第六話 とりあえず・・・お目見えです
ブランカ視点のお話です
後宮に入った二日後。
私達入内した令嬢達は、新皇帝陛下 もとい 現在の皇太子殿下に初のお目見えをすることになりました。
それと言うのも、皇帝陛下は毎朝一度、後宮内にある神殿に礼拝することが決まりになっていたからでして。
その時は、いわゆる 『 お目見え以下 』 の、召使達と近習の女達を除く後宮に仕える女性たち全員が、神殿までの廊下の左右に並んで、お出迎えすることになっていたからです。
あ、『 お目見え以下 の 召使 や 近習 』 と、言いましたが、実は女性の使用人には4種類あるんですよ。
よく混同されるんですが・・・
先ず、女官
この方々は、基本的に貴族の令夫人か令嬢が就任し、
役目は女主人に行儀作法や舞踏会の時の面会相手を教える事や、話し相手、外出の際のお供、手紙や書物の朗読や代筆などです。
私の場合だと、フェロル侯爵夫人がこの役割です。
次に、侍女
下級貴族の令嬢達や、平民でも上級クラスの女性達が就任することが多く
役目は女主人の化粧や結髪、衣装の着付け、来客の取次ぎ、食事や茶菓の給仕、それに女官を連れるほどでもない場所へ女主人が出向くときのお供などです。
私の場合では、アンナがこれに当たります。
三番目は、近習
侍女同様に、下級貴族の令嬢や、平民でも上級クラスの女性達が就任することがほとんどで
役目は侍女とほとんどがかぶっており、女主人が洗面や湯浴みをする時の介添えや、化粧や結髪の手伝い、衣装の用意、食事や茶菓の給仕、女主人が外出する時の乗り物などの手配などです。
入内した私には、宮廷からこの近習の女性が二人、つけられました。
最後が、いわゆる 召使
平民の中級クラス以下の出身者 ( と、言っても、身元確認はきちんとなされていますが ) で
役目は掃除、洗濯、靴磨き、厨房から食事を運ぶこと ( 後宮では召使を含む全員の食事は、専門の厨房で調理されます ) 洗面や湯浴みの時の浴室や洗面所の支度など、雑用全般を行います。
入内した私付きの召使となったのは、四人です
さて、余計なことを話してしまいましたが・・・
皇帝陛下が行っていた毎朝の神殿への礼拝は、前皇帝陛下が崩御されたため、現在は皇太子殿下が行っておいでです。
もっとも、現在の皇太子殿下は、お父上であらせられた前皇帝陛下の喪に服しておいででございますから、神殿への礼拝は毎朝ではなく、月に3度ないし4度なのだそうです。
しかし、この 朝の礼拝 の時こそ、私達入内した貴族令嬢にとっては皇太子殿下のお目に留まるチャンスなのです。
お目に留まって、首尾よく夜のお相手を務めることが出来・・・万が一ご懐妊なんてことになりましたら、戴冠式の折に第一后妃となる可能性はぐっと高くなるのですから。
まぁ、私にとっては、
皇太子殿下に初お目見えする儀式
くらいの事でしたが。
アンナや近習の女性、フェロル侯爵夫人はやたら張り切ってしまいまして。
私を飾り立てようとします。
しかし、私は飾り立てられること自体は嫌いではありませんが、前皇帝陛下の喪中と言うことも考慮しまして。
ドレスは生地は超一級品ですが色は黒に近い物を選び、アクセサリーもシンプルな物にしました。
カラーン・・・
カラーン・・・
神殿の鐘が鳴っています。
いよいよ皇太子殿下・・・アルフォンソ皇太子殿下が、神殿に続く廊下へおいでになられるのです。
表御殿と後宮を結ぶ、唯一の門の扉。
そこから少し後宮内に入った神殿に続く廊下の左右に、私をはじめとした入内した令嬢達や女官達、侍女達が並びました。
私は女官長のクエンカ侯爵夫人の指示に従い、表御殿側から見て右手の二番目に立ちます。
鐘の音が聞こえてから、待つことしばし
アルフォンソ殿下が、廊下へと姿を現されました。
「 皇太子殿下、二日前に入内いたしました后妃候補の令嬢達が、本日よりお出迎えに加わることになりました。
どうか、お言葉をお願いいたします 」
ドレスの裾を広げ、頭を下げている私達に、クエンカ侯爵夫人の声が聞こえてきます。
「 殿下、ご紹介いたします。
ウエルバ侯爵令嬢 アデーラ・デ・ウエルバ様でこざいます 」
衣擦れの音とともに、私同様に入内した令嬢達が紹介されていきます。
「 パラカルボ侯爵令嬢 カロリーナ・デ・パラカルボ様 」
「 ウエスカ伯爵令嬢 ブランカ・デ・ウエスカ様 」
私は三番目に紹介されました。
下げていた頭を軽く上げ、皇太子殿下のお顔を拝見した後、また深くお辞儀をします。
皇太子殿下は、微笑んだまま
「 よろしく 」
と、私にお声をおかけになられ、前を通り過ぎていかれました。
ま、こんなものですよね。
初お目見えなんて。
入内した令嬢達は、私以外にも七人いるのですから。
その後、
オリウエラ伯爵令嬢 クリステイネ・デ・オリウエラ様
アビレス伯爵令嬢 コンスタシア・デ・アビレス様
リナーレス子爵令嬢 ベアトリス・デ・リナーレス様
ハエン子爵令嬢 ローサ・デ・ハエン様
ヘタフェ男爵令嬢 ソフィア・デ・ヘタフェ様
と、続きましたが・・・
皇太子殿下のお言葉は、私と全く同じものだったのです。