第二話 それは、突然に
自他共に認める 変わり者の伯爵令嬢 ブランカ・デ・ウエスカ
孤独を愛するがゆえに、舞踏会だの夜会だのにはあまり出席しなかったが、どこでブランカの姿を見かけたのか
それとも、そこそこ財力があるウエスカ伯爵の援助目的か
理由は定かではなかったが、年頃になったブランカに求婚してくる貴公子は、そこそこいた。
特に、表面上はにこやかな笑顔で舞踏会に出席した翌日などは、ブランカ宛の花や菓子、装身具などの多くのプレゼントが、手紙とともに伯爵家に届けらけれるくらいだった。
しかし・・・
ブランカは、それらの手紙に型どおりの返事をするだけにとどめていた。
勿論、ブランカ自身もわかっているのだ。
自分が早く嫁がねば、四人の妹達の縁組に支障が出る事くらいは。
でも、かなりの恋愛小説を読みこなしていたブランカにとって、
恋愛とか結婚
などと言うものに、いまひとつ興味がわかず、求婚してくる貴公子たちを
異性
としてみることは出来なかった。
ブランカが20歳になり、そろそろ両親もブランカの結婚の事を本気で悩むようになってきていた、ある年の初め。
前年の夏に第一后妃を失って以来、病の床に臥されていた皇帝陛下が崩御なされた。
第一后妃の後を追うような、皇帝陛下の崩御。
皇族は、一年の間
それ以外の貴族や平民は、二ヶ月の間、それぞれ喪に服すよう、お触れが出、
崩御から一ヶ月後に、盛大な葬儀が行われる。
政務を滞らせるわけにはいかなかったから、崩御の三日後に皇太子は、践祚<<せんそ>> ( 皇帝が崩御なされた後、皇太子が即位までの間、皇太子の身分のまま政務を執ること ) なされ、皇太子の身分のまま政務を執られるようになられる。
皇太子が正式に皇帝として即位する戴冠式は、前皇帝の喪が明ける一年後の春と定められ、
同時に、新皇帝・・・つまり、現皇太子の後宮つくりが始められた。
皇帝の戴冠式と第一后妃の戴冠式を別々に行うことは、財政面から見ても無駄が多い。
それならば、同時に行ってしまえ・・・
と、言うわけである。
新皇帝の後宮つくり
後宮をはじめとした宮廷内部の事を司る宮内庁は、早速、新皇帝の正室と側室にふさわしい女性を集めるため、13歳 ~ 24歳までの娘がいる貴族の元に、娘の後宮入りを進める手紙を発送した。
その中に、勿論、ブランカの後宮入りを進めるウエスカ伯爵宛の手紙もあった。
ブランカの事は宮廷内でも評判になっていたから、知らないはずはないのだが・・・
一人の役人が
「 もしや新皇帝は、変わり者の娘をご所望かも知れませんぞ 」
と、言ったことから、ブランカにも後宮入りのチャンスが与えられることとなったのである。
朝食の席で、前触れもなく両親からその話を聞いた時。
ブランカは少し驚いたが、
「 お父様、そのお話、進めて下さいませんか? 」
と、返事をしたのだ。
食後のコーヒーを飲んでいたウエスカ伯爵・パブロは、カップをソーサーの上に戻すと
「 本当にいいのか? ブランカ 」
と、問い返す。
ブランカは、パンに手を伸ばしながら
「 私はいずれ嫁がねばならないのでしょう?
でしたら、後宮だろうがどこかの侯爵様だろうが同じではありませんか 」
と、笑いながら言う。
伯爵は満足そうに頷くと、隣に座ってフルーツを食べていた伯爵夫人・ナターリアに向かって
「 ブランカが承知したのならば、ナターリアもいいね 」
と、念を押すように言った。
「 わぁ・・・お姉さま、后妃様になるんだ 」
「 ねぇ、后妃様になったら、私も宮廷に招いてよね、ね 」
ブランカの妹達が、口々にはやし立てる。
「 これこれ、まだ本当に決まったわけではありませんよ。
後宮入りするためには、これからいくつかの試験があるのですから 」
ナターリアがたしなめたが、妹達の騒ぎはなかなか収まらない。
そんな中、ブランカは全く別の事を考えていた。
『 これで・・・ようやく一人で好きなことが出来るわ・・・』
と。