第七話 それは、秋の神殿で その一
ブランカ視点でのお話 その3 です
と、言うか、これからもブランカ視点でのお話になることが多いと思います
私が入内して、10日ばかりが経過した。
後宮での生活にも慣れはじめた。
ま、今、私達入内した令嬢達がやっている事と言えば、二日に一度、午前中に
『 お后教育 』
なる、礼儀作法や後宮の年中行事、しきたり などについての講義を受ける事と、皇太子殿下が神殿においでになられた時のお出迎え。
その他には、
お茶会
と、称して他の令嬢達を招いての、ライバル同士の腹の探りあい・・・
だろうか。
私も、二度ばかり、お茶会に招かれました。
私、はっきり言ってこういう会は苦手なんですが・・・
フェロル侯爵夫人やアンナが
「 后妃候補同士のお付き合いは、とても大切なものですから、是非、ご出席下さい!! 」
なんて言うものですから、しぶしぶながら参加することとなったのです。
お茶会での話しは、私にとっては退屈きわまりのないものでした。
最初に招かれたハエン子爵令嬢のローザ様ときたら、口を開けば、
「 この茶器は、どこそこの工房で作られた品で、いくらくらいする 」
とか
「 こちらの絵画は、さる高名な画家にわざわざ注文して描かせた・・・ 」
とか
はっきり言ってご実家の自慢話ばかりでしたし
次に招かれたパラカルボ侯爵令嬢のカロリーナ様は、ご実家の自慢話こそなさらないものの、
「 どこそこの公爵家では、ご当主が隠し子をもうけていたのが、奥方にバレて・・・」
とか
「 某仕立て屋では、縫い子にご子息が手を出して・・・」
とか言う、いわゆる 巷にあふれている 噂話 ばかりなさるのですから。
まぁ、ご実家の自慢話よりは、噂話の方が、まだためになることもありますから、話していて楽でしたけれどね。
それはともかく。
私、入内してから、どうしても行きたい場所があったのです。
それをフェロル侯爵夫人に話しますと、最初は目を丸くしまして。
「 ブランカ様、そのような場所に何故・・・ 」
と、言ったのですが、
「 中を見学したいのですが・・・ダメなのですか?
ならば、諦めますが 」
と、涙目で私が言いますと、侯爵夫人は
「 ダメと問うわけではございませんが・・・
とにかく、女官長にお願いしてみましょう 」
と、言ってくれたのです。
そして今日。
私は、フェロル侯爵夫人の案内の元、行きたかったこの場所に立っています。
え?
ここがどこか、まだ申しておりませんでしたね。
ここは、王宮内の西門近くにある神殿の一つ
西の神殿
なのです。
王宮の中には、後宮にある神殿とは別に、春夏秋冬の神々をお祀りした神殿がありまして。
東西南北の門の近くに、その神殿はあるのです。
春の女神をお祀りした 東の神殿 こと 春の神殿
夏の神をお祀りした 南の神殿 こと 夏の神殿
秋の女神をお祀りした 西の神殿 こと 秋の神殿
冬の神をお祀りした 北の神殿 こと 冬の神殿
の、四つです。
私が、それらの神殿に行きたかった理由は・・・
他愛もないことです。
これらの神殿は、数百年前に建てられた、歴史的に優れた建物であることと、
内部の装飾が、それはそれは美しいものだと、ある本で読んでいたからでして。
どうしても直に見たかったのですね。
もっとも今回、見学が許されたのは、西の神殿だけでしたけれど
私はうれくてなりませんでした。
だって、お正月の十日間と秋の収穫祭の期間を除けば、普段は神官と巫女、皇帝陛下以外の立ち入りが禁止されている西の神殿に、特別に入ることができるのですから。
さて。
私がフェロル侯爵夫人と西の神殿に向かいますと、神殿の門の所で聖衣をまとった護衛の巫女たちに囲まれました。
「 ここから先は聖域。
皇帝陛下以外の方は、立ち入り禁止です 」
と、言うのです。
でも、私はも皇太子殿下と神祇官の長官から、立ち入りを許すという許可証を、女官長を通していただいておりますから、それを示しますと、巫女たちは、
中に入るのが私一人のみならば・・・
と、言う条件で、中への立ち入りを許してくれました。
「 本当にお一人で大丈夫でございますか? ブランカ様 」
「 大丈夫よ、心配しないで。
第一、私、一人旅には慣れていますから 」
「 一人旅って・・・まさか・・・ブランカ様!!! 」
「 あら、フェロル侯爵夫人は知らなかったの?
私、入内する前には、お父様やお母様の許可を頂いた上で、ちょこちょこ一人旅していたのよ 」
「 はぁ・・・ 」
目を点にして驚くフェロル侯爵夫人をその場に残し、私は巫女の後について、神殿の内部へと入りました。