第四話 入内の日
宮内庁からブランカの入内許可が正式に下りた日から、ウエスカ伯爵家は、ブランカの入内に向けてにわかに慌しくなった。
ブランカの嫁入り支度は、ブランカが年頃になった15歳頃から、少しずつ進められていたのだが・・・
嫁入り先が新皇帝の後宮である。
伯爵家の対面上、恥ずかしくない支度を調えなくてはならない。
それも、ブランカをはじめとした後宮入りの許可が下りた娘達の入内の日は、どういう理由からか、
夏の終わりの某日
と、宮内庁から通達があったため、支度を調える期間は約3ヶ月しかなかった。
入内許可が下りた日に、宮内庁から渡された心得書と支度についての覚書のようなものには、
実家から後宮へ連れて行く事が出来るお付きの侍女は一名に限る
と、記載されていたので、それも選ばねばならない。
もっとも侍女については、ブランカの乳姉妹であるアンナが、自ら名乗りを上げてくれたため、困ることはなかったのだが。
食器をはじめとした銀器
陶磁器のテイーセット
お化粧道具
礼服や普段着などのドレス類
それに靴
仕立て屋や商人達が、毎日のように屋敷に出入りし、伯爵や伯爵夫人がこまごまとした指示を出していく中、ブランカだけはいつもどうりの様子で。
侍女のアンナをも遠ざけては、刺繍やレース編みなどを行って日々を過ごしていた。
一つだけ違うようになったのは、ブランカが読む本が、宮内庁から渡された
後宮での礼儀作法の指南書
と
後宮での心得書
が、多くなったことだろうか。
『 どうせうちの身分は伯爵だし・・・入内試験の時に見かけた他の令嬢みたいに皇太子殿下の第一后妃にならなければ・・・なんて事もない。
あー、楽よねー 』
日々調えられていく支度を見ながら、ブランカだけは他人事のようにそんなことを考えていた。
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やがて、時は過ぎ。
ブランカの入内の日となった。
整えられたブランカの嫁入り支度は、宮内庁の役人の確認の後、3日前に既に後宮へと送りだされていたので、この日、ブランカは身一つで後宮へ向かうこととなった。
その日。
ブランカは朝早くに起こされ、普段は母についている侍女達の手によって、香油を少したらしたお湯で体を拭かれ、ドレスを身につけさせられた。
普段はあまりしない化粧も、今日ばかりはきっちりと施されていく。
髪も何度も梳かれ、ブランカが好きな香りの香油を使って結い上げられた。
所定の時刻
ドレスの上に、旅行用のマントを羽織り、すっかり支度も整って伯爵邸の玄関に姿を現したブランカ。
「 お姉さま、綺麗!! 」
「 お姉さま、お幸せにね 」
「 ブランカ・・・つらくなったら、いつでも帰って来ていいんだよ 」
妹達や祖母のカルピア伯爵夫人と別れの言葉を交わし、両親からは軽い戒めと祝福の言葉をかけられ・・・
ブランカは、王宮から差し向けられた馬車の人となった。
向かいの席には、後宮でブランカの身の回りの世話をするアンナと
宮内庁からブランカを迎えに来た、女官のフェロル侯爵夫人が、緊張した表情で座っている。
第一后妃としての入内ならば、両親の同行が許されるのだが・・・
ブランカの入内は、あくまで
新皇帝の第一后妃候補
と、しての入内であるため、両親の同行は宮内庁から許されなかった。
「 さようなら・・・は言いません。
行って参ります 」
ブランカがそういうと、馬車のドアが閉められ
王宮に向かって、馬車は走り出した。