第三話 後宮入内試験
ウエスカ伯爵令嬢・ブランカは後宮へ入内 ( じゅだい。後宮へ入ること ) する意思がある
と、言うことが宮内庁へ返事を出してから10日ほど経った、初夏と言うにはまだ早いある日の朝。
宮内庁管轄の迎賓館の一室に、ブランカの姿があった。
いや、ブランカだけではなかった。
貴族の令嬢と思われる、数人の娘達も一緒だ。
ここで、これから後宮への入内に関する試験が行われる事になっていた。
いや、正式にはこの試験は二次試験・・・本試験とも言われるものだ。
一次試験とも言うべき予備試験は、入内の意思があると宮内庁へ出してから間もなく行われていた。
予備試験は、いわゆる書類選考と身辺調査である。
領地に重税を課してはいないか
三親等以内の身内に、大臣や司法長官など、特定の権力に直接結びついている者はいないか
財力はどうか
などが、事細かく調べられ、ふるいにかけられて。
残った令嬢が、今、ここに集められ、本試験に望むのだ。
本試験の内容は、礼儀作法や歴史、地理、外国語などの筆記試験と、
ピアノやフルート、ハープなど好きな楽器の演奏
それに歌唱である。
勿論、楽器の演奏の時は、試験会場に入ってから出て行くまでの立ち居振る舞いも試験の対象となっていた。
ブランカは、筆記試験の方は無難にこなしていた。
外国語はさっぱりだったが・・・
歴史や地理の問題ともなると、すらすらとペンを走らせた。
そして楽器の演奏なのだが・・・
ここでちょっとしたハプニングが起こった。
マンドリンを奏でる予定だった、ブランカの前の番の令嬢が、うっかりマンドリンを奏でるために必要な鼈甲のピックを忘れてしまっていたのである。
運悪く、試験会場にはお付きの侍女はつれてくることが出来ない。
「 くすん・・・くすん・・・あれがないと、マンドリンが演奏できないわ 」
令嬢は、控え室で泣いた。
「 お父様もお母様も、我が家の名誉だからって、入内を喜んでくださっているのに・・・
私が試験に失敗したら・・・
どれほどお怒りになられるか・・・ 」
くすんくすんと泣く令嬢を見てはいるのだが、他の令嬢は彼女を蔑みの目で見てはいても、助けを出すものはいなかった。
ここにいる自分以外の者、全てが、競争相手なのだから。
泣きじゃくる令嬢に、ブランカはそっと近寄った。
ブランカは一応、マンドリンの心得はある。
だから、万が一のときに備えて、ピックを持って来ていたのだ。
そのピックをそっと令嬢に差し出すと
「 これでよかったら、どうぞお使い下さい 」
と、手渡した。
令嬢は、驚いたようにブランカの顔を見ていたが、すぐに顔を明るくすると、そっとピックを受け取り
何度も頭を下げながら、ドアの向こうに消えていった。
数日後。
ウエスカ伯爵家に
ウエスカ伯爵長女 ブランカ・デ・ウエスカ を、新皇帝陛下の配偶者候補と定め、正式に後宮へお迎えする
との、宮内庁からの命令書を携えた使者がやってきた。