のパソコンをから煙を出したと思われる精霊と言うもの。


“何かしたのは向こうだ。されたのはお前”


穴兎はのんきな少年に報告する。


“?? アーデスさん何したの?”


危機感のない儀礼の返事。困ったことに、このSランクの坊やは、遺跡のマップをくれたアーデスを、優しいお兄さんとでも思っているようだ。

冒険者ランク、管理局ランク共にAのそれも、他者を寄せ付けない『双璧』などと呼ばれる程の実力持ちがそんなぬるいわけがない。

本当に、世話が焼ける。


“お前の情報、俺に拾わせた”


 儀礼の返事が遅い。事態を考えているのだろう。


“えと、ありがとう。穴兎、無事?”


 礼が先に来た。


「自分の心配をしろ、Sランク」


“繋がりがあるのはばれたな。俺の正体は大丈夫。それよりアーデスに手の内見せるな。油断し過ぎだ”


“わかった。気をつける。確かにちょっと、気を抜いてたかも。”


 そんな奴相手に気を抜くな、と溜息を吐き、青年は再び正面のモニターの電源をつける。

たった今拾得した資料を儀礼の危険物箱へ放り込む。そこはこの世で最も厳重に管理されている場所。

誰も、近付くことを許さない部分。人類だけでなく、世界のために。

「何が水時計だ。完全に兵器じゃねえか、爆弾だそれは」


 唯一の救いは、今現在の技術ではこれは簡単には作り出せないこと。

コストを考えるなら、普通の爆弾を作った方がずっと安くて速い。

しかし、危険なのは、作れる者には水時計それだけあればいいということ。

金輪際、こんな物の存在に、作り方に、誰も気付かないことを願う。

穴兎の一生ではなく、人類の文明が続く限り。

Sランクを持たなくとも、その実力を持つ者達は 世界 を手の中で転がして遊ぶ。

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