彼女 1
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あの日の兄の顔は一生忘れられないと思う。
私の兄は我慢強い人だ。
辛くても泣き言を言わないし、辛そうな様子も見せない。両親の葬儀で泣きつづける私の代わりに叔父さんたちの手伝いで忙しく動き回っていた兄は、一度も泣くことはなかった。
あの日、ルウさんの火葬に立ち会いに行って帰って来た兄は、帰ってきてからも喪服のままで両親の仏壇の前に座ってしばらくぼーっとしていた。
その日の夜に部屋で一人、静かに泣いていたのを私は知っている。
それでも次の日には、兄の様子は普段通りに戻っていた。いつものように朝ごはんの準備をして、いつものように私を学校に送り出してくれた。
私に心配させないようにして無理をしていることはわかっていたけれど、私は何と言葉をかけていいかわからなかった。そんな私の様子に気づいた兄は、大丈夫だからと笑ってくれた。兄は普段から笑わない人で、昔はぎこちない笑顔だったけれど、高校に入ってからは自然と笑えるようになっていた。そんな兄の笑顔が、私は好きだった。
でもその時の笑顔は、とても辛そうで、とても苦しそうだった。
あの笑顔を、きっと私は忘れられないだろう。